<寄稿>面縦腹背の金正日訪中
柳東烈(治安政策研究所安保対策室先任研究官)
甘言で演出する政治劇…物乞い外交より対南誠意を
北韓の金正日国防委員長が5月20〜26日まで、胡錦濤中国共産党総書記兼国家主席の招請形式で中国を非公式訪問した。
金正日は7日間、専用列車を利用し、黒竜江省牡丹江と吉林省長春、江蘇省の揚州と南京など主要都市を訪問して産業現場などを視察した。訪中6日目の25日には北京に到着、胡錦濤国家主席と首脳会談を行い、26日に帰還の途についたことが確認された。
中国の新華社通信と北韓の朝鮮中央通信の訪中報道を総合してみると、金正日が全世界を相手に政治ショーを演出していることがわかる。
◆緊張あおる主犯
第1に、金正日は中国の産業現場を視察し「中国の改革・開放政策が正しかった。開発の過程が躍動的だった」と語ったという。金正日は2001年1月に中国を訪問した時も、上海を視察しながら天地開闢を云々して中国共産党の改革・開放に支持を送った。当時、国内および西側言論は北韓の改革・開放を期待したが、金正日は改革・開放の道を拒否したまま、首領唯一独裁体制を強化したことがある。
2001年2月15日付の労働新聞は「我々の社会主義は揺るがない」と題する論評で、「我々はいかなる改革と開放にも興味を持たず、肯んずることはない。改革・開放はとんでもない夢だ」と強調した。
主体革命思想に基盤を有する金正日集団が健在である限り、北韓が首領唯一独裁と社会主義閉鎖経済体制を放棄して改革・開放に出てくるものと期待することが愚かであることを示すものだ。
第2に、金正日は北・中首脳会談で、「韓半島の情勢緩和を希望し、韓半島非核化目標を堅持していく。6者会談の早期再開を主張する」などと明らかにしながら、「南北関係改善のために誠意を持ち続けている」と語ったという。
まさしく牛が寝て笑うことではないか? 韓半島の緊張を高め、南北関係を破綻させた主犯は誰か? 反文明的な天安艦事件と延坪島砲撃挑発を起こしても、是認も謝罪もしないどころか、逆に我々の側のねつ造劇だと繰り返すだけの破廉恥な行動をとりながら、韓半島情勢の緩和を云々し、関係改善を語れるだろうか?
さらに、6者会談をぶち壊して出て行ったのは誰か。北韓は2003年から始まった6者会談に応じながら、数回にわたり核廃棄を約束したが、あれこれ弁解しながらこれを履行せずに時間だけ引き延ばし、結局は2度の核実験を通じて6者会談を無用の長物とし、非核化を拒否したことがある。
したがって、金正日が非核化云々して6者会談を早期再開しようと言及したことは、一種の詐欺ショーを行ったにすぎない。
◆天安艦で謝罪を
北韓が昨年、天安艦爆沈と延坪島砲撃挑発事件で国際的に孤立し、国連および国際社会の対北経済制裁措置で困難を極めている状況であることを考慮すれば、金正日の今回の中国訪問は多分に意図的な歩み寄りと見られる。
すなわち、①北・中友好関係を全世界に誇示し、②中国の産業現場を視察して北韓が改革・開放の道を模索するかのように演出し、③6者会談復帰と南北関係改善の努力を示し、④反対給付で中国の経済支援を受け取ろうとするものだ。
金正日が本当に韓半島の情勢緩和と南北関係改善を望むのであれば、また生活苦にあえぐ北韓住民を考えるのであれば、中国を訪問して物乞い外交ショーをするのではなく、韓国政府と国民に心から天安艦・延坪島事件と関連して謝罪を行い、経済支援を要請すべきだ。
それこそ百回の言葉より、真実味のある行動の重要性を示すものではないだろうか。