朝鮮総連は10日、前日の中央委員会に続いて「総連の新たな全盛期を開くための中央熱誠者大会」を開いた。この間の「90日運動」を総括し、2012年に向けた組織強化の起点とするものだ。「強盛大国」の大門を開くと豪語する北韓独裁に歩調を合わせ、韓国の国会議員選挙(4月)、大統領選挙(12月)に向け影響力を強めたいとの狙いがある。熱誠者大会から何が見えるのか、南昇祐副議長の報告(要旨=7月15日付朝鮮新報)を中心に吟味する。
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「90日運動」の目的と成果−
生徒減、歯止めなく…朝大卒業者の参与も希薄
3月1日にスタートした「90日運動」で、総連が内部的に掲げていた主要目標は、次の通りだ。
①基礎組織(分会)の80%を活性化する②支部単位の宣伝教養事業体系の確立とその運用で、専任活動家学習班を100%正常化させ、70%以上の非専任活動家学習班を月1回運営し、5戸担当宣伝員体系を正常稼働させる③学生減少傾向を阻止し、逆転させる事業に中心を置く④各年代の朝鮮学校卒業生を余すことなく探し出し、連携を持つ⑤地域青商会を余すことなく組織し、彼らを支部と分会、学校事業の主役とする⑥地域単位における民族団合事業と祖国の強盛大国建設に特色ある寄与ができる事業を行う。
南副議長の報告では、岐阜県青商会が1500人参加の「ウリ民族フォーラム」(7月3日)を開催するに先立ち、県下528戸の同胞宅を訪問し、会員を2・1倍に拡大したこと、大阪・東成地域青商会が1千余人の参加する「フォーラム」を開いたことなど、⑤関連の青商会主体の親睦行事の成功が強調されている半面、他の目標に対する「成果」が具体的に示されていない。
肝心な「学生減少傾向を逆転させる」事業でさえ、「15の朝鮮学校で、来学年度の目標生徒数を達成し、多くの学校で引き続き生徒数を増やす」としているものの、数字としては「四国朝鮮初中級学校の生徒数を7人増やした」とあるだけだ。ちなみに、今年度の朝鮮学校の生徒数は7000人を切った。減少傾向に歯止めはかからず、報告を見る限り「逆転」は遠のいている。
新聞発表の要旨とはいえ、報告が重要な成果を外すことはない。それだけに、目標の①、②、⑥については言及がなく、すべて「活動を一段高いレベルに引き上げ、新たな全盛期の形を整えた」といった表現で済ませていること自体、運動の低調さを物語る。①の関連では、大阪・東成支部の委員長が討論で、6個分会のうち3つを「大きく活性化させ」たと発表したに過ぎない。
④についても報告では、「朝鮮学校の卒業生は11万人にのぼり、朝鮮大学校の卒業生だけでも1万5千人を数える」とした上で、大阪・東成支部は朝大卒業生を「積極的に探し出し、(中略)会合を開いて呼びかけた結果、みなが支部をはじめ基礎組織の活動へ積極的に参加することを誓い合った」と自賛するにとどまった。東成支部では、支部管下に居住する102人の朝鮮大学校卒業生のうち61人を集めて会合を持ったという。
南副議長の報告や東成委員長の発表はむしろ、朝鮮学校や朝鮮大学校の出身者が数多くいながら、総連から離脱するか、関係を希薄にしている現実を浮かび上がらせた。
総連の事情に詳しい筋は、「中央委と熱誠者大会は当初、6月4日と5日に開かれるはずだった」とし、「1カ月遅れとなったのは、東日本大震災の影響もあったが、『90日運動』の成果が思わしくなかったからだ。そこで、盛り上げを図るため、全国が支援して岐阜で青商フォーラムを開いた」と語る。
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笛吹けど踊らぬ同胞…韓国選挙と民族団結事業
報告は後半で、「李明博逆徒は、反民族的かつ反統一的な言動と北南関係を戦争瀬戸際にまで陥れた許しがたい行為によって、南朝鮮人民に糾弾され、完全に孤立している」とし、「私たちは、李明博逆徒の売国・排族的悪行を余すところなく暴露、糾弾し、地域単位で民団同胞たちとの民族的団結事業を積極的に繰り広げ、統一愛国勢力を引き続き拡大させていく」と強調した。
北韓独裁に毅然と対応する勢力の孤立を図る運動と、そのための民団工作を提起したことになる。先の事情通は、「総連が一般大会で、韓国の政権を名指しで非難する例は少ない。こうした主張は、総連のダミーである韓統連(在日韓国民主統一連合)に代行させてきた」と述べ、「それだけ、来年に迫った韓国の2大選挙を重視し、水面下の工作を強化しようとの意図を込めたもの」と指摘した。
韓国の国籍を取得しながら、総連の活動に携わるか、関係を断ち切れない同胞は少なくない。総連は、自らの影響下にある韓国籍同胞を最大限動員し、2大選挙を通して従北もしくは親北政権の登場を画策しており、すでに数値目標を掲げたとの情報もある。
これについても事情通は、「笛を吹き太鼓を叩いても、総連の同胞たちはそう簡単には踊らない。東京はまだしも、中央への反発が強い大阪や現地の事情を優先する地方組織は特にそうだ。むしろ、人民を飢えさせ3代世襲まで進める北の言いなりになる総連中央の、そのまた言いなりになることへの嫌悪感は、想像以上に強い」と断言する。
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独裁世襲3代目の公式化…なぜか言及なし
今回の熱誠者大会には、また違った注目点があった。昨年9月、北韓が公にした3代目・金正恩への世襲問題に関連し、何らかの動きを示すのではないか、との見方があったからだ。しかし、公にされた報告や討論にはその片鱗すら窺えない。
総連は「『90日運動』目標達成の明確な実績で中央熱誠者大会を輝かそう」との論説(6月29日付朝鮮新報)で、「白頭(山)で切り開かれた主体偉業が新しい段階に入って以降、初めて持たれる今回の中央熱誠者大会を、過去にはなかった重大な歴史的意義を持ち、在日朝鮮人運動の前途を左右する重要な大会」と意義づけていた。
時系列から見て、「主体偉業が新しい段階に入って以降、初めて」は、「3代目が決定されてから初めて」の意味に解釈でき、「過去にはなかった重大な歴史的意義」もそれを補強するものだ。総連は間違いなく、公式に言及する予定だった。
金正日が後継者として登場した1980年以降、総連も「親愛なる指導者同志」との名称で2代目を率先して公然化した。したがって、3代目が指名されていながら、その人物を窺わせる表現が一切ないのは逆に、不自然というほかない。
総連内部に時期尚早論があるとしても(総連の事情など意に介されないことから)、それが理由にはならない。総連指導部の先走りに過ぎなかったのか、あるいは、金正日の心変わりがあって急遽、取りやめになったのか。
2代目世襲の際は、当事者の金正日が自ら世襲合理化の論理を構築し、合わせて実権を掌握していった。はっきりしているのは、3代目は2代目のようにはさせてもらえない、ということだ。独裁権力の移行が持つ残酷さを最もよく知る金正日にとって、バトンタッチのタイミングは極めて難しいのだ。
熱誠者大会の経緯は図らずも、3代目世襲はまかり間違っても、2代目の時のようにはいかない、と言う当たり前のことを示すことになった。
(2011.7.27 民団新聞)