非公開処刑増える…強制送還女性に酷い仕打ち
韓国の統一研究院が発行した『北韓人権白書2010』の日本語版がこのほど、特定非営利活動法人「北朝鮮難民救援基金」(加藤博理事長)の翻訳によって出版された。同基金では、予算の都合で印刷部数が少ないため、北朝鮮難民救援基金のWebサイトにアクセスし、E‐bookとして読むか、ダウンロードして欲しい、と告知している。
統一研究院は1994年、北韓人権資料を体系的に管理する北韓人権研究センターを設置し、脱北者に対する面接調査を周期的に実施してきた。専門家によるその調査を基礎にデータベースを構築するとともに、96年から毎年、韓国語と英語で同『白書』を刊行し、北韓の人権状況に対する国内外の関心を高めてきた。日本語版は初めて。
同種の白書や報告はこれまで、大韓弁護士協会、北韓人権データベースセンター、国連人権理事会などが発行している。統一研究院の白書は中でも、最も歴史があり、政府機関だけに情報量も多いと評価されてきた。今回の10年版も、09年までに韓国入りした脱北者からの最新情報と、国内外の関連資料を比較・検証して作成された。
北韓は一党独裁ならぬ個人支配体制にあり、徹底した個人崇拝、一元的イデオロギー、軍隊と公安機関による物理的抑圧と統制がそれを支えてきた。逆に言えば、独裁を世襲化し、住民たちの人権を蹂躙する構造を徹底することでしか生き残れない、極度に全体主義的な体制にある。
北韓は09年4月、改定憲法の8条で「人権尊重」を国家の義務に加えたが、国際社会に向けたポーズに過ぎない。同じ憲法で「先軍思想」を公式な統治理念に追加し、国防委員長を制度化して、軍事優先路線をより拡大しつつ人権抑圧をむしろ強化した。
悪名高い公開処刑も引き続き行われており、その対象として麻薬密売、人身売買などの犯罪だけでなく、離散家族再会依頼のための韓国側人士との接触行為も増えている。公開処刑の回数は減っているとの証言もあるが、これは国際社会の圧力を意識したためで、必然的に非公開による処刑の増加につながった実態が明らかになっている。
住民に直接恐怖心を与える見せしめ目的の現地公開裁判も増え、強制追放の理由も、外部放送の視聴、国境地域での中国の携帯電話使用、韓国製ビデオの流通・視聴などと多様化した。外部情報の流入による思想統制の瓦解に神経を尖らせている証だ。
全般的に、住民統制制度を非公式な手段で回避しようとするケースが急増している。体制維持のため統制を強化すれば、反発や逸脱行為が増え、より統制を強化してさらに人権を踏みにじる、という構図が深刻だ。
国境近辺や平壌など特殊地域に対する統制が厳しくなっているなか、公式手続きによって旅行証の発給を受ける事例は減少し、賄賂を渡して旅行証を入手する現象が一般化した。一昨年の貨幣改革の失敗で、最貧困層に転落する住民が多く、やむなく住居を手放すことで非公式の住宅売買を広げ、それが非公式な次元で居住移転の規制が自ずと一部緩和されるという事態を生んでいる。
白書には、すでに各種報道で明らかになった事実も収録されている。だが、住民生活の全分野にまたがって体系的に整理されており、北韓の悲惨な人権状況についてはよく知っている、と思っている人ほど目を通すべき価値がある。
教化所、勾留場、労働鍛錬隊、集結所などの拘禁施設での暴力なども改善されていない。特に、「北韓離脱住民の証言を通して見た強制送還妊婦女性の人権侵害事例」に網羅された妊娠女性に対する強制堕胎行為などの仕打ちは、読むだけで怖気をふるう。
(2011.7.27 民団新聞)