「横浜教科書研」一国至上主義を批判…「近現代編」も発行
【神奈川】「横浜教科書研究会」は、授業で『新編 新しい歴史教科書』(自由社版)を使うことになった横浜市の教員を主な対象に、既存の教科書をまかなう教材研究の参考資料として「自由社版『新編 新しい歴史教科書』でどう教えるのか‐近現代編‐VOL3」(A4版149頁)をこのほど発行した。同冊子は偏狭なナショナリズムに固執して近隣のアジア諸国をおとしめる独善的な記述内容を具体的に批判。生徒たちに教える際の注意点、アドバイスなどを最新の歴史研究の成果を踏まえて掲載している。
自由社版『新編 新しい歴史教科書』は昨春から横浜市内18区中8区で使用されている。危機感を抱いた「横浜教科書研究会」が神奈川歴史教育協議会メンバーと大学の歴史研究者に呼びかけて09年11月から編纂を始めた。できあがった冊子は横浜市内の全中学校に無料で配布している。
序論といくつかのコラムを取り上げたVOL1は昨年4月、同じく原始・古代・中世・近世を対象にしたVOL2は同年7月に発行した。今年7月の近現代編は発行まで1年をかけた労作。協力金・カンパを募り各パートとも2000部ずつ印刷した。
横浜教科書研究会は、「自由社版を採択されてしまい、授業で使わざるを得ず困っている現場の教師のため、歴教協などの日頃の実践をふまえてまとめた。教科書問題に関心を持つ方々を中心に全国から引き合いがある」と話している。
横浜教科書研究会は1部800円以上の協力金で配布している。連絡先は横浜国立大学教育人間科学部歴史学研究室(yokohamakyokasyo@yahoo.co.jp)
▼冊子から
自由社版教科書で目立つのは朝鮮や中国のマイナス点をことさら強調し、反対に日本の優位性を強調した点。
日本の明治維新を扱った項では、「武士の犠牲による改革」が成功の要因と称え、中華思想の有無に「中国・朝鮮と日本の分かれ目」(148㌻)を求めた。これは果たして正しい説明なのだろうか。自国を中心とし周辺諸民族を見下す華夷意識は幕末維新期、日本を含む東アジア共通の考え方であった。むしろ、欧米に首根っこを押さえられていた日本にこそ朝鮮・中国を蔑視する尊大な華夷意識が生まれてきたと冊子は指摘している。
朝鮮は1871年、開港を求めて長崎から出港したアメリカ軍船を江華島とその周辺海域で撃退したように「文官の支配する弱い国だったというわけではない」(同冊子)。
日本が朝米戦争の4年後、江華島事件を機に朝鮮に対して不平等条約を押しつけることができたのは、イギリスの力を背にしたからこそ。「ヨーロッパの強国をモデルとする脱亜の道は〞奪亜〟の道でもあった」と同冊子は明確だ。
▼近代化誰のため…韓国併合
自由社版教科書は日清、日露戦争で勝利したことを「欧米列強の圧力のもとで独立を維持」「日本の国際的地位は向上し」と誇る。同冊子は国際的地位の向上につながったのは事実としながら「独立維持のための戦争との記述は誤り」「イギリスなどの支援を受けた台湾・樺太・朝鮮・満州などの支配をめぐる戦争であったという認識がまったく欠如している」と批判。
自由社版教科書は「韓国併合と辛亥革命」の項で、朝鮮総督府が植民地政策の一環として鉄道・灌漑など一定の「近代化政策」を実施したと記述している。しかし、植民地支配下の開発が日本の利益のために行われた事実は明記されていない。
同冊子は「鉄道には兵隊を運ぶ軍事上の目的が、灌漑設備には米を増産して工業化の進む日本本土の食料にあてるという目的があった」「土地調査事業は朝鮮の土地制度を破壊し、総督府を最大の地主に成長させ、韓国農民が『米』を食べられない状況をつくり、このため日本への移住も増え、在日朝鮮人形成の原因をつくった」と指摘している。
▼噂の根拠示さず…関東大震災
自由社版教科書は関東大震災の記述についても問題がある。朝鮮人虐殺の項では朝鮮人が井戸に毒を入れたとする噂の根拠を示さず、「朝鮮人の不穏な動き」も否定していない。同冊子は「横浜市内の宝生寺や蓮勝寺など横浜市内の朝鮮人犠牲者碑を調べることで虐殺の実態を知ることができる」と「アドバイス」している。
(2011.7.27 民団新聞)