掲載日 : [2017-11-15] 照会数 : 5560
訪ねてみたい韓国の駅<17>京釜線 院洞
[ 現在の駅舎は1988年に竣工した ] [ ハリーズコーヒーからは抜群のトレイン&リバービューを楽しめる ]
リバービューの「秘境駅」
釜山駅から京釜線の「ムグンファ号」に乗ると、市街を出てまもなく、左手から洛東江が寄り添ってくる。太白山脈に源を発した洛東江は、安東や亀尾を通って、釜山の西で南海に注ぐ。河口に近いこのあたりは川幅も広く、雄大さとのどかさを兼ね備えた景観が美しい。
やがて、列車は院洞(ウォンドン)駅に到着する。釜山駅からわずか40分。洛東江のほとりにたたずむ、小さな駅だ。
院洞は、南を洛東江、北を標高855メートルの土谷山に挟まれた狭い集落だ。バスは列車に接続して奥の小さな集落に向かう郡内バスが2系統あるだけで、公共交通は今でも鉄道が頼りである。だが、約40往復ある列車のうち、院洞駅に停車するのは上り(ソウル方面)が10本、下り(釜山方面)9本だけ。釜山駅からわずか約40分とは信じられない、都会近くの「秘境駅」だ。
昨年末、ここ院洞に新たなスポットが登場した。駅から南へ徒歩5分ほどの場所にオープンした、大手チェーン店のハリーズコーヒー梁山院洞店。洛東江の雄大な流れを一望できるリバービューのカフェで、手前を走る京釜線のレールもよく見えるのが素晴らしい。とうとうと流れる洛東江を背景に、懐かしいディーゼル機関車が牽引する「ムグンファ号」をはじめ新旧様々な列車の走りを楽しむことができる。これほどのトレインビュースポットは、日本にもなかなかない。屋上にも客席があり、床が透明アクリルで空中に浮かんでいるような気分を味わえる、スリル満点の展望スポットもある。
カフェで絶景を楽しんだら、駅の北側も歩いてみよう。集落はこちらにあり、慶尚道名物のテジクッパ(豚クッパ)が食べられる手軽な食堂もある。狭い路地を入ると、そこは地元の人々によって壁にカラフルなイラストが描かれた「漫画横丁」。どこかで見たようなキャラクターもいて楽しい。
雨天時には水路となるアンダーパスをくぐると、洛東江のほとりを通るサイクリングロードに出ることができる。ここは国内有数のサイクリングロードだ。ここから眺める洛東江や列車の眺めも素晴らしい。
韓国の素朴な自然と田舎町の魅力を備えた院洞の集落。釜山から40分で来られるということは、日本から手軽に訪れられるということでもある。去る11月10〜12日には、下関と釜山を結ぶ関釜フェリーを利用した、院洞駅訪問ツアーが初めて開催された。フェリーに往復2泊し、中1日を丸々院洞駅滞在に充てるというユニークな「秘境駅撮影ツアー」で、下関周辺だけでなく、岡山や東京から12人が参加した。ツアー会社によれば、JRのクルーズトレインを撮影する人の多さからヒントを得たとのことだが、蓋を開けてみれば、鉄道ファンだけでなく韓国旅行に慣れたリピーターの参加もあった。鉄道に興味がなくても、韓国の地方をのんびり手軽に楽しめたという。
院洞駅を訪れるなら、釜山駅9時17分発のソウル行き「ムグンファ1210列車」に乗ると良い。カフェからの眺めや町の散策を楽しみ、院洞11時58分発か15時28分の釜田行き「ムグンファ1952/1954列車」で戻れば、釜山の繁華街・西面の近くに戻れる。ソウルや釜山とはひと味違った韓国の風景を体験してみてはいかが。
栗原景(フォトライター)
(2017.11.15 民団新聞)