掲載日 : [2018-01-17] 照会数 : 5677
訪ねてみたい韓国の駅<21>全羅線 書道
[ 開業時の姿を再現した旧書道駅。1㎞ほど離れた所には崔明姫文学館もある ] [ 実質2年で閉鎖された現在の書道駅。南原市内からは523番バスが1日5本運行されている ]
2つの駅舎、皮肉な運命
12月のある朝、全羅北道南原市内のバス停から、ロボン行きの市内バスに乗った。バス停には時刻表が記載され、ぴったり時間通りにバスが来るのは、地方都市ならでは。国道17号線を北上し、南原に伝わる民話にちなんだ春香トンネルを抜けると、小さな道に入った。離合するのがやっとの細い舗装道路。田んぼや高麗人参畑の間に点在する小さな集落をまわっていく。集落の入口には、「○○マウル(村)」と書かれた石碑があり、バス停のポールすらない場所に、どこからともなくおばちゃんが現れては、ぱらぱらと乗り降りしていく。顔なじみも多いらしく、おばあちゃん、今日はどこへ行くのといった会話も聞こえてくる。
やがて、道路の下に古い線路が見えてきた。
「お客さん、ここで降りるといい」
運転手に促されて降りたのは、人通りのない三叉路。林の向こうに、数軒の民家が見えている。歩いていくと、古い木造駅舎が現れた。切妻式の瓦屋根は、まるで日本の地方の駅を見ているようだ。
全羅線、書道(ソド)駅。構内には、線路脇に旧式の信号切替レバーが並んでいる。だが、列車が来る気配は感じられない。
ここは、2002年、全羅線の線形改良によって移転・廃止となった旧駅舎である。益山から全州、南原を経由して麗水に至る全羅線は、カーブが多く、極端に時間がかかる路線だった。そこで、高架橋とトンネルを主体とした直線的な新線を新たに建設、抜本的なスピードアップを図ったのである。近年、こうした高速化が各地で行われているが、全羅線はそのはしりと言える。
廃止された旧書道駅は、文化財に登録されることもなく速やかに撤去される予定だった。しかし、全州出身の小説家、崔明姫による大河小説「魂火」の舞台となったことから、地元南原市が敷地と設備を約3億ウォンで購入。5億ウォンかけて1932年の開業当時の姿を復元し、記念公園として一般に開放した。現在では、映画やドラマの撮影にもたびたび使用されている。
保線作業員の詰所や、タブレット(ある区間の走行を許可する通行証)の授受機も保存されており、今にも列車が走ってきそうな雰囲気だ。壁面をモルタル塗りにせず、シンプルな切妻屋根の木造駅舎も韓国では珍しい。駅舎内に、観光客による落書きが目立つのが惜しい。
集落の反対側には、新幹線かと思うような立派な高架線が見える。あちらが、現在の全羅線だ。在来線規格ながらも最高速度は時速160㎞で、高速鉄道KTXや観光列車のS‐TRAIN(南道海洋観光列車)も運行されている。
立派なコンクリートの駅舎は、2002年の線路移設時に開業した現在の書道駅だ。だが、あちらにも今は列車が1本も停車しない。移転開業からわずか2年後の2004年に旅客取扱を中止。2008年には、運転関係の職員も撤収し駅員無配置駅となったからだ。登録上は今も現役の駅だが、駅舎入口は封鎖され、立ち入ることはできない。
お昼が近づき、旧駅にちらほらと観光客の姿が見えるようになってきた。皆、車で駅舎や線路をスマホやカメラで撮っていく。
封鎖された新駅と、今も人が訪れる旧駅。2つの書道駅は、実に対照的だ。
原景(フォトライター)
(2018.1.17 民団新聞)