掲載日 : [2018-01-31] 照会数 : 8310
訪ねてみたい韓国の駅<22>KTX京江線 江陵
[ 開業1カ月で延べ30万人以上が利用した江陵駅。授乳室やカフェなども併設されている
] [ 2006年の江陵駅。かつては、広々とした駅前広場を備えている駅が多かった。画面の右端付近が現在の新駅舎がある位置 ]
高速鉄道で終着駅大変身
「まもなく、この列車の終着駅、江陵に到着します」
高速鉄道の列車が、終着・江陵駅に近づいた。時刻は11時56分。ソウル駅を発車したのが10時01分だったから、まだ2時間も経っていない。なんという速さだろう。本当に、江陵にやって来たのだろうか。
2017年12月22日、平昌オリンピックのアクセス鉄道となる、KTX京江線西原州〜江陵間120・2キロが開業。ソウルからKTXが最高時速250キロで走り始めた。ソウル〜西原州間は既存の在来線である中央線を経由し、ソウル〜江陵間の所要時間は、最速1時間53分。従来、高速バスで2時間50分、在来線の列車では実に5時間40分かかっていたところ、革命的な高速化を果たした。
筆者が初めて江陵駅を訪れたのは、20年ほど前の1997年のことだ。当時の江陵駅は、江原道の東海岸に位置する嶺東線の終着駅。ソウルの東玄関・清凉里駅からは、「ムグンファ号」で実に7時間を要した。列車に乗ることが目的だったので夜行列車を選択し、その頃すでに珍しかった寝台車を利用した。
清凉里駅を深夜0時前に発車した夜行「ムグンファ号」は、翌朝6時過ぎに江陵駅に到着した。旅客用ホームの周囲に、貨物列車用の側線が何本も並ぶ、広々とした構内。コンクリート平屋建ての駅舎を出ると、何百人も集まれそうな駅前広場の周囲に、団体用待合所や丸い洗面台が並んでいた。蒸気機関車時代の名残だろう。その向こうには、数軒の駅前食堂。洗面台で顔を洗い、食堂で温かいテンジャンチゲをいただいた。駅周辺を散策し、タクシーで江陵空港(現在は軍専用)へ。1日2本のアシアナ航空便で金浦空港へ戻った。江陵は、夜行列車と飛行機ではるばる訪れる町だったのだ。
新たに開業した高速鉄道の江陵駅は、旧江陵駅とほぼ同じ場所にある。しかし、駅にかつての面影は全くない。ホームは半地下の堀割に設けられ、エスカレーターを上がると円筒状の新駅舎へ。オリンピック・パラリンピックマスコットのスホランとバンダビが迎えてくれるコンコースには、観光案内所やレンタカー受付カウンターなどが並んでいる。「きっぷ売場」は、クレジットカード対応の自動販売機だけ。駅員からきっぷを購入する場合は、「顧客支援室」を利用する。ネット予約が当たり前となった、現代流のスタイルだ。トイレの入口に、各個室の使用状況を表示するモニターが設置されているのもユニークだ。オリンピックを前に、江陵駅はすっかり装いを新たにした。
駅前広場に出ると、道路を隔てた反対側でオリンピックに向けた施設の工事が進んでいた。各種イベントなどを行うのだろう。その片隅の古い階段に、見覚えがあった。かつて立ち寄った駅前食堂に降りる階段だ。工事用の壁の隙間から覗くと、20年前の朝、テンジャンチゲを食べた食堂が、ひっそりと解体を待っていた。オリンピック開幕の頃には、きっと跡形もなくなっていることだろう。
江陵では、フィギュアスケートやアイスホッケー、ショートトラックなどの氷上競技が開催される。アイスアリーナなどがある江陵オリンピックパークは徒歩10分だ。
平昌オリンピックの開幕まであと9日。筆者も、日本代表と韓国代表を、おおいに応援するつもりだ。
栗原景(フォトライター)
(2018.1.31 民団新聞)