掲載日 : [2018-10-22] 照会数 : 6739
【寄稿】北は変わらねばならない
◆北の核兵器廃棄は恩恵ではない
戦後冷戦体制の成立から現在に至るまで、北はソ連と中国の核の傘の下で、また韓国は米国の核の傘によってそれぞれの安全保障を維持されてきた。また、後述するように、1992年以降、韓国には核兵器は存在しない。
核・ミサイル開発のために北の経済発展は遅れ、南北間の軍事的緊張も異常に高められた。したがって、いかなる意味でも北の核兵器は不必要なものだった。国際的制裁強化の結果、北当局はみずから「核兵器開発の放棄」を提案するに至った。北の核兵器廃棄はけっして「恩恵」ではない。
今から27年前の1991年、南北間で「南北基本合意書」と「半島非核化共同宣言」が結ばれた。翌1992年には、在韓米軍の戦術核兵器が韓半島から撤去された。互いに南北間の平和と非核化を誓った前年の合意にもとづく、善意の対応だった。だが、平壤政権は一方で和平交渉を進めながら、一方でひそかに核開発を続けていた。そして、1993年の「第一次北核危機」から現在の局面に至ったのだった。
◆持続的な対南軍事侵略活動の記憶
韓半島の軍事的緊張はいつでも北側から演出されてきた。革命と統一を口実とした平壤政権の対南軍事挑発の歴史は、その独裁の歴史と共に長い。1950年には、「6.25動乱」、1968年には「1.21ゲリラ南派」、1983年には「ビルマ・ラングーン爆破事件」、1987年には「大韓航空機爆破テロ」と、北の侵略的軍事行動とテロは続き、多くの人命被害をもたらした。
そして2006年の第1回核実験ののち、2010年には「天安艦爆沈事件」「延坪島砲撃」が引き起こされ、凄惨な軍事挑発行動は途切れることなく続いてきた。だがもし、北が本当に「普通の国」づくりに転じ、対外的にも体内的にも平和的な国家に生まれ変わるのなら、過去は過去として、きっぱり忘却されるべきだろう。
平和の価値は尊く、民族再統一への希望を捨てることはできないからだ。また、北側の方法論は間違っていたにしても、冷戦時代の対決構造は南北双方に暴力的傾斜を作り出していたからだ。
◆何のために北を救済すべきか
しかしながら、こうした大転換が言葉だけで成し遂げられるとは誰も考えないだろう。いったん、北の核放棄の意志が本物だと信じてみよう。そして、当面の事態かすべて平壤の望み通りに進むとしよう。
国際的な制裁が解除され、北に対する韓国からの莫大な支援も実行に移されたとする。さて、それから北はどうするのだろう。北は、外部と共に内部の開放を進めるのだろうか。北は民主主義のルールに従って平和的な構造改革を進めるのであろうか。それとも、韓国側が和解と武装解除に踏み切ったあとも、北は「首領様の国」として独善的にふるまい続けるのであろうか。だとすれば、北が救済されるべき理由はいったいどこにあるのだろう。
◆北の憲法と労働党規約の中身
北の「憲法」はその前文で、「朝鮮民主主義人民共和国と朝鮮人民は偉大な金日成同志と金正日同志をチュチェ朝鮮の永遠なる領袖として仰ぎ、朝鮮労働党の指導のもとに、金日成同志と金正日同志の思想と業績を擁護、固守し、継承、発展させて、チュチェの革命偉業をあくまで達成していくであろう」と定めている。
韓国の憲法は議会制民主主義を標榜し、あらゆる思想の共存を前提しているが、北の憲法は、虚妄な「チュチェ思想」以外は認めていないのだ。また、朝鮮労働党規約はその前文で、「朝鮮労働党の当面目的は共和国北側で社会主義強盛大国を建設し、全国的範囲で民族解放民主主義革命の課題を遂行するところにあり、最終目的はすべての社会を主体思想化し、人民大衆の自主性を完全に実現するところにある」と明示している。
朝鮮労働党規約は、「すべての社会を主体思想化」することを「最終目標」としているのだ。そして、この「すべての社会」には韓国も含まれる。いわゆる「赤化統一」が目標とされているのだ。
◆核兵器を取引材料にしてはならない
これらの「憲法」や「規約」における彼らの立場は、今後も変わらないのであろうか。だとすれば、これまでも「人道支援」を続けてきた国際社会は、制裁をゆるめて北を助ける理由をどう納得すればいいのだろうか。
また韓国国民は、総額十兆円ともいわれる膨大な対北支援の出費に耐える理由を、どこに求めればいいのだろうか。韓国側の一方的な経済的負担を、「同じ民族同士」というだけでは説明できまい。
北の非核化意志を信じるとしてもなお、これだけの重大な疑問が残る。まして、北が核兵器を国際社会との取引材料として利用し続けるなら、なおのことだ。
◆朝鮮総連幹部は変わらねばならない
ところで、朝鮮総連の幹部の人びとは、市場資本主義下に議会制民主主義の発達した日本で、基本的人権を十分に享受しながら暮らしている。彼らが理由もなしに拘束されることはなく、経済的自由も政治的自由も共に保証されている
しかし「共和国」の住民同胞は、諸外国はもちろん、韓国へ自由に往来することもできないでいることをあらためて想起しよう。朝鮮総連の幹部の人びとは、展示都市である平壤以外の、地方住民同胞の暮らしに思いを致すことはないのだろうか。
国外への自由な往来もできず、自給自足を強いられている「共和国」住民同胞の生活に、彼らが思いをはせることはないのだろうか。北が変わらなければならないように、朝鮮総連の幹部たちもまた変わらねばならない。在日同胞のためにも、本国同胞のためにも、朝鮮総連の幹部たちは変わらねばならない。
金一男(韓国現代史研究家)