掲載日 : [2018-10-24] 照会数 : 6896
時のかがみー「若手文化人の交流」…桑畑優香(ライター・翻訳家)
[ 対談で語る柴幸男さん(左)とイ・ランさん(佐藤憲一撮影) ]
ガチンコ対談で響き合う本音
「演じるのは日常の中で誰もがやっていること。自分の身に起きたことを友達にしゃべるのも一つの演劇だと思います。」
「そうですね。例えば即興で歌うのは遊びで誰にもできるけど、大人になるとできなくなってしまう。そんな雰囲気を社会が作っているから。それに打ち勝って子供のころの遊び方を続けている人が芸術家と呼ばれるのです」
日本の劇作家、柴幸男さんの言葉に、韓国のシンガーソングライター、イ・ランさんが深くうなずきながら応える。10月14日に東京・在日本韓国YMCAアジア青少年センターで開催された「日韓若手文化人対話」の1コマだ。
今回で6組目となる「日韓若手文化人対話」。韓国国際交流財団東京事務所、国際交流基金ソウル日本文化センター、株式会社クオンがタッグを組み、2015年の日韓国交正常化50周年を記念してスタートした。私も事務局の一員として、参加している。
きっかけは、2014年にさかのぼる。仕掛け人は、同基金の職員で当時ソウル日本文化センターに勤務していた武田康孝さんだ。政治的な日韓関係は冷え込んでいたとされる時期。だが、ソウル国際図書展に合わせて直木賞作家の朝井リョウさんを韓国に招聘し、作家のチョン・セランさんとの公開対談を開催すると、多くの人が会場にあふれた。
そんななか、「2人の目の付け所や共感するポイントに共通点が多かった。ひとりの20代の若者としてそれぞれの国で経験する楽しみや悩みが似ているからかもしれない」と感じた武田さんは、若い世代の対談をシリーズ化する企画を立ち上げた。
以来、2017年までに映画監督の西川美和さんと女優のムン・ソリさん、グラフィックデザイナーの寄藤文平さんと小説家のキム・ジュンヒョクさん、建築家の光嶋裕介さんとアン・ギヒョンさん、演劇作家の岡田利規さんとアーティストのキ・スルギさんと計5組が参加。対話のすべてを書籍にまとめ、「今、何かを表そうとしている10人の日本と韓国の若手対談」としてクオンから今年3月に出版した。
組み合わせを考えるときに大事にしているのは、ふたりがほぼ初対面であること。さらに、事前の打ち合わせもあえて綿密には行わず、ほぼぶっつけ本番で登壇するというガチンコ対談。語られるのは、映画監督と女優の演技論、アーティストの悩み、建築家たちの夢。そこには、政治はもちろん、「日本では」「韓国では」という互いの国の違いを際立てる枕詞さえもほぼ存在せず、国境を越えて響きあう、クリエーターたちの飾らぬ本音や想いが聞こえてくる。
柴幸男さんとイ・ランさんの対話も、まるで化学反応を起こすように話題は演出論、子育て論まで次々と変化。約180人の観客が大きな拍手を送った。
ふたりは来年3月ソウルで対談し、その内容をまとめた書籍が再びクオンから出版される予定だ。
(2018.10.24 民団新聞)