掲載日 : [2004-10-27] 照会数 : 3483
日弁連「外国人人権基本法」要綱案 全文
日本には、朝鮮や台湾などの旧植民地出身者とその子孫、移住労働者とその家族などの外国人が、多数居住し生活している。また、外国籍であったがその後日本国籍を取得した人々、国際結婚などにより出生し日本国籍を取得した子ども達など、民族的少数者の地位にある人々も増加し、多民族・多文化への傾向は急激に進展している。
ところが、戦後日本の外国人法制は、出入国管理法や外国人登録法などにより外国人を管理することを主眼とし、また、民族的少数者の人権に関する法整備はなされてこなかった。
このような状況下で、日本においては、極めて少ない難民認定者数に象徴されるように国際人権条約上も保護されるべき外国人が入国や在留を認められなかったり、入店・入居拒否などの差別や公人による差別発言が問題となったり、民族的アイデンティティを保持するための教育が十分に保障されていないなど、外国人や民族的少数者の人権が多くの場面で侵害されている。
ここに、外国人に対しても基本的人権を等しく保障し、更に、民族的少数者固有の権利を確立することを通じて、多民族多文化共生社会の基本的理念を明らかにしてその方向を示すこと、また、国及び地方自治体が多民族多文化共生社会の実現のための施策に総合的に取り組み、もって多民族多文化共生社会の形成を推進するためにこの法律を制定する。
なお、日本国家の統治の及ぶ以前から居住し、独自の文化を形成してきたアイヌ民族など、先住民族である民族的少数者については、その権利保護のための施策が別途検討されなければならない。
第1章 総則
1(目的)
この法律は、外国人及び民族的少数者の人権保障に関する基本的理念を定め、その理念の実現に向けた国、地方自治体の責務を明らかにするとともに、国、地方自治体の施策の基本となる事項を定めることにより、多民族多文化共生社会の形成を総合的に推進することを目的とする。
2(提議)
①この法律において外国人とは、日本に居住する日本国籍を持たない者をいう②この法律において民族的少数者とは、国籍にかかわらず、日本に居住し、日本社会を構成する民族集団のうちで、多数集団を形成する民族集団とは異なる文化・言語・宗教などをもつものに属する者をいう③旧植民地とは、日本の植民地であった朝鮮及び台湾をいう④旧植民地出身者とは、旧植民地の出身者で1952年4月28日以前より日本に居住している者及びその子孫をいう。
3(人権の尊重)
国及び地方自治体は、外国人に対しても基本的人権を原則として等しく保障する責務を有する。
4(民族的アイデンティティを保持する権利)
民族的少数者は、自己の言語、文化及び伝統を保持する権利を有し、国及び地方自治体は、この権利の実現のため必要な施策を講じなければならない。
5(差別の撤廃)
国及び地方自治体は人種差別の撤廃に向けての施策を講じる責務を有する。
6(社会参画)
①国及び地方自治体は、日本に永住する外国人などについて、地方参政権をはじめとする参政権の確立に向けた法制度を整備する責務を有する②国及び地方自治体は、外国人に対し、公務員への就任など行政への参画を広く保障する責務を有する③国は、司法の分野において、外国人への参画を広く保障する責務を有する。
7(入国在留)
国は、憲法及び国際条約によって保障される外国人の人権の保障のため、外国人の安定した在留を尊重する責務を有する。
8(国際条約の遵守) 国及び地方自治体は、外国人及び民族的少数者の権利に関する国際条約を遵守し、これらの権利を実現するための施策を行う責務を有する。
第2章 外国人及び民族的少数者の人権と国及び地方自治体の責務
1(社会保障)
①国及び地方自治体は、社会保障制度全般について、外国人に対しても可能な限り日本人と同様の保障を及ぼすことにより、外国人をその対象から不当に排除しないよう制度を設置運営する責務を有する②国及び地方自治体は、特に緊急の医療については、速やかにすべての外国人が援助を受けられるよう制度を整備し、また、公的な医療通訳派遣制度を整える責務を有する。
2(労働)
国及び地方自治体は、在留資格の有無にかかわらず、外国人労働者に対して労働法制に基づく権利を実質的に保障し、労働保護法規の運用にあたっては、在留資格の無いことその他を入国管理関係部署に通報しないことなどの特段の配慮を行う。
3(女性)
国及び地方自治体は、配偶者などからの暴力や人身売買の被害者である外国人女性に対し、その在留・生活の保障などについて、特段の配慮を行う。
4(在留と人権)
①国は、外国人が、国際条約に規定する子どもの最善の利益の考慮、家族の結合・私生活の尊重、難民の庇護に関する規定による保護を受けうる場合や人道上の配慮を必要とする場合には、その者の日本での在留を認めなければならない②国は、出入国管理及び難民認定法所定の各手続においては、適性手続を保障し透明性を確保する責務を有する。
5(教育)
①国及び地方自治体は、公教育における特別な教育上の配慮の必要な民族的少数者の子どもの存在、その就学状況、必要な配慮の内容などについて定期的に調査を行う②国及び地方自治体は、公教育などにおいて民族的少数者への日本語教育や日本での社会生活のための教育を受ける機会を保障する責務を有する③国及び地方自治体は、公教育において民族的少数者の母語または自らの祖先の使用した言語による教育や、祖先や自らの文化や歴史などについての教育のための施設やカリキュラムを設置充実させる責務を有する④国及び地方自治体は、民族学校、外国人学校など多様な教育の機会を制度的に保障し、適切な助成を行う責務を有する⑤国及び地方自治体は、多民族多文化共生教育を推進する責務を有する。
6(通訳)
国や地方自治体は、外国人及び民族的少数者への各種の行政手続・施策を行うにあたっては、通訳・翻訳を付するよう努めなければならない。
第3章 旧植民地出身者とその子孫の法的地位
1(戦後補償)
①国は、旧植民地出身者に対する旧植民地時代の日本政府の行為について調査し、その違法性が明らかになったときはその補償を行うものとする②国及び地方自治体は、旧植民地出身者に対しては日本人と等しく各種社会保障制度や援護法を適用するべく制度を設置運営する責務を有する。
2(民族学校に対する財政援助)
国及び地方自治体は、朝鮮学校、韓国学校、中華学校などに対して、学校教育法1条に規定する学校に準じた財政援助を行う責務を有する。
第4章 人種差別の禁止
1(国、地方自治体の責務)
国及び地方自治体は、人種差別撤廃条約の諸規定を国内においても実効化するための法律又は条例を制定する責務を有する。
2(教育、広報)
国及び地方自治体は、人種差別の撤廃のための教育、広報を行う責務を有する。
第5章 国・地方自治体の施策
1(多民族多文化共生基本計画)
①国は、第2章ないし第4章に定める国の責務を果たすため、内閣府に、多民族多文化共生局を設置して、外国人及び民族的少数者に関する施策の立案、調整を行う②国は、第2章ないし第4章に定める国の責務を果たすため、多民族多文化共生基本計画を定めなければならない③多民族多文化共生基本計画は、その過半数を外国人及び民族的少数者によって構成される多民族多文化共生会議の意見を徴したうえで、次に掲げる事項について定めるものとする。
a.外国人及び民族的少数者の教育、労働、社会保障、女性の権利の保障のための施策とその実施計画。b.外国人及び民族的少数者の法律相談や生活相談へのアクセスの拡充のための施策とその実施計画。c.多民族多文化共生社会の創造のための教育・広報計画。d.その他多民族多文化共生社会の創造のために必要な諸事項。
2(地方自治体多民族多文化共生計画)
①都道府県は、多民族多文化共生計画を勘案して、当該都道府県の区域における多民族多文化共生社会の創造の促進に関する施策についての基本的な計画(「都道府県多民族多文化共生計画」という)を定めなければならない②市町村は、都道府県多民族多文化共生社会計画を勘案して、当該市町村の区域における多民族多文化共生社会の創造の促進に関する施策についての基本的な計画(「市町村多民族多文化共生計画」という)を定めなければならない。
第6章 救済機関 (国内人権機関)
国は、外国人及び民族的少数者について、第2章ないし第4章に規定する権利の侵害の救済を目的として、政府から独立した人権機関などの救済機関を設置する責務を有する。
(2004.10.27 民団新聞)