掲載日 : [2004-10-27] 照会数 : 4698
多民族共生社会を…日弁連の「外国人人権基本法」提言
[ 「人権基本法」成立に向けて対策を協議する市民団体(8日、宮崎) ]
現実直視の法曹・経済界…民団の先駆的運動を反映
日本弁護士連合会(日弁連)は宮崎市で開いた第47回人権擁護大会(8日)で、国際的な人権基準に合致する「外国人・民族的少数者の人権基本法」の制定を求める宣言を採択した。日弁連が外国人の人権保障に焦点をあてた立法を呼びかけたのは初めて。これを受けて、大会シンポジウム実行委員会の名で「外国人・民族的少数者の人権基本法要綱案」(全文別掲)を発表した。日弁連のこうした提言は、今後どのような意味を持ってくるのか、民団が一貫して進めてきた「多文化共生社会」実現運動と関連づけて吟味しておきたい。
日本に住む外国人は増え続けている。03年末現在の外国人登録者数は、過去最高の191万5030人。10年前の93年末と比べても45%増で、日本の総人口の1・5%を占める。国籍は186カ国にのぼる。
問題はニューカマーであれ、旧来の定住者であれ、日本国籍者以外は制度的な差別にさらされているという現状である。そればかりか、「帰化」した同胞や日本人との婚姻によって生まれ、日本国籍を保持している者でさえ、「純血日本人」ではないと判明した途端に疎外されるという空気も根強い。
差別を続ける排他的な病巣
基本的人権が侵害されても、外国人はほとんどの場合、泣き寝入りするほかなかった。人種差別撤廃条約に加入しながらも、差別発言、差別事象が後を絶たないこの国の病巣に日弁連はメスを入れた。
「国と地方自治体には、人種差別の禁止法・禁止条例の制定と人種差別撤廃のための教育、広報を行う責務がある」と明記した上で、「国には、権利侵害を救済する人権機関を設置する責務がある」と重ねた。「郷に入っては郷に従え」といわんばかりの排他的な不文律を改め、外国人を共生のパートナーとみる視点を日本人も持たなければならないということだ。
社会全体での取り組み必要
日弁連は差別禁止施策と同時に、多文化共生についても積極的な施策を提起している。内閣府に「多民族多文化共生局」を設置し、外国人や民族的少数者が過半数を占める多民族多文化共生会議によって、多民族多文化共生基本計画を定めようというものだ。中身は教育、労働、社会保障、女性の権利保障、法律・生活相談の実施など。都道府県と市町村も同様に、多民族多文化共生計画を定めなければならないとしている。
これまで在日同胞個人や団体が自発的、個別的に進めてきた多文化共生教育などの取り組みを、行政も本腰を入れて全国津々浦々で実施するよう促している。無知からくる疑心暗鬼を超え、外国人と日本人が互いに交流し、知り合うことで精神的な距離を縮めていこうとするものだ。
ここ数年、外国人による凶悪犯罪の急増報道や一昨年9月の北韓による日本人拉致事件の公然化などを材料に、日本が内と外から侵されているとのすり込みが進み、外国人の人権も擁護されるべきだと考える日本人は昨年の統計では54%足らずにとどまり、その6年前に比べて11・5ポイントも下がっている。
「不審な外国人を見かけたらホームページに連絡を」と煽る法務省。匿名もOKだから、罵詈雑言オンパレードが売りの「2チャンネル」まがいの密告がまかり通る危険さえある。
社会保障面の制度確立迫る
日弁連はこのようなゼノフォビア(外国人憎悪)の傾向についても真っ向から対抗している。「在留資格の有無にかかわらず外国人労働者の権利を保障し、労働保護法規の運用については、在留資格のないことなどを入国管理関係部署に通報しない」と踏み込んだ。
このほか、地方参政権や公務就任権など多岐にわたる外国人の社会参画や社会保障面でも不当に排除しない制度設置を求めている。
また、女性や子どもの権利についても等閑視することなく、基本的人権が保障されるよう明記した。12月15日に最高裁大法廷で予定されている都庁国籍任用差別訴訟の判断に与える影響にも注目したいところだ。
「人権基本法」に盛られた条項は、実現されれば「人権大国」日本の誕生につながる。外国人と民族的少数者の権利が当たり前に守られる社会とは、社会的弱者を含む大多数の者が生きやすい社会でもある。
日本が「人権後進国」の不名誉を返上する上で、日弁連の提言が持つ意味は大きい。
労働環境から経団連も動く
経団連は03年11月、少子高齢社会の日本の労働環境を踏まえ、外国人受け入れ問題中間報告を出した。そのなかで「性別・年齢・国籍など多様な属性や価値・発想を取り入れることで、経営環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と従業員の自己実現につなげる異文化シナジーを生み出すべきだ」と強調した。また、外国人にきめ細かい公共サービスを提供するために、「地方自治への参加」に道を開くべきだとも提言している。
経済界と法曹界が外国人問題に正面から向き合うという時代の潮流を大いに歓迎したい。それは、「あるがままの在日として人権が尊重され、地域社会のなかで市民として共生したい」という民団の運動理念が、日本社会に拡大してきたことの証左だからである。
外登法改正を勝ち得た在日
在日の人権問題を日本社会に投げかけたのが、外国人登録法の改正運動であった。同法によって義務づけられている指紋押捺と登録証の常時携帯制度は、著しい人権侵害だとの民団の主張に対して、法務省は「公正な管理に資する」という文言を繰り返すのみであった。毎年12月の人権週間にも外国人の人権問題は無視され続けた。
ところが、青年会や婦人会の指紋拒否、民団の留保運動の高揚に抗しきれずに出した「指紋1回制度」によって、法務省が盾にしていた「指紋は何度も押すことに意味がある」という論理は自ら破綻した。
また、65年の韓日協定当時、「外国籍のままで日本に少数民族が永住することは、将来に禍根を残す」と断じた大手紙が、20年後の85年には指紋押捺の人権侵害性を日本社会に問うなど、在日を取り巻く環境が大きく変化していたのも追い風になった。
在日の地道な運動とそれに連帯した内外の市民運動の力によって、外国人管理の根幹をなした指紋制度は瓦解した。日本の法制度が在日主体の運動によって改正された事実は、民団が展開した運動の正当性が認められたことであり、市民運動とも連帯した人権運動の勝利でもあった。在日が人権運動に金字塔を打ち立てたと言っても過言ではない。
地方参政権は社会参画の道
民団は94年にそれまでの名称から「居留」をはずし、日本に「永住」することを鮮明に打ち出した。以来、今日まで地域住民としての権利である地方参政権獲得運動を全組織をあげて推進している。
この運動は、不当に管理される人権侵害からの解放を訴えた外国人登録法改正運動とは質的に違う。よそ者として日本社会とは一線を画す生き方ではなく、地域社会を構成する一員として、積極的な社会参画を求めている点でより高次元にある運動なのである。
ところが、「単一民族国家」の虚構から抜け出せない保守派議員らは、頑迷に抵抗、外国人と日本人との線引きに躍起になっている。そのため、「永住外国人地方選挙権法案」は、継続審議、廃案を繰り返してきた。
反対論者は「憲法上疑義がある」と、先延ばしに終始しているが、最高裁が選挙権法案のボールを国会に投げてから久しい。この最高裁の判断と10月末現在、全国3302自治体のうち1520の自治体が選挙権を求める意見書を採択している事実(民団中央本部国際局調べ)、また、永住外国人住民に住民投票権を付与する条例を制定した自治体が増え続け、9月末現在、145自治体にのぼっている(同)事実を真摯に受けとめなければならない。
日弁連や経団連が現在の日本の状況を直視し、外国人問題について提言した姿勢と自治体の動向に比べ、立法不作為をいつまでも続ける国会議員の態度はあまりにも落差が大きい。どちらが民意を反映しているかは自明であろう。
10月22日、「永住外国人地方選挙権法案」の審議入りが決まったが、自民党保守派議員の総本山「外国人参政権の慎重な取り扱いを要求する国会議員の会」は、改めて反対の方針を確認したという。
時代が大きく動く時には、抵抗勢力が最後の力をふりしぼるものだ。在日同胞の権益擁護運動を牽引してきた民団は、在日外国人の先駆者としてこれからも外国人の模範となるべく、率先垂範の重要な使命を担っていることを再認識したい。
■□
解説
日本弁護士連合会(日弁連)は、日本のすべての弁護士と全国52の弁護士会、外国法事務弁護士などで構成される連合組織だ。弁護士法に基づき、1949年9月1日に設立されている。国家機関からの監督を受けない独自の自治権を有し、弁護士業務はもとより人権擁護に関する様々な活動などに取り組んでいる。
市民に開かれた司法をめざす日弁連が、人権侵害を受けても容易に声をあげられなかった「外国籍市民」の外国人と民族的少数者のために「人権法」制定を提言した。この重みのある提言は、経済界の動きとも連動している。
(2004.10.27 民団新聞)