◆理事長を動かしている情熱は何ですか。
松原 朝鮮通信使の偉大さと対馬を背負っているという気持ちだと思います。対馬の先人たちがこれだけすごい、尊いことをやってきたということを、今こそ掘り起こし、日本全国、あるいは世界に問いたいという気持ちもあります。アジア社会自体の平和と秩序、維持、安定にすごく大きく貢献しているのは、世界の中でも特筆すべき歴史だからです。
◆団長として、世界遺産にどのような意義を感じていますか。
団長 この精神に学び、きちんと受け止めていき前を向いて、親善をきちっとやっていかなきゃいけないと思います。私たちは日本で生活をしていますし、日韓、韓日親善がないと生活が成り立ちません。日常生活で日韓、韓日親善をやっている訳で、私はいつもそれを空気のようなものだと言っています。意識しなくても、普通にやっていて空気が汚れたら呼吸困難に陥りますから、空気を汚さないできれいにしましょうと、その努力はみんなですべきです。
団長 理事長は通信使の資料館の準備をされているんですね。
松原 そうなんです。
団長 朝鮮通信使を世に知らしめた辛基秀先生のところにも遺品として沢山の資料があるでしょうから、辛先生のコーナーがあってもいいですね。
松原 辛先生の資料は私も15年位前から収集しています。今年には長崎県の歴史民俗博物館で朝鮮通信使展をやります。
◆民団は今年創団73年です。朝鮮通信使を今後、どのように生かしていきたいですか。
団長 誇れる歴史はもっと皆さんに知っていただき、皆さんが理解することで局面が変わってくると思います。いいものは伸ばしていく、悪いものは自制していく。朝鮮通信使は誇れる話じゃないですか。この精神を基調にしながら韓国と日本、日本と韓国の絆をより深めていかないといけないし、特に在日社会は複数国籍社会で、3世4世の時代は90%以上が伴侶は日本の人です。日本だ、韓国だと言っている場合じゃないですよ。
松原 そうですね。
団長 そういう生活をしている私たち在日がもっともっとこの意義を前面に打ち出して日韓交流、韓日交流の先兵にならないといけないんじゃないかと思います。韓日間で何か問題が起こると、私たちが一番辛いんです。日本の方も在日がこういう存在で、地域社会にともに暮らし、家族になっているということをなかなか理解していない方がいるんですよ。線引きされてあっちにいる人みたいな。でも今は点が線になり、実態はその線が面になっている現状をみんなが理解して、在日の現状を言い続けていけば、いい結果が生まれるんじゃないですか。韓国の人にも私は言います。「私たち在日の家族はここ日本」だと。玄界灘の向こうで無責任に騒いでも石が飛んでこないが、私たちには石が飛び、生活に直結する。デリケートな問題だから無責任なことを言いなさんなと。
松原 韓国で昨年10月、木浦で朝鮮通信使の古代船を研究するという趣旨で、35㍍、幅9㍍の船を作りました。今年5月に対馬に寄せたいので、日本の「縁地連」に協力してほしいという話がありました。私の一番の課題は、この船に日韓の学生を乗せ、朝鮮通信使の意義などを若い世代に伝えていくことです。
日韓青少年友好の船みたいにして、日韓の学生が対馬に来て、朝鮮通信使を学びながら通信使のゆかりの大阪まで、それから陸路で東京まで、そういうことを実現させるように努力をしています。
団長 そこに在日の学生も乗り込んでいく。
松原 いいですね。21世紀を担う青少年たちに夢と希望を持って、そして通信使の歴史を学びながら友情を育んでいくことをやっていけば、1年間に70人、それを10年やったら700人です。
そこには何百人もの友だちや家族がついていますから、すぐに何万、何十万人と広がっていきます。これを何とか実現させたいという思います。
団長 これは現実にしないといけない。
◆最後にメッセージを
団長 若い頃に取材で会った韓国の元外務大臣がいいことを言いました。「外交は10年先を見据えてやる。目の前のことだけにとらわれていたら、本筋を見失う」と。今の外交はどうなんでしょうね。生身の人間に対する配慮というか目線が必要で、地に足がついて生活者のレベルでの外交や政治、国際交流をぜひやってもらいたい。そういう意味で一つの船に一緒になって、目的地に向かっていく。人の交流が一番大事だと。いい関係を作るにはまず交流しないと何にもならない。掛け声だけではだめなので、われわれも一つひとつ10年先を見据えて今の一歩をちゃんと歩みたいと思います。
松原 通信使が世界遺産になりました。誠信の交わり、平和友好の精神をいかに世界の人々に知らせるか。そのためには今、釜山文化財団と図録を作り、それを配布します。次は見えないものが見える、読めないものが読めるようなデジタル化をして、世界の人々がいつでもアクセスできるように、世界に広げていくのが私たちの一番の目標です。それと青少年に朝鮮通信使の歴史的意義を伝え残していくことによって、差別や偏見のない多文化共生の社会を作る努力をしたいです。
(2019.01.01 民団新聞)