掲載日 : [2019-02-27] 照会数 : 6752
時のかがみ「釜山タワー」桃井のりこ(編集者・プロデューサー)
[ 釜山タワー(鈴木圭撮影) ]
変化を見守る〝心の柱〟
前回、釜山のシンボル、海上橋「広安大橋」を紹介したが、それに並ぶ存在として、「釜山タワー」もあげられる。
釜山の繁華街、南浦洞にある小高い山、龍頭山公園にそびえる釜山タワーは、高さ120m、1973年に完成した。円柱形のタワーのトップに位置する展望室からは、釜山港と影島、周辺の風景が360度、見渡せる。
一昔前まで、釜山旅行のパンフレットでは、釜山タワーと釜山港が釜山の象徴とされていた。しかし、近年の再開発で釜山の印象も変貌。釜山を取り上げるポイントも、国際映画祭の斬新な建築物や壮麗な海上橋へと移りつつある。
そこへ、2017年の釜山タワーの施設のリニューアルに加え、「釜山タワーメデイアファサードショー」を開始。これにより、釜山タワーのイメージは刷新、注目度もアップした。
釜山タワーでは、毎夜、タワー本体に映像を投影し、音楽とともに躍動感あるショーを公演。夜空を背景に華やかな光景を作り上げる。ショー以外の時間は、ライトアップも実施。スマートフォン片手に撮影を楽しむ、外国人観光客の姿も目立っている。
釜山タワーが建つ龍頭山公園は、1940年代半ばに開園。かつて、市民の憩いの場といえば、ここだった。釜山タワーと公園の大きな花時計を前にした家族写真は、どの家庭にも一枚は残っている。休日には家族で南浦洞の昼食を食べ、国際市場で買い物をし、龍頭山公園でのんびりと過ごすのが定番コース。映画「国際市場で逢いましょう」で観たような、郷愁を誘う風景が目に浮かぶ。
現在、韓国にはNソウルタワー(高さ236・7m)や大邱の83タワー(高さ202m)などがある。釜山タワー同様に小高い丘や山の上に建てられているため、海抜からの高さはそれ以上だ。一昨年、ソウルに完成した超高層建築のロッテワールドタワー(高さ555m)は、展望台ソウルスカイからの壮大な眺望が好評だ。
それに続き、現在、釜山中区の再開発地に、釜山ロッテタワーの建設計画がある。地上380mの超高層建築物で、高層部に大型空中樹木園を設置する予定だ。完成後、海上から望む釜山の印象は、アジア有数の近代都市となるのでは。
この計画を知ったとき、ふと、釜山タワーのことを思い出した。私が東京と釜山を頻繁に行き来し、早十年。釜山タワーに行くことは少なくても、南浦洞や影島に行けば、その姿は視界のどこかに入っていた。
7年前、東京に超巨大なスカイツリーが出現し、一瞬、東京タワーの存在感は薄れてしまった。しかし、スカイツリーの姿が定着すると、今度は東京の風景に味わいを出す要素として、東京タワーの価値が上がったように感じている。同様に、数年後、釜山ロッテタワーが誕生しても、釜山タワーは釜山の土地と人々の歴史を刻みつつ、この街に安堵感を与え続けるのではと、私は思っている。
(2019.02.27 民団新聞)