掲載日 : [2020-01-01] 照会数 : 13296
【庚子年】多産の象徴ネズミ年…悪神防ぐ役割担い、出生率向上へ期待大
[ 作 韓国民画作家 池貴巳子 ]
農家で仲良くしたネズミ
韓国の「昼の言葉はすずめが聞き夜の言葉はネズミが聞く」ということわざは、「嫁の里帰りの際、姑の悪口を実家の母親に愚痴らないように」という意味になる。
嫁の愚痴はいつの間にか昼間はスズメが、夜はネズミが聞き、いつか姑の耳に入るという話だ。 韓国の農家はスズメやネズミと密接な関係を保ちながら、共存してきた。スズメは藁屋根の隙間に巣を作って卵を産み、ネズミたちは群れをつくり天井裏にエサを集めて暮らした。
農家では天井と屋根の間に紙を貼って、オンドルの地熱が外に逃げないようにした。人間と共存していたとはいえ、天井裏で生活していたネズミは、家人にとってはうるさい存在だった。
「ネズミ生員たちよ、静かにしてくれ」。屋根裏で騒々しく走り回るネズミに対して、家人は天井を見上げながらこう叫んだ。
ネズミは漢字で「鼠」と書く。韓国では「ソセンウォン」と尊敬語で呼ぶ。人々は「生員」(科挙制度の郷試の受験資格を得たもの)という尊敬語をつけて擬人化した。
昔の人々のネズミに対する認識は現代人の認識とはずいぶん違っていたようだ。「鼠」という漢字は紀元前1400年の中国の甲骨文字に現れた文字だが、学者たちはそれ以前から古代中国にはネズミの足裏を絵で書いた絵文字があったという。つまり、鼠の足裏の絵文字が発達したのが現在の鼠という文字だ。
韓国にも十二支はあるが、朝鮮時代はネズミ、牛、虎、ウサギ、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、豚の12の動物たちが四方から不幸をもたらす悪い神様を封じ込めて、人間の幸福を守ると信じられていた。
特にネズミは北から来る悪神を防いで、人間を幸せにしてくれる存在として見られていた。中国人にとっても北は一番怖い方向だった。
それは、北方の異民族が中国に侵攻してくることを防ぐために、秦時代の紀元前214年に万里の長城まで作ったことからも分かる。中国の人々は北の方向をネズミが守ってくれると信じていたのである。韓国でもソウルの景福宮にある石造りのネズミ像は、北側を防御している。
◆僧侶眞表のネズミとミッキーマウス
新羅末期の有名な僧侶眞表の修行記録がある。彼は27歳の時、山中に入って多くの修行を積み、苦行を乗り越えて、現在の全州にある金山寺を建てたという記録が「三国遺事4巻」に掲載されている。
眞表僧侶は山奥の絶壁の上で修行をしている時、度々ネズミと時間を過ごしたという。自分が食べる精進料理も米を使って作り、ネズミの分も用意したという記録がある。
世界的に有名になっているミッキーマウスを創作する時の話だが、貧しかった若いウォルト・ディズニーは古い倉庫一つを借りて自分のスタジオとして使った時、誰も彼を訪ねてきてくれるものがいなかった。
それでも倉庫のネズミだけが机の上に上がって話しかけるように声を出したりして、彼を喜ばせたという。そんな孤独なディズニーが、倉庫のネズミを擬人化したネズミがミッキーマウスになった。1928年の一話である。
◆子供を科学者に育てたいならネズミ年に
「今年は白ネズミ年だからね。科学者たちは実験室でシロネズミを飼ってるの」
「そうよ。子どもを産んで科学者に育てたいなら、今年産まないとね」
「私の夫も科学者が良いって言ってるわ」
このような会話は、ソウル市内のカフェでよく耳にする主婦たちの話だ。ネズミは5つの色を持つ。庚子年は白色ネズミだ。甲子は青色ネズミ、丙子は赤色ネズミ、戊子は黄金ネズミ、壬子は黒色ネズミになる。干支は、十干と十二支を組み合わせた60を周期とする。60年を数える干支の中には十二支が5回入っている。
2020年は庚子(かのえ・ね)年で、白色ネズミになる。庚子年には子どもを表す「子」の文字がついている。つまり、ネズミ年生まれは子孫と関連があるということだ。
ネズミは環境に適応する能力が高く、驚異的な繁殖力がある。1カ月という短い妊娠期間に、1度に6~9匹生まれ、年に6~7回出産を繰り返す。地球の歴史上、一時期は南極とニュージーランドを除く世界各地にネズミが地上を占領するように繁殖した時があったと学者たちは話す。その種類は1800種類におよぶ。
動物の中で最も多産と言われるのはネズミと同じ仲間のコウモリだ。韓国では伝統装飾品にコウモリが描かれたり、枕の刺繍にもコウモリが施されている。多産というのは、人間の幸福の一つだと信じたからだ。
「文豪ウィリアム・シェイクスピアも1564年、ネズミ年生まれです」
「そう、アメリカのジョージ・ワシントン大統領も1732年生まれのネズミ年」
「1828年のレフ・トルストイも」
韓国だけではなく、世界の主婦たちもネズミ年への希望は大きいようだ。今、韓国は少子高齢化が進んでいる。人口減少は深刻な問題だ。結婚と多産を望む韓国政府は、今年はネズミをモチーフにした切手を発行し、出生率を高めるための模索を始めている。
寄稿 池楨官
(2020.01.01 民団新聞)