【大阪】大阪市を廃止し、東京23区のような4つの特別区に再編する「大阪都構想」の是非を問う特別区設置住民投票が11月1日に行われる。この住民投票では、選挙権を日本国民に限った公職選挙法の規定を準用すると定められており、外国籍住民は参加できない。SNS上では「俺だって大阪市民や!」という在日同胞のつぶやきも見られた。
大阪市には143の国や地域を出身とする約14万6000人(2019年12月末現在)の外国籍住民が暮らす。これは全市民の約5%に相当。人口・比率ともに政令指定都市では最多だ。再編によって外国籍住民も教育や福祉、交通、環境など日常の暮らしの様々な局面で影響を受ける。
文公輝さん(多民族共生人権センター事務局長、大阪市生野区)は「日本で生まれ育った2世以降の世代が大半を占め、日本社会、大阪市への帰属意識も強いにも関わらず、重要な政策決定のプロセスから排除されることは差別的取り扱い以外のなにものでもない」と憤る。
一方で「この問題は公職選挙法との関連が強く、つまるところは私たちが30年以上訴えてきた地方参政権実現による解決が、遠回りではあるが現実的アプローチだ。心ある日本人市民との協働によって私たちの基本的人権であり、1952年に奪われた政治参加の権利を回復する取り組みを進めたい」と語った。
市民団体「みんなで住民投票!」(大阪市阿倍野区)は、外国籍住民が投票できない法的根拠となった「大都市法」などの改正を求めて「外国人市民も住民投票!アンケート」を呼びかけている。
徐龍達さん(在日韓朝鮮大学人協会会長、奈良市)は「住民投票権の否定は、定住外国人の人権を守り、他自治体への波及を防ぐためにも全国的な反対運動が必要だ」と話している。民団大阪本部は17日、住民投票シンポを開催した。
◆まちづくり、外国籍と共に…朴一(大阪市立大学大学院経済学研究科教授)
大阪市は外国籍が住民構成の5・5%以上を占めている。なのに、大阪市の再編をめぐる投票には外国籍住民が参加できない。これは日本籍住民だけで勝手にまちづくりをしていくと言っているに等しい。このままでは、世界から人が集まる2025大阪・関西万博を開く資格はないだろう。
日本の首相は日本国民の生命と安全を守る義務があるが、知事、市長には日本籍住民だけでなく、外国籍住民の生命と安全も守る義務がある。その人たちの意見を聞かず、ゴミ処理場をつくったり、原発の再稼働を決めたり、米軍基地の移設を決めるといったことをやってはいけない。
大阪都構想が実現すれば生野区と東成区が新しい特別区に再編され、へたすれば「コリアンタウン」が分断される可能性もある。「コリアンタウン」は横浜の中華街、東京の新大久保と並ぶ代表的なインバウンドの集客地。観光都市をめざす大阪がこれでいいだろうか。これから大阪市を含めて全国の都市は長期的に少子高齢化していく。ドイツでは過疎化にストップをかけようと、外国人を受け入れて生産人口を補おうとしている。併せて外国人にも住みやすいまちづくりにも努めている。そうしないとまちが死んでいくからだ。
住民投票は広義の参政権。これまでに滋賀県米原市を皮切りに全国200以上の自治体が「諮問型」の住民投票を実施し、外国籍住民の声を反映させてきた。だが、大阪市がやろうとしている住民投票は「拘束型」のため、政令指定都市の場合は法改正しないと外国籍住民を加えることはできない。一刻も早く法改正して外国籍も住民投票に参加せてほしい。それができないのなら、せめて新しくできる特別区には外国籍住民有識者会議を復活させ、外国籍住民の意思を踏まえたまちづくりを進めてほしい。
◆「住民」と「国民」の峻別を…田中宏(一橋大学名誉教授)
外国籍住民が、日本で初めて投票したのは、2002年1月、滋賀県米原町の町村合併についての住民投票だった。首都から遠く離れた地で始まった新しい流れは、その後、全国に波及し、少なくとも200を超える住民投票において、外国籍住民の参加が実現した。
「住民」と「国民」は、そもそも区別されるべきなのである。例えば、在外邦人が、選挙で投票できるのは衆議院議員と参議院議員の選挙に限られ、地方自治体の首長や議会議員を選ぶ選挙には投票できないのである。国政には「国民」の意思が反映され、地方政府には「住民」の意思が反映されるからである。
大阪市の行く末を大きく左右する「大阪市を廃止し、特別区を設置する住民投票」において、すべての「大阪市民」が投票することによって、初めてその正統性が担保されることは言うまでもない。「外国籍住民」が除外されるならば、それは単なる「国民投票」に過ぎず、「住民投票」とは似て非なるものである。
大阪市に居住する外国籍住民は約15万人で、人口の5%を占める。しかも、その約75%におよぶ外国籍住民の国籍は、「韓国・朝鮮」又は「中国」で、日本と深い歴史的関係にある近隣諸国の出身者及びその子孫である。住民投票が、「外国籍住民」を加えた「真正なる住民投票」となったのは、2002年の「米原」からである。
「米原」からの新しい流れを、この2020年に、大阪で「逆流」させることは許されないのである。今回の住民投票において、外国籍住民の投票を実施するために、制度上何らかの「障碍」があるとすれば、まずそれを取り除くことが先決である。大阪市は、大阪から日本を変える意気込みで、まずそのことをやり遂げて、初めて2度目の住民投票に挑戦すべきではなかったろうか。大阪市の名誉のためにも、足元の民主主義の欠陥を示す今回の事態は、憂うべきことというほかない。
(2020.10.19 民団新聞)