掲載日 : [2022-04-27] 照会数 : 3570
ヘイト投稿許すまじ…在日3世が法廷で静かな憤り
[ 弁護団と支援集会に臨む崔江以子さん(右から2人目) ]
日本に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ
横浜地裁川崎支部「絶望の闇から提訴」
【神奈川】「愛する日本を取り戻す」とうたう匿名ブログやTwitterアカウントを通じ4年以上繰り返しヘイトスピーチなどの被害を受けたとして「ハゲタカ」を名乗る投稿者の男性に対して計305万円の損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が21日、横浜地裁川崎支部で開かれた。原告、在日3世の崔江以子さん(47)はこの日の意見陳述で「絶望の闇に殺されないため提訴した」と心情を明かした。
訴状によれば、崔さんが差別的書き込みによる攻撃を受けるようになったのは国会で「ヘイトスピーチ解消法」が成立した2016年から。崔さんは参議院法務委員会に参考人として出席し、川崎区桜本でのヘイト被害を訴えていた。
被告「ハゲタカ」は同年6月、ブログ「愛する日本国を取り戻す」で「崔江以子、お前何様のつもりだ」とのタイトルで投稿。「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」と書き込んだ。
同ブログは崔さんが法務局に人権侵犯被害を申し立てたことで10月、削除された。すると、これを逆恨みした被告「ハゲタカ」はアメ‐バブログにおいて「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」といった誹謗中傷を繰り返すようになった。こうした誹謗中傷は被告が管理するツィッターアカウントを通じ、短文投稿サイトにおいて20年まで繰り返し続けられた。
「祖国に帰れ」は「来たくて来たんじゃないのに」という在日1世が声をそろえて「いちばんつらい」という言葉だ。崔さんは意見陳述で「親、私自身、そして未来を生きることまでをも否定されたかのように感じた」という。「私を名指した差別的投稿が拡散され、絶望の闇にのみ込まれた。その闇に殺されないため提訴した」と述べ、差別を決して許さないという強い姿勢を裁判官に印象付けた。
一方、被告側は答弁書を通じて投稿の事実そのものは認めたものの「自らの心情を表現したにすぎず、(崔さんに)述べられたものではない」などと主張。「差別的言動や名誉棄損には当たらない」としている。
◆差別認定求める 原告弁護団
崔さんの代理人弁護団は被告「ハゲタカ」による投稿のうち、「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」とした排除類型記事を特に重視した。損害賠償額の内訳は「破格」とされる165万円。被告が逆恨みして「差別の当たりや」などと書いた訴訟物については140万円とした。
神原元弁護士は「最悪のヘイトスピーチなのに包括的差別禁止法がないため、どんぴしゃり違法となった判例はこれまでない。これが今の日本の司法の現実だ。単なる侮辱ではなく、差別的言動であることをきっちり認めさせたい」と語気を強めた。
師岡康子弁護士も「レイシストたちは『出身国に帰れがなぜ差別にあたるのか』『差別に反論しろ』という。『祖国に帰れ』は存在そのものの否定につながり、そもそも反論のしようがない。悪質だ。禁止して国が対策をとることがいちばんだが、まずは裁判で必ず差別と認めさせたい」と補足した。
崔さんにとって民事裁判はこれが初めての経験。第1回口頭弁論が近づくにつれて眠れない、辛い夜が続いていたという。それでも、崔さんが勤務する川崎市ふれあい館で出会った子どもたちの姿を思い浮かべ、自らを奮い立たせてきた。
「歩みが前に進むと、ネット上に差別書き込みが目立つ。それでも前に進むしかない。言われっぱなしにされたくないから。止まったらだめだと思ってきた。いい判決を勝ち取って韓半島にルーツを持つ人たちへの被害を最小限に食い止めたい」
在日2世の崔善恵さんは指紋押捺を拒否したため、再入国禁止処分を受けたことがある。裁判終了後の支援集会で「ヘイトスピーチは怖い。身の縮む思いをしている」と述べ、崔さんに「ありがとう、ごめんなさい」と思いを伝えた。
(2022.04.27 民団新聞)