掲載日 : [2019-11-27] 照会数 : 6383
時のかがみ「釜山の温泉」…桃井のりこ(編集者・プロデューサー)
[ 海雲台区庁の足湯を楽しむ市民 ]
湯けむりの中で
時の流れの重み感じ
釜山にも寒い冬が近づいてきた。これからの季節、テゲ(ズワイガニ)やポッ(フグ)が美味。旬の味覚を目当てに釜山を訪れる人も多い。そして、冬は温泉もおすすめだ。東莱、海雲台、広安里、影島、松島と、市内随所に温泉が湧く。
なかでも、金井山の麓にある東莱温泉は、韓国最古の温泉街として有名だ。三国遺事にも記述があり、新羅時代には王族も訪れていたという。
このエリアは温泉場と呼ばれ、街には無料の露天足湯、老舗の超大型温泉施設、地元密着の入浴施設、古びた沐浴場もある。温泉は弱アルカリ食塩泉で、平均温度61度と高めなのが特徴。神経痛、高血圧、皮膚病などに効能があるという。私はアトピーで敏感肌のため、夏の汗疹や冬の乾燥が気になると、温泉場を訪れる。すると、症状はかなり緩和される。私の肌に合っているようだ。
日本統治時代には、ここで釜山在住の日本人も温泉浴を楽しんだという。かつては日本の温泉街のような趣も漂っていたが、最近は急速に進む再開発、おしゃれなカフェの急増で、街の様子も変わりつつある。
私が釜山で拠点とする海雲台も温泉が有名だ。24時間営業の温泉センター、リゾートホテルの海を望むスパ、庶民的な温泉施設、温泉旅館など、種類も多彩だ。海雲台では広域に温泉が点在しているためか、泉質もアルカリ性単純食塩泉、ラジウム温泉、炭酸温泉などと異なっている。独自の源泉を使用する施設もあり、地元の人はそれぞれの好みで選んでいる。
また、国際映画祭の会場があるセンタムシティにも温泉が湧く。大規模百貨店の新世界センタムシティでは、建設工事中に偶然、温泉を掘り当て、急きょ、スパランドを増設したと聞く。ガラス張りのモダンな建築のスパランドは、釜山で人気のデートスポットとなっている。実はこの辺りは、1970年半ばまで飛行場だった。元々は旧日本軍の軍用飛行場として造成され、その後、朝鮮戦争では国際連合軍(UNF)が使用し、最終的に民間飛行場となったという。私はスパランドで湯に浸かりながら、そんな歴史を思い返す。この地に飛行機が飛び交う光景、そして、現在の近代的な都市景観。時の流れの重みをつくづくと感じる。
数年前には海雲台区庁にも、無料の露天足湯が開設された。庭を目にする開放的な造りが好評で、つねに足湯を楽しむ地元の人たちにぎわっている。そこに外国人観光客の姿も見られるところが、国際的な観光地らしい。フードトラックが出ることも多く、場に華やぎを与えている。
温泉施設で印象的に思うのが、脱衣場での動作だ。日本人は心もち内向きに衣類を脱ぐが、韓国人は外向きに衣類を脱ぐように見える。日本人が持つ恥じらい、韓国人らしいおおらかさ。そんなところに国民性を感じる。私はといえば、やはり、内向きに着替え、タオルで前を隠し、浴場へと向かうのである。
(2019.11.27 民団新聞)