掲載日 : [2019-10-02] 照会数 : 8696
時のかがみ「在日という言葉から」…キム・英子・ヨンジャ(歌人)
[ 上映会を手紙で案内した時の切手 ]
両国が緊張するいまこそ
日常のつながり生かして
先日、私の主宰する「いいづか短歌サロン」に韓国の古都を詠んだうたが出された。作者はそちらを旅してきたばかりだそうだ。
韓国と韓国映画を愛するこの女性は日韓映画文化交流研究会を主催している。同研究会は最初はイ・ビョンホンのファンのサークルだったが、もっと韓国のことを知りたいと活動の幅を広げ、月例会の他これまでに6回の自主上映会をおこなった。
彼女からある映画についてのメールが届いたのは8月も終わる頃。現在、日韓関係は緊張が続き、その影響で韓国からの旅行者は8月には前年同月の半数にまで減少した。彼女はこうした状況に心を痛め、こんな時だからこそこの映画を、と急きょ7回目の上映会を企画したのだという。
「道~白磁の人~」は日本統治下の韓半島で林業技術者として山々の緑化に貢献し、朝鮮の陶磁器や膳に注目して研究した浅川巧の半生を描いた映画だ。朝鮮の自然と人間と日用品の美を愛した彼が40歳で逝去した折には、彼を慕う韓国の人たちがその棺を担ごうと葬儀に集ったといわれる。その墓は今もソウルにあり、韓国の人々によって守られている。
映画は浅川巧と同僚の李青林の友情を軸に進められる。
上映会の知らせを受けた私は、穏やかな雰囲気をもつ彼女の志と行動力に心を動かされた。そして広報に協力することにした。日にちは迫っている。チラシが手元に届いたのが9月3日。上映会は9月21日なのだ。手紙で。メールで。手渡しで。在日同胞や日本の友人知人に上映の趣旨を伝えた。
そして迎えた上映会当日。予想以上の申し込みがあったそうで、2回の上映予定が3回に増やされた。来場者の中には、この映画を観るのは5度目だと話すひともいた。30代の女性である。以前は韓国のことが嫌いだったけれど、この映画を観て韓国が好きになったのだという。
私が案内を送った方もたくさん来場してくれた。友だちを誘って参加した方もいる。また、ご自身の運営する資料館で本作を上映したいと希望する方もいた。
今回の広報に協力して思ったのは、福岡の地で韓国や在日コリアンに関心を寄せ、それぞれ独自に映像制作や読書会などさまざまな活動をおこなっている人々が、これまでよりもっと有機的につながりをもった時の可能性である。「私の知り合い」と「あなたの知り合い」が「私たち」になれば、活動はもっと豊かに広がるだろう。
上映会の案内を始める2週間前、母を亡くした。1世の両親がともに長逝した今、在日韓国人として自分が為すべきことは何かを、以前にもまして考えるようになった。2世である私の生き方の中に、両親の人生は在り続ける。
在日ということばから
在りし日の
ちちはは祖父母が
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(2019.10.02 民団新聞)