掲載日 : [2022-01-01] 照会数 : 9836
韓日そして世界へはばたく「在日」次世代(テコンドー金秀範さん )
[ 日本テコンドー界最強の男と言われている金秀範選手 ] [ 韓国国体でも金メダルを獲得(2019年ソウル大会) ]
多様化が進む在日同胞次世代たち。グローバル時代と言われる今、日本や韓国をはじめ、世界の舞台で活躍する3世、4世たちも少なくない。在日韓国人としての自覚を持ちながら各界で活躍している次世代に「在日」としての生き方などを聞いた。(インタビュー形式)
「在日」は大きな財産、韓日ともに愛し懸け橋に
テコンドー全日本9連覇 金秀範さん
◆在日として意識したのはいつ頃か。また、そのきっかけとなったのは。
自分が日本人ではなく在日韓国人であることは生まれたころから認識していましたが、明確に意識し始めたのは、2014年の韓国国体に初めて民団代表として参加した時からです。
当時はただ韓国で試合ができることだけを考えていましたが、いざ出場すると民団のバックアップや歓迎してくれる国体の開会式などで、自分は日本で生まれて育ったけど、こんなに同胞が喜んでくれるのかと感動した記憶があります。
それが日本にいるときも在日として意識し始めたきっかけとなりました。
◆テコンドーを始めたきっかけは。
テコンドーは高校2年生の時に初めました。きっかけは体格が細くて力も弱い自分が男としてかっこわるいと思い、何か格闘技を習いたいと悩んでいたところ、両親からテコンドーを勧められ高校の近くの道場に見学いったところ、一目惚れしたのがきっかけです。
◆テコンドー選手として、最も楽しかったこと、また辛かったことは。
最も楽しかったことは試合で勝った時です。小さい大会から大きな大会まで、楽しさは様々ですが、やはり勝ったとき、メダルをもらえる時が一番楽しいときです。東京オリンピックも出場したものの、メダルはとれなかったので、そこまで楽しいと思える大会ではありませんでした。
辛かったことは、期待してくれている家族やファンたちに結果を返せなかった時です。テコンドー生活のために犠牲になってくれている家族や、応援してくれている人たちに、「敗北報告」をするときが一番つらいときです。
◆韓国国体との出会いと他競技の在日アスリートたちとのつながりは。
最初は、民団(体育会)の関係者から「韓国国に出場してみては?」と勧められ、軽い気持ちで出場しました。国体ということがどれだけの大会かも知らないまま、ただ韓国に行って試合ができるということだけを考えていました。
他の在日アスリートとは、なぜか同じルーツを持っているということだけで、最初から親近感を持てたことを覚えています。みんな、様々な想いで生きてきたことが、語らなくても、すごく共感できるような感じを抱きました。
多くの選手は韓国国籍でしたが、それでも韓国人として隠すことなくプレーしていることは、メンタル的にも刺激をもらいました。現在も在日のアスリートだけならず、在日ということだけでプライベートでも仲良く遊んでいます。
◆在日の同世代たちとのつながりは。
実際、韓国国体に出場するまでは、まったく在日の同世代と関わることはありませんでした。国体に参加し同胞という共通点だけでなく国境をこえたスポーツをしていたからこそ、新しいつながりを持てたと思います。
韓国と日本の両方の文化を知ることができることで、人としてより広い視野を持って生きていることができるのは、在日だからこそしかできない特権だと思います。
現在、在日の次世代を長年支えてきた民団の青年会に所属しています。時代もはやいスピードで変わっている中、世代交代もどんどん進み、在日としての気持ちだけでなく、次世代の気持ちには自尊心がどんどんなくなっているように感じます。
これからは民団青年会という受け皿である、大きな船に乗ったつもりで、次世代とどんどん交流していくことを目標に、まず自分が青年会を支えられるように未来を考えていくつもりです。
◆多様な文化を持つ在日として今後の生き方は。
最初からお金持ちとして生まれた人は貧しい環境を知るはずもありません。同様に日本人は日本のこと、韓国人は韓国のことしか知らないと思います。
例えば韓国人が日本に行って日本の文化を知ることで初めてそこで比較対象ができ、韓国の文化を知ることになります。
そこで、在日という存在は、両方の文化を最初から学ぶことができる最高の環境です。その環境を人として成長するために、韓日の懸け橋になれるのは在日の役目でしかないと強く感じています。
政治的にどんなことがあっても日本にいるときにはしっかり韓国人として育ててくれた日本を愛し、韓国にいるときには韓国人としてしっかり母国の発展のために母国を支えていくことを忘れず、テコンドーという特技を持って懸け橋になり、多様な文化を取り入れられるような人間をめざします。
◆在日の後輩たちに伝えたいことは。
何度も言ったように、在日として生まれたことはとてつもない財産です。生まれてきた人の自由で生まれるわけないので、そんな中で在日として生まれたのはすごいラッキーだと思います。
ですが、まだ在日として隠したり、自尊心が低かったりする人も多いと思います。
どんな環境でも、その人の思考や行動でその人の環境が変わるということを忘れず、自分に与えられた環境を最大限に利用して自信をもって人生を歩んでいってほしいなと思います。
ある団体にいたり、組織に所属したりしてたくさんの人と出会えることは、成長できる大チャンスだということを忘れず、在日という肩書があるのならそれも最大限に利用してほしいなと思っております。あとはなんでも挑戦して、失敗して、また在日として韓国も日本の支えることができる人になってほしいと思います。
江畑秀範(金秀範)
大阪生まれの在日3世。
高校2年生の頃にテコンドーを始めると、高校3年生の時、単身で海外に渡り武者修行をするなどハードトレーニングを重ね、わずか2年で全日本選手権を制し、2020年まで、男子80キロ級で9連覇を果たし、日本テコンドー界最強の男と言われている。2013年からは在日大韓体育会の勧めで韓国の国体にも出場し、在外同胞の部で2019年まで7年連続で金メダル。
国内では敵なし状態のため、2019年にはクロアチア、韓国、オーストラリア、米国、英国など海外で試合を重ねる。
19年にフリー宣言をした後、2020年10月に格闘技の「RIZIN」に参戦。
(2022.01.01 民団新聞)