掲載日 : [2023-07-19] 照会数 : 68748
よみがえる朝鮮人虐殺「関東大震災絵巻」初公開
[ ガラスケースに納められた「絵巻」に見入る観覧者 ]
「関東大震災100年 隠蔽された朝鮮人虐殺」と題した2023年高麗博物館企画展で朝鮮人虐殺場面を活写した「関東大震災絵巻」2本が初公開された。作者自筆のサイン「大正一五年早春 淇谷」により、震災から2年半後に完成させたものとわかる。「巻1」には「この絵巻を通して『省慮の念』を促したい」と後世の目を意識したメッセージが100年を経過して見つかった。
絵巻は2巻合わせて30㍍を超える。1巻目は都内の昼時から始まる。のどかな街の景色だ。最後のほうに進むと、いきなり衝撃的な3つの朝鮮人虐殺場面が登場する。
炎が見える住宅のすぐ手前。20数人の警察官、軍人、自警団らに追い込まれ、仰向けに倒れてしまった青色着衣で裸足の人物が大衆の面前で警察官らしき人に足蹴りにされている。その近くでは必死で逃れようとしている人物に、手に手に棍棒を持った人たちが襲いかかっている。
もう一枚、後ろ手に縛られた学生帽姿の青年が刀を手にした軍人に囲まれた。肩から腕にかけて大量の血が流れているのを確認できる。
多くの警察官が見下ろすなか、犠牲者がござの上に無造作に山積みにされている絵も。モノでも扱うかのようで、人間としての尊厳をまったく考えていない。身体にはそこかしこに流血の跡。おそらくこの後、穴でも掘って埋められたのかもしれない。一方、対照的に日本人の震災犠牲者は担架に乗せられて死体収容所に運ばれ、丁重に追悼されている。
淇谷はこの事態を「前代未聞の恐慌」と受け止め、経験しなかった人々に「省慮の念(省み、よくよく考えてほしい)」を促すのが「希望」だと記している。2巻目は横浜を含む東京より西の方を描いている。
絵巻一、二は高麗博物館前館長の新井勝紘さんが2021年2月、ヤフーオークションで東北の業者が出品しているのに気づき、9万7000円で落札した。新井さんは「強烈な絵。大衆の面前ですよ、ひどい場面です。これを虐殺と言わないで、なんと言えようか」と当時の衝撃を思い出していた。
新井さんは国立国会図書館デジタルコレクションを駆使し、淇谷が福島県西郷村出身の教員画家だと突き止めた。地元には碑が建っており、人柄が慕われていたことがわかった。
新井さんは「100年たってよく出てくれたものだ」と感謝と驚きの言葉を口にした。
企画展は月・火曜日を除く12月24日まで(12~17時)。一般400円。TEL03・5272・3510。
(2023.7.19民団新聞)