掲載日 : [2023-02-15] 照会数 : 2240
《試写室》シン・スォン作品「オマージュ」
女性映画監督先駆者の苦悩
自からの姿に投影し
韓国では#Me Too運動が広まった2018年ごろから女性映画監督が次々にデビューし、女性を描く作品も増えてきた。
では、50~60年代はどうだったか。男尊女卑の風潮があたりまえのようにまかりとおり、映画作りに携われる女性はほんの一握りでしかなかった。
「オマージュ」のシン・スォン監督自身、駆け出しのころは映画会社の代表に「アジュンマ(おばさん)がなぜ映画を撮るのか。家事でもしていればいいのに」と言われたそうだ。このため、シン監督自身、自らの子どもの存在は隠していたという。
本作は女性が生きづらかった時代にいっとき輝きながらもやがて消えていった韓国初の女性映画監督パク・ナモクと2人目のホン・ウノへのシン監督からのオマージュだ。
10年に映画デビューしたシン監督にとっては6本目となる長編映画。撮るときはいつも「これが私の最後の映画になるのでは」と緊張し、怖くなる。そのたび、2人の先達から勇気をもらったという。
主人公のジワンに「パラサイト 半地下の家族」などに出演した韓国を代表するバイプレイヤーのイ・ジョンウン。悩みながらも映画を撮ることをあきらめない姿にシン監督自身を投影させている。夫役にクォン・ヘヒョ、息子役に「愛の不時着」のタン・ジュンサンと幅広い年代の実力派俳優が結集した。
3月10日より東京のヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかでロードショー公開。
◆あらすじ◆
ヒット作に恵まれず、新作を撮るメドがたたない49歳の映画監督ジワンのもとに寄せられたのが、60年代に活動したホン・ジェウォン監督が残した映画「女判事」の欠落した音声を吹き込むという仕事だった。
同映画は韓国初の女性判事が夫に毒を盛られた実話をもとにしている。「音声がない」というのはオマージュの設定で、実際は音声はあるが一部フィルムが欠落していた。ジワンはホン監督の家族や関係者のもとを訪ね歩きながら真相を探っていく。
ジワンは女性が映画業界で活躍することがいまよりもずッと困難だった時代の真実を知る。夢と現実、現在と過去、その狭間を行きつ戻りつしながらもジワンはフィルムの修復とともに自分自身を回復させるかのように人生を見つめなおし、新しい一歩を踏み出していく。
(2023.2.15民団新聞)