掲載日 : [22-10-27] 照会数 : 7163
アイドル活動と違約金…業務委託でも一般常識で検討を
Q
私の子は芸能事務所に所属し、アイドル活動をしています。最近は知名度も上がり、毎日忙しくレッスンやライブ活動に励んでいます。
そのような折、体調不良でライブを休んだことがあったのですが、そのライブが大事な舞台だったようで、事務所から「契約違反だ」として違約金100万円を請求されました。この支払いには応じなければならないのでしょうか。芸能関係には詳しくないので、こうした業界ルールがあるのでしょうか。
A
アイドルは所属事務所の指示に従って、ライブやメディア活動などを行います。なぜなら、アイドルと事務所との間には契約関係があるからです。この契約が労働契約(定額給料制)か業務委託(歩合制)かはケースバイケースですが、一般的には業務委託(歩合制)が多いといわれています。
ただ、どちらの契約であるにせよ、事務所が損害賠償請求するには、アイドルに故意・過失、すなわち落ち度がなければなりません。
人間である以上、体調不良など、やむを得ず休むときもあるでしょう。しかしながら、体調不良をアイドルの落ち度とするのは、あまりにも酷です。
このため、体調不良を理由とする損害賠償請求は認められず、本件では支払う必要はありません。
ただし、体調不良になった原因に契約違反や法律違反があったときは、落ち度があるとして、損害賠償が認められてしまいます。
たとえば、契約で「22時以降の外出禁止」とあるのに深夜外出して体調を崩した(契約違反)、未成年飲酒(法律違反)などです。
では、損害賠償が認められた場合、いくら支払わなければならないのでしょうか。原則は、アイドルが休んだことで生じた損害額(チケットやグッズ売上などの減少分)です。
しかし事務所がこうした損害額を証明することは難しいでしょう。このため契約に「契約・法律違反があったときは〇〇円支払え」という違約金が定められることが多いのです。
では、こうした違約金条項があった場合、その金額を支払うべきなのでしょうか。ここで問題になるのが、はじめに触れた労働契約と業務委託契約の違いです。
労働契約の場合、違約金を支払う必要がありません。法律上、労働者(アイドル)を守るため、労働者と使用者(事務所)との間で、あらかじめ違約金を定めてはならないからです。
そうなると、この契約が労働契約かどうかが大事になります。これは様々な要素(アイドルが仕事を断ることができるか、報酬の決定権や著作権がどちらにあるかなど)を総合考慮して判断されるので、省略します。
なお、もし業務委託契約であったとしても、落ち度に比して支払額が大きいときは、暴利行為として違約金を払う必要がないこともあります。
以上、芸能関係にも一般取引と同じルールが適用されるので、芸能関係だからといって構えることなく、一般常識にそって請求に応じるべきか検討しましょう。
弁護士 河景浩