関東大震災から今年で99年目。4日、東京・港区の韓国中央会館で開かれた「第4回人権セミナー」で元教員の山本すみ子さんが横浜での朝鮮人虐殺について、戒厳令下、警察が先頭に立ったとする研究成果を発表した。すなわち、治安対策にあたるべき官憲自ら流言を発信し、拡散し、さらに自警団を組織したと指摘。虐殺はなかったとする歴史修正主義の流れに一石を投じた。
歴史修正主義の流れに
セミナーは民団中央本部人権擁護員会(李根茁委員長)と在日韓国人法曹フォーラム(殷勇基会長)が共催。関東大震災の流言蜚語により虐殺された人々を追悼するとともに、その事実を隠ぺいしようとする歴史修正主義の正体を検証する目的で毎年開催している。民団中央本部から呂健二団長が参席した。
山本すみ子さんは横浜市立小学校を退職後、地元で市民団体「関東大震災時朝鮮人虐殺の事実を知り追悼する神奈川実行委員会」を組織し、代表を務めている。この日、「徹底的に隠蔽された横浜の朝鮮人虐殺の事実」と題して発表した。
発表によれば、「不逞鮮人が危ない」と言ったのは神奈川県警の西坂勝人高等課長。関東大震災時に治安対策の中心だった人物だ。各警察署では高等課を中心に「不逞鮮人」の動静を監視していた。
「神奈川方面警備部法務部日誌」によると、西坂高等課長は各警察署の巡査たちを集め、朝鮮人を逮捕、検束するよう指示した。時によっては「殺してもいい」とさえ言い放ったという。併せて各地の自警団を組織するよう促した。自警団による虐殺事実は裁判記録からも明らかになっている。震災直後の9月2日の夜から「戦争状況が起こった」ようだ。
最近の研究によれば軍隊による虐殺事実も明らかになった。これは山本さんが9月、横浜市内の図書館で調査した『神奈川方面警備部隊法務部日誌』に記録されていたもの。いつ、どの部隊が関係したのかなどは詳細はわかっていない。ただし、『横浜市史』には「神奈川県鉄橋の虐殺500人はそれなりの武器がなければ不可能」との記述があるとされる。
山本さんの発表を受けてパネルディスカッションが行われた。
コーディネーターを務めた薜幸夫人権擁護委員会副委員長は「今日のヘイトスピーチ、ヘイトクライムは関東大震災が起点となっている」と指摘した。ジャーナリストの安田浩一さんは「一部の保守勢力が事実をなかったこととする歴史修正主義と呼ばれる現象が全国各地で起きている。これは歴史否定、歴史否認というべきもの。そのエネルギーは差別と偏見だ」と強調した。
オープニングでCBSフィルハーモニックオーケストラでコンサートマスターを務める在日同胞の金那英さんが鎮魂のバイオリン演奏を披露。閉会にあたっては出席者全員が犠牲者に黙とうを捧げた。