掲載日 : [2023-01-18] 照会数 : 1612
際立つ在日の自殺率 「セーフティネット構築を」
[ 金泰泳教授(東洋大学) ]
金泰泳教授呼びかけ
在日韓国・朝鮮籍の自殺死亡率が日本全体より際立って高いことが在日同胞社会学者の金泰泳さん(東洋大学教授)の研究で明らかになった。
人口10万人あたりの国籍別自殺率(2021年)は日本全体が16・5だったのに対し韓国・朝鮮籍は27・2と1・6倍だった。韓国・朝鮮籍にはカウントされない日本国籍取得者を加えれば、この数字はさらに跳ね上がるとみられる。
韓国・朝鮮籍の自殺率が日本全体を上回る傾向にあるのは、金さんが統計を取り始めた06年から一貫して変わっていない。ちなみに2017年の厚生労働省「人口動態研究」によれば、韓国・朝鮮籍の自殺者数は119人で外国籍全体の57・5%を占める。
自殺に至る経緯には精神疾患の問題が所在すると金さんは次のように指摘する。
「マイノリティにとって社会はストレスが多い。マイノリティは民族、人種、性別、出身地、またセクシュアリティ、障がいなど、さまざまな属性にもとづいて蔑視や差別をうける。排除・疎外されるという経験を日夜している。そのストレスの長期にわたる蓄積ゆえに、マイノリティは精神疾患の発症リスクが高い人々であるといえる」
金さんが韓半島にルーツを持つ在日同胞を対象に21年夏、約1カ月かけて実施した「在日コリアンのメンタルヘルスに関するアンケート調査」がある。回収は165人。
「身近な人で自殺をした人がいるか?」との問いには44・7%が、「はい」と回答した。自殺に追い込まれる理由としては「日本社会における差別」が68・4%と最多。このほかには「経済的理由」(63・2%)、「家族の不和」(38・7%)、「在日コリアンに対するヘイトスピーチ」(36・7%)が続いた。
これに対して日本の医療者やカウンセラー、支援職の理解は十分だろうか。金さんは否定的だ。「マイノリティの医療やカウンセリングにおける問題の一つに『クリニカル・バイアス』がある」のだという。日本の精神科世界への啓発の必要性を訴えた。
「支援を必要とする『在日』が訪れた機関が、自身の存在に対して否定的な見方を持つ人々であったとしたらどうであろうか。そのとき、医療やカウンセリングは『救済』ではなく『暴力』の機能をはたすことになってしまうであろう」
併せて「在日」を対象とした「いのちの電話」、「『在日』自死遺族会」のような「在日」による「在日」のためのメンタルヘルス・システムの構築が急がれると指摘した。
第2次調査へ
金さんは「第2次在日コリアンのメンタルヘルスに関するアンケート調査」を準備している。対象は韓半島にルーツを持つ在日韓国・朝鮮人であれば国籍は問わない。
1次調査と併せて結果を分析し、「在日コリアンのメンタルヘルスに関するセーフティネット」ないしは「在日コリアンの自殺予防対策」を構築していく考えだ。
連絡先はzainichimental@gmail.com
(2023.1.18民団新聞)