掲載日 : [2021-03-17] 照会数 : 4962
<寄稿>南北赤十字会談開始から50年…有名無実の「離散家族」合意<下>
[ 在北離散家族との生死確認と書信交換、そして再会および故郷訪問の早期実現を祈願して2019年9月に坡州市・臨津閣の望拝壇で実施された以北道民会主催の第50回以北父祖敬慕大会。昨年は、新型コロナウイルス感染予防のために実施されなかった ]
急がれる北最高指導者の誠実履行
旧東西両独および中・台の先例
南北離散家族の「常時再会・自由往来・再結合」は、北側に「南北合意」実践意思が本当にあるならば、「統一」以前でも実現できるし、必ず速やかに実現しなければならない。決して米国など周辺強大国の反対・妨害によって「常時再会・南北往来の実現」が先送りされているのではないからだ。
金正日委員長は、2000年8月に「6・15共同宣言」に基づく第1回南北離散家族再会実施に先立って平壌を訪問した韓国メディア代表団(46社の社長団)との会見で「来年には(離散家族が肉親の)家まで行けるようにする」と明言した。だが、約束は実行されなかった。この時、金正日委員長は「統一の時期は私の決心にかかっている」とも公言していたのである。
分断国家であった東西両ドイツの場合、離散家族の再会は、韓半島南北間で行われてきたような不定期・監視下の対面行事としてではなく、人道的問題として制度的に保障され、実施された。東独は61年に「ベルリンの壁」を建設したが、63年に西ベルリン当局と、クリスマスや新年の休暇シーズンに西ベルリン市民が東ベルリンの親戚を訪問することを可能にする協定を結んだ。
東独は、60年代の半ばからは年金受給年齢(男65歳、女60歳)に達した高齢者の西独訪問を認めるようになり、その数は70年には100万人にのぼった。
その後、東独と西独は71年12月に「ベルリン通行協定」を締結。さらに、72年10月の「両独基本条約」により両独の市民は出生、死亡、結婚、銀婚式、金婚式、重病など「緊急な家族的事由」が発生したときには、いつでも政府の承認を得て相手方の地域を訪問できるようになった。
西独から東独への旅行は、東独政府が入国ビザを出してくれる限り、なんの制約もなく、年間500万~700万人が東独を訪問していた。
また中国と台湾との間でも、87年11月に台湾が住民の中国への観光および親族訪問を解禁してから経済・文化交流および人的交流が急増した。91年には台湾住民の中国訪問は約100万人に達し2001年には344万人にのぼった。
05年には「両岸(中台)間に離散家族の苦しみはない」として政治と人道主義を分離して、3通(直接の通商、通航、通信)を推進。08年には、台湾がこれまで渡航を厳しく制限していた中国人観光客の受け入れを開始。中台間の直行チャーター便が大幅に増発され、09年4月には定期便が就航した。
翌10年には一種の自由貿易協定(FTA)である「海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)」が締結された。中国進出台湾企業は10万社、中国在住台湾人は大都市を中心に100万人、往来者数は年間500万人を超えるといわれる。中国と台湾とは、海峡を挟んで軍事的対立構造にあり敵対関係が継続し、首脳会談などが開かれる状況にはないが、離散家族の交流・故郷訪問は制約なく実施されている。
人道的問題として最優先解決を
離散家族同士の再会は、最も基本的な人道問題であり、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約、B規約)など国際的な宣言や取り決めに明記された基本的人権(移動の自由及び居住の自由)でもあり、最優先的に解決されなければならない。
旧東西ドイツ間の家族往来を知り、また中国・台湾間の家族往来を知る世界の人々、とりわけ韓半島事情に通じる日本の人々の目には、離散家族の生死確認・手紙のやり取りすら実施されておらず、しかも「自由なき離散家族対面行事」を「最高指導者の特別な配慮」によるものとし、その再開・継続に「見返り」を求める北韓当局の態度と、そのような北側に無批判・同調する韓国内の「進歩・統一運動団体」による、離散家族問題の解決をないがしろにした「わが民族同士」の合唱と「民族自主解決」の主張は、この上なくグロテスクで奇異に映っていることだろう。
「6・15共同宣言実践南側委員会」は、同北側委員会および同海外側委員会(朝鮮総連主導の日本地域委員会が中心)と共に、「6・15共同宣言を実践して民族の和解と団結、平和と統一を成し遂げることを使命とする全民族的な統一運動連帯組織であり、統一運動の先鋒組織」と称する「6・15共同宣言実践民族共同委員会」を構成、これまで「わが民族同士」および「民族自主」を強調した「宣言」などを発表している。
しかし、なぜか、離散家族問題の根本的解決を、最優先課題として南北両当局に促したことは一度もない。
「わが民族同士」の精神を大事にし、その実践を切望するならば、離散家族問題の根本的解決へ、再会行事の再開、定例化・規模拡大はもとより、「常時再会・墓参・再結合のための相互往来」の早期実現を南北双方の最高指導者に強く促してしかるべきだ。
「6・25韓国戦争」休戦から70年近くも続く離散家族問題の解決は、南北関係の改善・発展、平和統一推進に大きな位置を占めている。離散家族の再会・墓参のための相互訪問は、政治的問題とは切り離され純粋に人道的問題として、最優先的に制度的に推進されなければならない。
そもそも離散家族問題の根本的解決は、朴正煕・金日成時代の「7・4南北共同声明」で確認され、盧泰愚・金日成時代の「南北基本合意書」で具体的に明示され、「6・15南北共同宣言」(金大中・金正日)、「10・4共同宣言」(盧武鉉・金正日)、「4・27板門店宣言」(文在寅・金正恩)、「9・19平壌共同宣言」(文在寅・金正恩)のいずれにおいても強調されている。南北両首脳は「宣言」の誠実な履行を全同胞に約束してきたのであり、離散家族問題の解決に全力をあげ取り組んで当然であった。
当事者がまだ元気なうちに必ず
それにもかかわらず、今日に至るまで、根本的解決のための具体的措置はまったく講じられていない。南北両首脳は、当事者が一人でも多く元気なうちに再会・墓参の願いを必ずかなえてやらなければならない。これまでのような不定期再会行事方式では離散家族問題の解決は不可能だ。高齢の離散家族に残された時間はあまりない。
新型コロナウイルス防疫などを口実にして、問題解決をさらに先送りすることは絶対に許されない。新型コロナウイルス感染予防のために、今は直接対面・再会推進が難しいならば、画像再会とビデオレターの交換を速やかに実施し定期化させなければならない。同時に、離散家族問題の根本的解決へ、再会行事の定例化・規模拡大はもとより、「常時再会・故郷訪問・再結合のための相互往来」の実現に全力を注ぐことが求められている。
「9・19平壌共同宣言」以後、韓国側は、これまで見たように大統領をはじめ赤十字社総裁、統一部長官らが離散家族問題解決のための南北対話や赤十字協議の必要性を強調し、北側に対話・協議の早期再開を呼びかけている。
これに対して北側は応じず、理由を明示することなく沈黙を続けている。離散家族問題の根本的解決には、北側の積極呼応と「首脳宣言」の速やかな実践が不可欠だ。なぜ、まったく反応せず、南北間「最大の人道・人権問題」の解決を後回しにしているのか。本当に解決しようという意志があるのだろうか。時間がたつほどますます再会が困難になる。
南北赤十字会談が開始されてから今年で50年にもなる。当事者たちが元気なうちに再会・墓参の願いをかなえてあげることができるかどうか、ひとえに北側最高指導者の決断にかかっている。これ以上の解決先送りは決して許されない。
ちなみに、北側最高指導者は、機会あるたびに「『以民為天』の崇高な理念を骨の髄まで刻み人民大衆第一主義に忠実である」ことを力説している。
なお、在日同胞にとっては、より身近で切実な離散家族問題として、「帰還事業」(1959年12月~84年7月)で北韓に渡り、いまだに一度も帰省・墓参を許されていない約9万3000人(日本人妻らを含め)の家族・親戚の問題がある。「帰国1世」と在日離散家族らに残された時間もわずかしかない。
20代だった人も今では80代の高齢者となった。「帰国同胞」全家族の生死・住所の確認と在日家族・親戚との自由な再会・相互訪問の、一日も早い実現が望まれている。
朴容正・元民団新聞編集委員
(2021.03.17 民団新聞)