掲載日 : [2022-03-01] 照会数 : 5759
大阪市ヘイトS規制条例、最高裁が合憲判決
[ 在特会関係者による街頭宣伝(2013年10月19日、大阪の難波駅前=「多民族共生人権教育センター」提供) ]
民族差別を煽るヘイトスピーチを行った個人や団体の名前の公表を定めた大阪市の条例が憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁判所は2月15日、「表現の自由の制限は必要やむをえない限度にとどまる」として憲法に違反しないとする判決を言い渡した。
大阪市は2016年に弁護士などで構成する有識者審査会の意見を踏まえ、市がヘイトスピーチに当たると判断した場合、内容と発信者の個人や団体の名前を公表するほか、掲示物の撤去を要請すると定めている内容の条例を制定した。
この条例について市内に住む6人が憲法が保障する表現の自由を侵害するもので無効だと訴えていた。
1審の大阪地裁と2審の高裁はいずれも合憲とし訴えを退け、市民側が上告していた。
15日の判決で、最高裁判所第3小法廷の戸倉三郎裁判長は「条例の規定は、表現の自由を一定の範囲で制約するが、人種や民族などへの差別を誘発するような表現活動は抑止する必要性が高い。市内では過激で差別的な言動を伴う街宣活動が頻繁に行われていたことも考えると、規定の目的は正当だ」と指摘。
そのうえで、「条例で制限される表現活動は、過激で悪質性の高い差別的言動を伴うものに限られており、表現の自由の制限は必要やむをえない限度にとどまる」として憲法に違反しないと判断し、市民側の敗訴が確定した。ヘイトスピーチを規制する条例に対し、最高裁の判断が示されたのは初めて。同様の条例を検討している自治体にも影響を与えそうだ。
ヘイト規制に援軍…最高裁「合憲」歓迎の声
最高裁が氏名公表などを定めた大阪市のへイトスピーチ抑止条例を「合憲」と判断したことについて、関係者から歓迎の声が上がっている。在日韓国人法曹フォーラムの殷勇基会長は「一定の法規制を認めた」ことに意義があると指摘した。また、実効性のある条例制定を求めて大阪市と神奈川県川崎市で運動してきた各団体の関係者は力づよい援軍と各自治体への広がりに期待している。
条件付きで罰則も許容か…在日韓国人法曹フォーラム会長 殷勇基さん
そもそも国際人権法の世界では、ヘイトスピーチを含む人種差別を「撤廃」していくためには、(1)教育、啓発活動とともに、(2)一定程度の法規制が必要だ、とされています。しかし、日本では(1)教育、啓発活動で「撤廃」していくべきであって、(2)法規制は避けるべきだ、という意見も根強くありました。最高裁がそれを退け、一定の法規制を認めた、という点に今回の判決の意義があります。
また大阪市の条例は、例えば「○○人である△△を町からたたき出せ」というヘイトスピーチだけでなく、「○○人を町からたたき出せ」というヘイトスピーチも対象にしています。
前者も後者もヘイトスピーチなので、違いがないようにも思えるのですが、日本の現在の法律の世界では、後者については法的規制がなかなかむずかしい、とされていました。
後者の場合、「○○人」というだけでは、具体的な個人が(ヘイトスピーチによる)被害者になっていないから、という理由です。今回の判決は後者についても法規制することを認めました。
すでにヘイトスピーチに関する条例を定めた他の地方自治体、これからヘイトスピーチに関する条例を定める地方自治体は今回の判決を参考にするでしょう。
なお、大阪市の条例では氏名公表などを定めているだけなのですが、その後に制定された川崎市のヘイトスピーチに関する条例では法規制としてさらに厳しく、ヘイトスピーチを(警告などを受けたにもかかわらず、その後もさらにヘイトスピーチを繰り返した場合には)犯罪としたうえで、罰則(最高罰金50万円)を定めました。
今回の判決はあくまでも大阪市の条例が定めるヘイトスピーチ規制を合憲としただけで、川崎市の条例や、罰則を定めることが合憲かどうかについては判断を示していません。そして、大阪市条例の合憲を導くに当たって、大阪市条例は「法的強制力を伴う手段」を規定していないから、などを理由としてあげている部分など気になるところもあります。
しかし、今回の判決からすると、慎重な手続きを踏んだうえでなら、ヘイトスピーチに対して罰則を科すことも最高裁は合憲と判断するのではないかと考えています。
実名公表で一定の成果…大阪・文公輝さん
最高裁による判断は極めて妥当なものであり、歓迎したい。
「多民族共生人権教育センター」は、大阪市内で悪質なヘイトスピーチが繰り返されていた2013年から15年ごろにかけて、大阪市ヘイトスピーチ規制条例制定を求める運動に取り組んできた。
被害実態調査によって、自宅ですら安心できない、自由に街を歩けないなどの被害実態を明らかにした。
大阪市会の各会派に対して実態調査の結果を説明し、罰則付きの条例制定の必要性を訴えた。これが大阪市条例の立法事実となったのだ。
残念ながら、制定された条例は罰則ではなく、氏名公表を含めた措置が規定するものだった。既に3件について2人の実名が公表され、一定の効果を発揮している。
社会的害悪であるヘイト抑止のための条例が表現の自由を侵害するなどいう主張は、そもそもあり得ないものだった。今回の判断が、各自治体で検討されているヘイト対策が、実効性ある条例として実を結ぶ力となることを期待している。
条例審議中の自治体に勇気…川崎・山田貴夫さん
最高裁判決は、ヘイトスピーチは特定の人種、民族を対象に社会からの排除を目的にし、彼らに差別意識、憎悪を誘発、助長するものか、生命、身体などに危害を加えるという犯罪行為を扇動するものであり、抑止する必要性が高く、学識経験者などによる第三者委員会の審査を経て、差別的言動を行う者の氏名公表を行うなどの条例の規定は合理的で正当と判示したことは高く評価したいです。
現在審議中の相模原市や、制定を求める広島市の市民団体などに勇気を与えるものと期待しております。
(2022.03.02 民団新聞)