掲載日 : [2023-02-01] 照会数 : 1439
≪河正雄コレクション≫ 歴史の証言としての美術
[ 作品の説明をする河名誉館長(民団新聞DB) ]
鎮魂であり、希望の祈り
平和と正義訴える'光州市立美術館
コレクションを始めたのは25歳(1964年)の時である。故郷の秋田県田沢湖畔に、徴用で犠牲になった朝鮮人達の霊を慰める「祈りの美術館」を建立する計画があった。コレクションは在日韓国・朝鮮人の作品から始まり日本、韓国、中国、欧米作家へと広がった。
1980年代になって韓日間に於ける徴用工らの戦後補償問題が起きたことで、その計画は頓挫した。
それらの作品は1990年代の初めから現在まで韓国と日本の美術館や大学機関に1万2000点以上の美術品や資料を寄贈している。一個人のメセナ運動としては、国内外に例を見ない。人生哲学が盛られている。
河正雄コレクションの特徴は時代と人間の生活を記録した「歴史の証言としての美術」だ。社会的、政治的に不遇な立場におかれ疎外された者や、歴史の渦の中で悲痛な犠牲になった者らを慰謝する「祈祷の美術」。芸術活動の究極的な目標であり、役目でもある、人に「幸福を与える美術」である。
河正雄コレクションは、日韓の近現代史の激動の中で形成された在日作家達の作品の収集に始まる。これらの作品には在日韓国・朝鮮人が経験した民族的な「恨(ハン)」や苦痛、絶望、死そしてこれらを慰労するための「祈祷」と「鎮魂」が込められている。美術が社会的な機能を遂行することにより、在日韓国人の歴史的な苦痛を理解する重要な証言であり記録である。
また韓日美術史の中で光を当てて在日作家たちを世界に知らせ、後世の研究資料としての美術史的意義を持つ。抑圧された告発や抵抗、自由と平等への渇望と挫折や葛藤を乗り越えようとする希望のメッセージである。
痛みと絶望を乗り越えようとする祈祷の美術であり、希望と幸福に彩られた人間の生を渇求するメッセージが込められている。
戦争やすべての抑圧、貧困がなくなり、平和と愛の到来を祈るという、遠大な哲学的意味を含んでいる。これは在日朝鮮・韓国人の「人権」から始まり、韓半島の「平和統一」、河正雄の二つの祖国である韓国と日本の「共存」を祈るメッセージである。不遇な者の痛みと悲哀への理解と治癒を通じ、鬱憤を愛に昇華させることで、人権思想の伸張、人類の平和と正義の実現を訴えるメッセージを送っている。
コレクションをしていた日本で、寄贈した韓国でも、在日の美術に対する関心は非常に薄かった。ゴミのようなガラクタ作品であると全く評価されなかったが、1990年代に入り、李禹煥の絵が国際的オークションで数億円で落札されて以降、手のひらを返すように在日作家にも光が当たるようになり、河正雄コレクションに注目するようになった。
2月8日から文化院で展覧会
8日から河正雄コレクション‐江上越・河明求「徒徒(つれづれ)」展が東京・新宿の韓国文化院で開催される。
私は2001年から光州市立美術館主催にて「河正雄青年作家招待〝光〟展」を開催し、115名の作家を世界の美術界に送り育てて来た。
そんな経緯から本展は30代の韓日作家を紹介し、仲間として一緒に行動し歩もうというメッセージを次世代に送りたいと企画された。若いエネルギーを持って芸術、美術の力で韓日、そしてコロナ禍、ウクライナの戦争から閉塞し鬱屈としている現実を乗り越えたいと祈念している。
(2023.2.1民団新聞)