第18代韓国大統領選挙にあたって、日本地域の在外選挙人は5日から10日までの6日間、大使館と総領事館の所在地、全国計10カ所で投票を行った。日本地域の有権者が1票に託した思いは、祖国から離れた「在外」だからこそと思える格別な感慨があったようだ。大使館と大阪総領事館で1票を投じた有権者に聞いた。
本国がより身近に 東京
前回の国会議員選挙は比例代表で、政党を選択する1票だった。しかし、今回は大統領候補1人を選ぶだけに重い責任を感じたようだ。
東京の文春子さん(72、在日2世・自営業)は、「自分の1票が勝敗の行方を左右するのかもしれないと考えて、身の震える思いを味わった。胸がドキドキ」と、興奮した口調で語った。同じく鄭奉善さん(87、在日1世・無職)も「祖国の大統領を選ぶのに参加できたなんて、なにか偉大なことをした気分。この喜び、嬉しさはなにものにも代えがたい」という。
金昌鎮さん(69、在日1世・無職)は、「待っていられない」とばかり投票初日に大使館に駆けつけ、「一生の記念に」と、選管関係者に頼んで自ら投票する様子をカメラに収めていた。
外国での投票に「愛国心をかき立てられる」という声も聞かれた。金主羊君は留学生仲間と千葉から駆けつけた。「韓国での投票所は近所にあるが、本国と違ってここに来るまで時間がかかった。その分、韓国人であることを意識させられた」と話し、緊張した面持ちで1票を投じていた。
早稲田大学に通う在日3世の李明樹君(19)は、「親から『投票して初めて人間になった気がした』と聞かされた。僕自身、日本にいるけど、韓国人として生きているような実感を得られた」と語った。所用があって愛媛県から上京し、大使館で投票した李和美さん(団体職員)も「自分が本当に韓国国民なんだな」と実感していた。
安保と経済重視
有権者が重視した政策は安保と経済が目立った。山梨県の鄭郁さん(63、在日2世・自営業)は、「いちばん心配なのは安保。特に北韓との関係を重視した」と述べた。東京の崔益雄さん(73・在日2世、自営業)も「北韓には厳しい姿勢をとってほしい。太陽政策は失敗だった」という。一方、武蔵野市在住の朴敬甲さん(76、在日2世・無職)は、「なによりも経済重視。朴正熙元大統領時代からの成長路線を継承してくれる候補に1票を入れた」。千葉の鄭英模さん(65、在日2世・司法書士)は、「日本は右傾化している。挑発に乗らない、韓国経済を安定に導いてくれるだろう候補に投票した」。
韓日関係については各候補とも目立った言及がなかっただけに、判断に迷ったようだ。神奈川の徐史晃さん(32、青年会中央本部会長・在日3世)は、「在日の友人の話を聞くと、領土問題や歴史認識の問題で肩身の狭い思いをしている。いずれも難しい問題だろうが、次期大統領には日本との関係をよくしてほしい」と語っていた。
東京で出版者を経営する高二三さん(61、在日2世)は、「祖国がちょっとでも良くなればと願い、たとえ小さな力かもしれないが、国民としての声を出すのが今回の選挙の意義だと思う。これを機会に、在日同胞と本国との距離感が少しでも縮まることを願っている」と強調した。
国民の自覚ひしと 大阪
大阪市の朴米子さん(60、在日2世・婦人会大阪本部文化部長)は「選挙人登録の時と違い、胸に奮い立つものを感じた。足が震え、胸がどきどきした」と感激を語った。同じく、洪智恵さん(26、東大阪市・会社員)は、「韓国から国民として認められたことを実感できた」と話していた。
在日3世の尹祉惠さん(24、大阪市・団体職員)は、「これまで韓国の選挙はほど遠いものと思っていただけに、喜びがこみ上げてきた」という。「韓国で在日への関心が高まればと思っている」。
枚方市からやってきた辛美香さん(40、在日3世)は、日本にいながら韓国の大統領を選ぶことができたことに、「在日韓国人として誇りに思います」と述べた。日本に来てまだ3年という梁京姫さん(55、大阪市)は、「韓国にいたときはあたりまえに思っていたのが、海外での投票となると胸がいっぱいになった」という。候補者選びの基準となる政策情報の収集には苦労したと語った。
(2012.12.21 民団新聞)