掲載日 : [2010-10-20] 照会数 : 6897
外交・調整力問われる韓国 「中国リスク」縮小する創意を
[ 5月に済州道で開かれた韓日中首脳会談で記者会見する李明博大統領(中央)ら
] [ 韓国経済の対中依存度は極めて高い(現代自動車の北京第2工場竣工式)
]
西海における韓国海軍哨戒艦・天安の撃沈事件で、中国は韓国に自制を求める半面、北韓に警告する意味を持つ韓米合同軍事演習に対し、自国の脅威になるとして猛烈に反発、対抗的な軍事演習を連続的に実施した。尖閣諸島(釣魚島)沖での日本巡視船と中国漁船の衝突事件では、日本が対応に配慮を欠いたとは言え、居丈高とも映る強硬な態度に出た。中国のこうした姿勢は、韓国と中国、日本と中国との関係を軸に、韓・日・中3国の相関関係の危うさを浮き彫りにした感がある。韓国・日本と中国の絡み合いは、東アジアの安定と北韓・統一問題に重要な影響をもたらす。今後ますます、韓国の外交・調整力が問われる。
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高い経済依存度
股裂きに合う恐れも 統一へ相互理解は不可欠
韓国と日本の関係は、独島領有や歴史認識の問題などいくつかの地雷原を抱えながらも、おおむね良好に推移している。主要20カ国・地域(G20)首脳会議を前にして、為替問題を新たな火種に関係悪化が憂慮されているものの、こうした対立の修復にはさほど手間取らない成熟した段階に入りつつある。両国とも経済・政治の運営や国民意識の在り処が見えやすく、それが相互信頼につながっている。
一方の韓国と中国との関係は、いつ股裂きにあってもおかしくない不安定さがつきまとう。韓国内部で「中国リスク」が膨らんでいる。
韓国にとって中国は、経済発展を支える「黄金の漁場」であるうえに、北韓問題、さらには統一問題で理解し合い、協調し合わねばならない相手だ。北韓にいつ急変事態が起きてもおかしくない状況では、中国との連携の重要性がいっそう増している。
対中国輸出はGDP12%も
だが、北韓・統一問題に対する中国の本意は見えにくく、天安艦事件で現れた類の摩擦がエスカレートしかねないのはもちろん、北韓急変時の対応をめぐっては険悪な事態に発展しかねない要素をはらんでいる。韓米軍事演習や尖閣諸島沖の衝突事件に対する中国の強硬姿勢に、その可能性が垣間見える。
韓国の今年4〜6月期の経済成長率はOECD(経済開発協力機構)加盟国中で1位、上半期輸出額は世界7位、同期輸出増加率は世界3位。世界同時不況を最も早く克服するなど、韓国の順調な経済活動は中国向け輸出の急増に負うところが大きい。
韓国の対中輸出は、1月から7月までの前年比で45%増大し、米国・日本・EU(欧州連合)向け輸出額の合計とほぼ同じだ。今年のGDP(国内総生産)に占める割合も12%を超えると展望される。中国への依存度が高ければ、それだけリスクも高くなる。
10年ほど前、韓国経済は苦い経験をした。米国のIT(情報技術)ブームに乗って対米輸出を急増させ、2000年には8・5%の高い経済成長を記録したものの、ブームが下火になると数年間の低迷を余儀なくされたのだ。当時の韓国は、輸出総額の30%近くを米国市場に頼っていた。
明日は我が身対処忘れずに
純粋な経済面だけを見ても、特定国に依存度を高めることは危険性をも高める。ここに、政治と軍事の要素が加わればなおさらだ。韓国は中国との関係にあって、この分野にこそ神経を研ぎ澄まさねばならない。中国は公式には認めていないが、ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)の対日輸出を一時禁止した。現在も正常な状態には戻っていない。
尖閣諸島沖の衝突事件による日中対立は容易には好転しないとの判断から、韓国経済界の一部では日本企業との競合分野で有利になったとする見方が広がった。しかし、こうした浅薄な評価を下す余裕は韓国にないはずだ。
《明日は我が身》との警戒心を忘れず、衝撃吸収策を準備しておかなければ、経済面の打撃はもちろん、韓国の生命線とも言うべき北韓・統一問題で、中国に引きずられ国益を大きく損なうことにもなりかねない。
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緊要な透明性確保
憶測生む「核心的利益」 北韓の《庇護》にも二面性
天安艦撃沈事件について、国連安全保障理事会での対北韓制裁措置に中国の賛成を求めるべく訪中した韓国当局者に、中国の外務次官は、宋代の詩人・蘇東坡の詩を額に入れて贈った。
「天下有大勇者 卒然臨之而不驚 無故加之而不怒 此其所挟持者甚大 而其志甚遠也」‐「世界には大きな勇気を誇る人間がおり、突然の出来事にも慌てず、故なき侮辱を受けても怒らない。これは、胸に抱く抱負や志が遠大だからだ」との意味になるという。
韓国の当局者は当然、中国側は事件について「忍耐と自制」を求めたものと解釈した。しかし中国は、自国に直接かかわる問題については、明らかに自制的とは言えず、蘇東坡の詩に託した「大きな勇気」とはかけ離れた姿勢を見せた。
西海の演習に猛反発はなぜ
中国は今年になって、領土保全上で最も重要な概念とされる「核心的利益」を強調し始めた。この適用はこれまで、台湾や独立運動が続くチベット、新疆ウイグル自治区に限定され、この地域の主権を守る上で一切の妥協を排除する立場と理解されてきた。
しかし、適用範囲を拡げたとの見方が支配的だ。尖閣諸島のある東シナ海やベトナムなどと領有権を争う南シナ海を含めたというのである。衝突事件での対日強硬姿勢も、その脈絡から説明されている。
当初は西海(黄海)で実施されるはずだった韓米合同演習が、中国の「外国軍艦船が黄海など中国近海に入り、中国の安全保障上の利益を損なう活動を実施することに断固として反対する」との強度の高い反発を前に、東海(日本海)に変更されたことがある。中国のこの態度は、西海をも「核心的利益」の対象にしたのかとの観測を呼んだ。
巨大な大陸・多民族国家である中国の国境は、自然が画定した島国・日本とは違って政治の産物であり、流動的な歴史を持っている。内外から分離作用にさらされているため、中央集権による一元的な統治制度に固執し、国境を接する周辺諸国に威圧的になる傾向が強いと言われる。
不安抱かせる不明確な範囲
中国の言う「核心的利益」とは、周辺国と好んで事を構えるためのものではなく、譲れない一線を明示することで、各種の侵犯・衝突を未然に防ごうとする牽制とも解釈できる。大国主義とは言えても、覇権主義の表明と捉えるべきでないのかも知れない。だが、定義や適用範囲が不明確であれば、疑心暗鬼は生まれやすい。
北韓に対する警告という目的が明確で、しかも中国の領海外における韓米軍事演習に対して、強硬に反発しただけでなく、黄海や東シナ海での頻繁な実弾訓練で応じたことは、北韓・統一問題で事態が緊迫したとき、中国はどう出るのか、不安を抱かせる材料となった。
中国は北韓に対して、内政不干渉の立場を繰り返し言明してきた。したがって、北韓地域を「核心的利益」に含めるなどとは口が裂けても言えない。それでも実際のところ、「核心的利益」に準じる地域と見ているのではないか。こうした懸念も募っている。
だからと言って、中国の強面の側面ばかりを指摘するのは不適切だろう。
中国は今、沿岸部で蓄積された民間資本を、経済発展の恩恵の薄い内陸部に振り向け、沿岸部住民の貯蓄を国内消費に誘導して、低廉な労働力に頼った輸出主導型経済を内需主導型に転換しようとしている。内陸部開発は国際経済との緊密な結合が大前提であり、中国に周辺国や米国と事を構える余裕はない。
北韓に対しても改革開放へ本気で圧力をかけている。自国の政治的・経済的負担を軽減するためだけでなく、東海(日本海)への通路となる北韓の市場化は中国の切実な要求だ。
確かに、長期的な視野に立つこうした見解には説得力がある。問題は、急変事態が起きないよう、中国が北韓を《庇護》・《管理》している現状の二面性にある。
大量の難民発生などの混乱を未然に防いで、韓国と周辺諸国の利益に貢献すると主張できる半面、現独裁体制を温存するための防護壁になっているに過ぎないとの指摘を免れないからだ。事実、北韓は天安艦事件以降、中国への傾斜をいっそう強め、朝・中VS韓・米の対決構図を激化させてそこに逃げ込もうとの意図を露にしている。
米国の大手シンクタンク・CSIS(戦略国際問題研究所)は、今年5月、北韓の体制崩壊に韓・米・中3国がどう対応すべきかをまとめた報告書を発表した。
中国軍は「北韓領内で果たす役割をいろいろ研究している」とし、「人道救済」「治安維持」「核兵器関連施設の管理」などの役割を想定しているとした。
また、中国は軍事介入する場合、あくまで国連の許可を前提とする方針だと述べ、これには韓・米が北韓に軍隊を送り、韓国の統治が北へと拡大すること、在韓米軍が北地域にも駐留すること、この二つの事態を防ぐ目的があると指摘している。
「国連の許可を前提」云々はともかく、この内容は一般的な想定の範囲内にある。以下の政策提言も同様であろう。
①韓・米・中3国は北韓地域への軍隊派遣について事前に協議し、国際的な調整を図る②3国は北韓の核兵器など大量殺戮兵器の完全廃棄に努め、韓半島の非核化を目指す③韓米両国は北韓への対応の透明性を保つとともに、中国に対し同様の透明性を要求する④3国の動きを日本政府に詳しく報告し続ける。
中国に過重な「北韓管理」策
前述の「一般的な想定の範囲内」とは、中国を含む関連諸国が納得するほかないほど基本的な要綱という意味だ。そのなかで当面、最も重要なのは③の透明性確保である。中国と北韓指導部との関係は、厚いカーテンに閉ざされており、内実をうかがい知るのは容易でない。
そこから韓国では、中国が北韓を《庇護》《管理》する目的について、①米軍が駐留する統一韓国と国境を接する事態を防ぐ②そのために、北韓に中国式の改革開放を導入させ、衛星国家として存続させる、と受けとめる空気が強い。これに、③米国も北韓の核兵器さえ除去できるなら、中国とあえて敵対することは避けるだろう、との判断も加わって、統一実現を悲観する論調が折に触れ浮上する。
しかし、中国が北韓を衛星国家として存続させ、韓米連合勢力との緩衝地帯を設けることに腐心するとしても、それを長期にわたって追求・維持するのは極めて困難である。韓半島問題で中国が抱えるリスクは、変わらないどころかむしろ過重されることになるからだ。
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信頼構築への道筋
「急変事態」織り込むべき 韓米中の協調を確かに
中国は安定的な発展のために、沿岸部と内陸部の格差、国全体を覆う貧富の格差を解消することに力を集中せざるを得ない。活発な経済活動とそれによってもたらされる所得の向上は、政治・経済の公開性を自ずと求める。中国政府がいかに民意に寄り添おうと、一党支配体制はいずれ限界に突き当たる。
同じく、改革開放なしには生き残れない北韓においても、それがたとえ中国式の導入であれ、定着に失敗すれば直ちに体制危機につながり、成功すれば公開性を求める声が高まる。南との経済格差の大きさを明確に知ることになる北の住民は、中国圏にのみ縛られることに反発し、韓国経済との有機的な連関、さらには統合を要求して体制を揺さぶるのは必至と言えよう。
中国は、韓国と米・日など関連・周辺諸国から誤解を招く余地をなくす努力をすべきだ。韓国と関連諸国も中国との信頼関係を築かなければならない。シンクタンク・CSISが指摘するように、韓・米・中が中心になって北韓の急変事態に協調して対処する仕組みを整える必要がある。
中国政府が建前上、北韓崩壊を前提にした国際協議に応じられないとすれば、これまで細々と続けられてきた民間次元の研究・協議だけでも早期に充実化すべきだ。
対中交渉力の強化も着々と
中国はこのほど、韓国が西海での軍事演習に米空母を参加させる方針を決めたことに反発し、白紙化していた韓中国防相会談の年内開催を提案してきた。尖閣諸島沖の衝突事件で対日関係が悪化して以降、明らかに対韓姿勢を軟化させている。
韓国政府当局者は、「東アジアで韓日両国を同時に敵に回さない戦略だ」、「中日対立が韓米日の結束につながり、中国の東アジア戦略に障害が出ないようにする目的がある」などと分析した。であれば、中国との連携強化の追求は当然としても、そのために日本との信頼関係を損なうことがあってはならない。
韓国外交通商部は、対中外交の強化に向け、中国担当の課を一つから二つに増やし、スタッフも20人以上増員する方針だ。この間、中国の指導層から「韓国には打ち解けて話し合える人物がいない」との不満がもらされていた。対中交渉力の充実化が急がれる。
20年前のドイツ統一は、全欧州の和合と平和の新秩序形成過程で実現し、その流れに決定的な影響を与えた。アジアにもASEAN(東南アジア諸国連合)+3(韓・日・中)という、緩やかな連携を可能にする枠組みはある。しかしそれはまだ、韓・日・中の統合推進役をも担える段階にはない。
大陸勢力と海洋勢力の角逐の場となりやすい半島国家であり、なおかつ、その地政学的な位置がゆえに分断を強いられてきた韓国としては、大陸・中国、島国・日本の衝突要因を縮小し、韓半島の統一を追求する過程のなかで、3国協調を確かなものにする創意ある外交が不可欠だ。
(2010.10.20 民団新聞)