掲載日 : [2021-09-07] 照会数 : 7428
追悼碑存続に暗雲「群馬の森」訴訟逆転敗訴…東京高裁「強制連行」発言を指弾
[ 最高裁での勝訴をめざす弁護団と支援団体代表(報告集会) ]
【群馬】高崎市の群馬県立都市公園「群馬の森」に建つ韓国・朝鮮人追悼碑「記憶 反省 そして友好」の存続そのものを揺るがすかのような逆転判決が8月26日、東京高等裁判所で示された。すでに歴史的事実が確認されているにもかかわらず、「強制連行」という言葉を使えば政治的行事と見なすという今回の判決が確定すれば、全国の関連モニュメントにも影響を及ぼしそうだ。
東京高裁には地元と首都圏から約100人近い市民が勝訴を信じ、敷地内で待機していた。開廷して間もなく「不当判決」の速報がもたらされると、「どうしてー」という落胆と驚きの声が上がった。なかには「裁判長出てこいと叫びたくなる」と、怒りを隠さない市民も見られた。
弁護団長の角田義一さんは判決前、「無茶苦茶な論理を主張する県を勝たせるには、裁判所としても論理の組み立てが大変だろう。だが、楽観はできない」と語っていた。この一抹の危惧が現実になったかっこうだ。
高橋譲裁判長は「政治的行事を行わないことが設置許可の条件とされているのに、市民団体の共同代表らは追悼式で、群馬県の助言で碑文の文面から削除された『強制連行』という言葉を使って、歴史認識についての主義主張を訴えた」と指摘。「強制連行という用語を使えば政治的行事だと見なされることは団体も認識していた」「強制連行という発言が繰り返された結果、追悼碑の中立性はなくなった」とし、一審前橋地裁判決を取り消した。
追悼碑は前橋市の市民団体が2004年、県から10年間の設置許可を受けて建てた。ここはかつて旧陸軍の火薬庫があった場所でもある。市民団体は建立と同時に毎年、追悼碑の前で集いを行ってきた。
ところが、碑文は保守系団体からは「反日的」「自虐史観」などと抗議の的となってきた。こうしたなか、追悼式の中で一部の出席者から「強制連行」との文言を含む発言があり、県は「追悼碑が公園施設として存立する上での前提を失い、日韓・日朝の友好促進など設置の効用が損なわれた」として設置期間の更新に応じなかった。
一審は「政治的行事が行われた」とする県側の主張を認めはしたものの、追悼碑の撤去については「裁量権の逸脱がある」としてこれを認めなかった。市民団体側は「歴史修正主義との闘い」と位置付けてきた。
上級審での勝訴誓う 報告集会
参議院議員会館での報告集会で角田弁護団長は「政治的行事をしてはならない。ただし、追悼碑の撤去までは必要ないというのが一審の結論だった。高裁はこれをひっくり返した」と怒りを露わにした。
弁護団の下山順事務局長は「県の主張をそのまま採用した。いや、もっとひどい。一審判決の判断を根本から覆し、一審が認めたところをすべて否定した。正直なところ驚いている。そもそも公園内での表現の自由を一切認めなかったことには唖然とする」と述べた。
報告集会を取材していたジャーナリストの安田浩一さんは今回の判決が全国に波及していく恐れがあると心配している。「強制連行と書いてある碑文が福岡県田川市、大牟田市、長崎県平和公園など全国にいくつかある。今後は政治的に中立なもの以外は建ててはならないとなるのではないか。少なからず影響がありそうだ」と指摘した。
ある記者は判決文を手に「51㌻もありながら、ただ文字が長いだけ。簡単に書き上げたという印象しかない。正義、真実を追及するのが裁判官なのにどれだけ真摯に検討したのかなと思う。県の主張に乗っかっただけではないのか」と率直な印象を述べた。
角田弁護団長は「上級審では必ず勝つ。口頭弁論を開かせるか高裁にさし戻させる。最高裁を包囲するぐらいの気構えでやろう」と呼びかけた。
(2021.09.08 民団新聞)