年間2万人で推移
高校生 教育効果も高く
歴史認識をめぐる韓日関係の悪化や円安という悪条件にもかかわらず、韓国を修学旅行先に選ぶ高校数はここ数年、それほど減っていない。海外の修学旅行先としては一貫して不動の1位だ。その理由として姉妹校の存在が大きい。見ず知らずの関係でも交歓会ですぐ友だちとなり、別れ際には抱き合い、涙を流し合う光景も珍しくない。ホームステイ先のホストファミリーからのおもてなしも忘れられない思い出となっている。
姉妹校の存在 追風に
72年からスタート
財団法人日本修学旅行協会発行の「教育旅行年報」によれば、韓国への修学旅行は72年の宮崎第一高校(5月、47人)が初めて。同年10月には近江兄弟社高校からも91人が5泊6日の日程で韓国を訪れた。84年には福岡県立小倉商業高校が公立高校として初めて韓国への修学旅行を実施した。
87年9月には運輸省が日本の国際化時代に対応した「テン・ミリオン計画」を発表。5カ年計画で修学旅行を含めた海外旅行の倍増計画を打ち出したことで韓国への修学旅行も増えていった。ソウル五輪開催も追い風として働き、89年には3万人を超えた。
一時4万人台も
韓国観光公社によれば90年代前半までは3万人台で推移。95年に初めて4万人の大台を超え、00年まで続いたが、09年の新型インフルエンザの流行などで落ち込んだ。
特筆すべきは「安い・近い・短い」と国内感覚で海外旅行ができること。「韓国旅行は危険」という最近目立つネガティブキャンペーンにもかかわらず、韓国への修学旅行実施校は微増傾向にある。
公益財団法人全国修学旅行研究協会の調査報告によれば、10年度が141校1万8386人、11年度は167校2万1633人。12年度は2万1486人と横ばいだが、実施校そのものは172校に増えた。
リピーターが多いのも韓国修学旅行の特徴。特に学校間交流の長いところほど顕著になっている。韓国観光公社東京支社の金良佶次長も、「生徒どうし交流できることが韓国のいちばんの魅力」と話す。
「たとえ1日だけでもお互いの文化を紹介しあい、交流することで友情が育つ。日本語が通じなくても英語は通じる。極端にいえばボディランゲージでもいい。意思疎通になんら問題はない。仲良しになって別れるときには必ず泣く」。
さらなる交流を
金次長は「韓国はいちばん近い隣国。国際感覚を持つためにも韓国との青少年交流は大事」と強調した。「青少年交流が活発になれば、東北アジアの平和と安定につながる。ヘイトスピーチで若干の影響はあるものの、そんなに長くは続かないだろう。ましてや15年は韓日国交正常化から50周年の節目。隣国どうし、さらに理解を深めあおうというムードが高くなるはず」とみている。
今年からは「世界中にない韓国の魅力」を発信していく。その一つが分断国という現実から平和の尊さを学べる利点。韓国修学旅行生にはぜひ、統一展望台を訪れてほしいという。
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昨年までに40回約2万人が訪れ
九産大付属九州高校
九州産業大学付属九州高校(武田壽一校長、福岡市)は、「国際的な視野を持った学生を育てよう」と、73年から韓国への修学旅行を続けている。節目となる昨年は40回目を迎え、累計約2万人の生徒が訪れた。
この間、やむを得ない事情で中止したのは、新型インフルエンザのときだけ。韓日間の政治的緊張が続くなかだけに、「日韓交流のシンボルになってほしい」と、韓日のテレビ局や全国紙が大きく報じた。
一方で「嫌韓」ムードの高まりのなか、ネットを通じて「なぜ韓国に行くのか」という「抗議」も寄せられたという。これに対して、同校関係者はTBSニュースの取材に、「日韓関係が悪化しているときだからこそ、交流を続けていきたい」と、穏やかながらもきっぱりした口調で述べた。
韓国を訪問するのは同校普通科の希望する生徒たちだけ。韓国に「行きたくない」生徒は日本国内を選択できる。決して無理強いしているわけではない。
昨年は11月11日から4泊5日の日程で約300人が訪韓。仁川空港では韓国観光公社や長年交流をしているソウル市の世宗高校生徒らの歓迎を受けた。これに先立つ昨年10月5日に九州高校で開かれた創立50周年式典には世宗高校と同窓会の関係者が駆けつけ、姉妹校の契りを結んだ。
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奈良からたどる飛鳥文化の源流
智辯学園
関西の智辯学園(藤田清司理事長)も韓日両国の青少年交流を象徴する学園だ。韓国への修学旅行は今年、40回目の節目を迎える。これまでの参加者は2万人近い。
往路は奈良から瀬戸内海を通り、下関から関釜フェリーに乗船して玄界灘を渡るのが基本。これは飛鳥文化の中心地である奈良の文化が韓国から伝来したことを生徒自身の目で確かめさせるためだ。釜山からは公州と扶余を経由してソウルへ。ソウルでは姉妹校の漢陽高校との交流を重ねている。
当初から韓国への修学旅行を牽引してきたのは、学園設立者で前理事長の藤田照清さんの「償いの気持ち」が大きかった。その信念は独島問題や日本の歴史教科書の波紋、新型インフルエンザがあっても揺るがなかった。
その藤田さんが通算36回目の修学旅行を見届けて亡くなると、誰からともなく「次は台湾にしようか」という声が上がったという。しかし、智辯学園中学校・高等学校(奈良)の中川敏男校長は頑強に継続を主張した。
中川校長は「毎年よく来てくれたと歓迎してくれる向こうの友人、知人への裏切りになる。継続してきた自負心もある。かんたんには崩せなかった」と話す。最近の嫌韓報道については、「生徒には自分の目で見て感じなさいと言い聞かせてきた。先入観があるから難しい問題がさらに難しくなる」と述べた。
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マンドリン携え障害者施設訪問
松風塾高校
学校法人大和山学園松風塾高等学校(成田博昭校長、青森)は昨年10月15日から4泊5日の日程で韓国修学旅行を実施した。開校以来欠かさず修学旅行で韓国を訪問しており、これが38回目。累計1300人を数えた。
修学旅行で韓国を訪れる高校は多いが、マンドリンを携えての草の根交流は同校ぐらいだろう。光州の長城高校や障害者施設を訪問して演奏活動を行っている。長城高校とは寮を持つ共通点から、16年近く交流が続いている。
西村智教頭は「最初はいろいろな問題を心配したが、大変歓迎される。国と国との関係は別として、人と人とはこんなにも温かいものなのかと、生徒は感激して帰ってくる。教科書問題や領有権問題もあったが、国が交流を禁止するまでは続けようと姉妹校と固く誓った」と明かした。
韓国滞在中は一般家庭にホームステイしたり、キムチを一緒に漬けたりする。最近は板門店も訪問コースに加わった。
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平和の尊さ学び国際感覚培養も
向上高校
学校法人向上学園向上高等学校(山田貴久校長、神奈川県)は全日制普通科の私立高校。国際感覚のある生徒を育てようというのが目標だ。韓国への修学旅行はもう30年以上続いている。中断したのは新型インフルエンザが流行したときぐらいのもの。03年には韓国政府から清水秀樹理事長に産業褒賞が授与された。
生徒は韓国、ベトナム、カンボジアの3コースから行き先を選択する。韓国コースには昨年、98人が参加。前半はソウル市内と水原華城を見学。希望者は10年以上相互交流を続けているソウルの姉妹校、盆唐大眞高校の生徒宅でホームステイも体験した。
後半は板門店を訪れて南北分断の現状を認識し、平和の大切さを学習した。最終日には同じく姉妹校でもある扶余情報高校の生徒たちと扶蘇山を散策し、昼食をともにした。
帰国後のアンケートによれば、「すごくいい印象を持っている」(同校教頭の話)。「食事がおいしかった」「明洞を散策中に見知らぬ人から温かい声をかけられた」などというものも。
同校は韓国のほか、アメリカとニュージーランドにも姉妹校を持つ。なかでも韓国は「海外の姉妹交流先としては欠かせない存在。歴史認識や領有権問題などいろいろあっても、それを乗り越えていかなければならない」という。
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崇義女子高校と相互交流を継続
玉川聖学院高等部
玉川聖学院(安藤理恵子学院長、東京)は高等部が毎年秋、4泊5日の韓国修学旅行を実施している。韓国は歴史、地理的、文化的に近いからと、01年から始まった。
同校の水口洋中高等部長(校長)は、「アジアの一員として、隣国の韓国と仲良くできなくて、どうして遠いアジア、アフリカ諸国と仲良くできるのか。韓国を通じて世界を見る視野を広げていきたい」と国際教育における韓国修学旅行の意義を述べた。
韓国では同じミッション系の崇義女子高校(ソウル市銅雀区)と交流している。初めはぎこちない雰囲気でも、片言の英語で会話を交わしていくうち、長年の親しい友人のようになっていく。互いに携帯で写真を撮ったり、メールアドレスを交換し、別れを惜しむ。水口部長は、若い世代の交流の大切さを毎年感じるという。
両校は、13年に姉妹校締結を果たした。1月には崇義女子校から10人ほどを招き、3月には玉川聖学院から高校1年生が訪ねる関係だ。水口中高等部長は、「人と人は心がつなげられる。お互いの交流が国際理解をはかるうえでいちばんインパクトが大きい」と強調した。
外務省の渡航に関する危険情報などがでない限りは、今後も韓国との交流を続けていくという。
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震災の危機にも姉妹校交流不変
常総学院高校
学校法人常総学院常総学院高校(玉井尚良校長、茨城)は、姉妹校である蔚山の宇信高校と足かけ12年間にわたって文化体験と語学研修の交流を続けている。3月には約500人が修学旅行で訪問し、宇信高校側も夏休みに常総学院高校を訪れる。
交流会では常総学院がダンスやチアリーディングの公演と剣道の演舞を披露し、宇信側は韓国伝統舞踊やオカリナで民謡を演奏する。
中断の危機が心配されたのは東日本大震災の年。当日は茨城県でも大きな揺れを観測した。学校側が保護者たちに「わが校の生徒たちにとって韓国訪問は1年で最も重要な行事であり、高校時代の大切な思い出になっています。特に宇信高校と積み重ねてきた友情を地震のためにあきらめることはできません」と訴えると、保護者たちも快く応じた。
同校の関係者は「日本の若者は自己表現が上手くない。一方、韓国の生徒たちはひたむきに勉強に打ち込み、自分の意見をしっかり主張する。常総の生徒にとって学ぶべきところが多い。21世紀はアジアの時代。アジアをリードする韓国との交流をこれからも大切にしていきたい」と話す。
(2014.1.1 民団新聞)