新型コロナウイルスの影響で2年あまり前から中断していた、観光客などを対象とする短期ビザの発給が1日からスタートした。「待ってました」とばかりに、東京港区南麻布の韓国中央会館にある韓国大使館・領事部には多くの人がビザ発給に訪れ、開館前の早朝から長蛇の列ができるという、珍事が起きた。この混乱に対し民団では「韓日関係の改善は民間交流が大切。こんなときにこそ、韓国を訪れて頂く日本の皆さんに少しでも役立てるなら」と韓国中央会館8階の大ホールと会議室を待機場所として提供している。
コロナ禍前はノービザで90日間までの短期滞留が可能だった。しかし、コロナ禍となり2020年3月からその規定が中断された。今回の訪韓解禁にはこれまでと違って、当面は観光ビザが必要だ。これにより、2年ぶりに韓国旅行に行こうとする多くの日本人が各地の韓国総領事館に集結したのだ。
1日、韓国中央会館前には、朝から長蛇の列ができた。正門前から200メートル離れた交差点まで、複数の列に並んで待っていた。その数、約1000人だ。前夜7時からの徹夜組もいた。
東京の韓国大使館領事部に開館前から長蛇の列ができたのは、2011年3月にもあった。東日本大震災の福島原発事故により、韓国に一時避難しようという中国人留学生たちが早朝から長蛇の列をなした。今回はその数倍の規模となった。
◆民団が待機場所提供「韓日親善回復の一助に」
総領事や領事課長をはじめ、韓国領事館の職員たちもこのような「パニック」は初めての経験だ。
現在、一日150人に限定して、番号札を配布することにした。それでも開館前から入口前には長蛇の列。韓国旅行を待ちわびていた日本人たちだが、ここ数日、夏のような暑さが続き、心配なのが熱中症だ。
「韓日関係の改善は民間の草の根交流が大切。こんなときにこそ韓国を訪れて頂く日本の皆さんに少しで役立てれば」と、民団では3日から韓国中央会館8階の大ホールを待機場所として提供することになり、スタッフたちも早朝からの出勤態勢を整えて対応した。
3日、午前8時過ぎに、中央本部と東京本部のスタッフは韓国中央会館前でビザ申請の受付番号札を受け取った150人を順に8階に誘導。大ホールと3つの会議室を待機室として案内した。ミネラルウォーターも提供して、手続きの順番待ちに配慮した。
大ホールでは領事部のスタッフがビザ申請に関する説明を行った後、大ホール前に設けられた臨時受付デスクで順に手続きが始まった。民団中央本部では待機場所の提供を当分継続する。
「3年ぶりに会える」 家族、恋人、観戦、コンサート
韓国行きを待ちに待った人々にそれぞれの思いを聞いた。
夫婦で並んでいたのは韓国人の夫(30代)と日本人の妻(30代)だ。京畿道に暮らす主人の母親が今年還暦を迎えるため子どもを連れて3年ぶりに会いに行くという。夫人は、「この間、義母は孫の成長を見ることができなかったし、心待ちにしていた。やっと会えると思うととても嬉しい」と笑顔を見せた。
20代の日本人女性は、ソウルで開かれるボーイズグループ「SEVENTEEN」のライブコンサートを観るためにビザを取得しに来た。コンサートを見たのは2019年が最後で、「ビザがとれてコンサートに行けたら歓喜です」と嬉しそうに話した。
「仕事もそうだが、知り合いも多い」と話す日本人男性(52)は、これまで年に15回程度、韓国を訪れていたという。「ようやく韓国に行けると思い、朝7時に並んだが、すでに長蛇の列ができあがっており唖然。今日は処理できないかもしれない」と心配していた。
日本人の母娘は、7月に開かれるK‐POPアイドルグループのコンサートチケットが当たって来た。20代の娘は、「まだリスクはあると思うが、進めるところまで進みたい」と初めての韓国行きを楽しみにしていた。
尼僧の緑川明世さんは、今月中旬、ソウル・江南で開催される学会発表に出席するためにやってきた。「もしかしたら間に合わないかもしれない」と不安げだったが、「韓国語を勉強をしている人もいるし、韓国が門を開いてくれたことはありがたい」と語った。
21歳の日本人男性は、忠清南道天安市にいる韓国人の彼女に会いにいくという。彼女とは今年2月、アメリカ留学中に出会い、5月にそれぞれ帰国した。男性は「再会するのが楽しみです」と声を弾ませていた。
20歳の男子大学生は大のサッカーファン。韓国代表の孫興民の大ファンで、所属チームのトッテナムが7月に訪韓するため、その試合を観戦したいと初訪韓する。2日の昼から韓国中央会館前で待ち続けて、3日朝ようやく整理券をゲット。
「孫興民をこの目で見たかった。今から、ワクワクドキドキです。初めての韓国旅行ですが、しっかり楽しんできます」と目を輝かせていた。
◆大阪総領事館なども人々があふれる
駐大阪韓国総領事館でも東京と同じく、開館前から行列で人が溢れた。これに対応するため民団大阪本部では2日、常勤者らが現地におもむき、誘導などを補助し、並んでいた人たちにミネラルウオーターを配布した。
駐名古屋総領事館のビザ担当窓口実務官によると、先月25日からホームページに掲載して知らせたので、1日は混乱はなかったという。ただ、東京方面からの問い合わせ電話が殺到したという。
駐横浜総領事館でも1日にビザ発給申請が殺到したため、2日からは番号札を配布して対応している。限られた職員で処理しているため一日50人ほどが限界。それでも、諦めきれずに追加受付を待つ人も多い。
まだ直行便を運行していない札幌は直行便を運行している総領事館ほど混雑していないが、電話による問い合わせが急増しており、混乱を避けるための準備をしているという。