癒しとなれ 一行詩
大震災被災者へ伝える韓国の想い
韓国の女流詩人、李承信さんが東日本大震災の被災者たちに捧げる詩を収めた詩集の韓日出版記念会が7日、東京・千代田区で開かれた。来賓の韓昇洙元国務総理、申珏秀駐日韓国大使、武藤正敏前駐韓日本大使、ソウル芸術大学教授で国楽人のパク・ユンチョ氏らをはじめ、短歌愛好家など180人が会場を埋めた。
れんびんの情いたたまれず
申大使はあいさつの冒頭で、植民地時代に日本に留学して短歌を学んだ李さんの母、歌人の孫戸妍さんに触れ、「孫戸妍詩人が亡くなられてから早くも10周年を迎える。分身のような娘さんが短歌集の出版記念会を開いていることに、天国でも非常に喜んでいると思う」と述べた。
さらに「われわれはよく、音楽が人類の普遍語だと言うが、詩もまた人類が疎通できる情緒的な普遍語だ。短歌を介した情緒を共有して、韓日両国の国民間の心の傷を癒やしていくことがとても重要だと思う。李承信詩人は日本の伝統詩である短歌を通じて、東北地方の被災者を労う韓国人の心を伝えている」と語った。
実は李さん、東日本大震災が起きる前にコラム「日本の見識と底力」(11年3月12日、韓国紙に掲載)を書いた直後、震災の報に接した。李さんは「人類の誰もが触れたことのない、あり得ないことが隣国を襲い、家と職場と町が消え去り、原発の怖さに途方に暮れたが、私は何よりも愛する人を失い、心で泣く人々を、親を失った幼子にれんびんの情が湧いた」と振り返った。
<朝の顔それが最後になろうとは悶える君に添う吾が心>
その時に思い出したのは、孫さんを愛してくれた日本の人たちだった。「母が生きていたら、力のある1行で隣国の心を慰めたことだろうと思わずにはいられなかった」と母への思いがわき出たという。
韓国と日本語対訳もつけて
李さんは母に代わって気持ちを伝えたいと、自身の胸に降り積もった詩を書きとめた。詩の一部が韓国の中央日報と朝日新聞に11年3月27日付で同時に掲載されると、残りの詩も見せてほしいとの連絡が世界中から届いた。
東日本大震災から半年後の11年9月8日、韓国で『花だけの春などあろうはずもなし‐短歌で綴る日本人への手紙』を出版、12年3月20に日本で『君の心で花は咲く‐隣人・被災地の友に贈る192編の詩』を飛鳥新社から刊行した。
両書とも一気に書き上げた250の詩のなかから選んだ192編が収められた。特に『君の心で花は咲く』は、詩を短歌形式に翻訳したもので初の試みだ。いずれも韓国語と日本語の対訳付き。
<君思う真情(まこと)をこめし一行詩慰めとなれ癒しとなれと>
「多くの人が李さんの詩に慰められると言う。だが、不安で私を訪ねて来られた方、演説のときに詩を引用して下さった諸先生方、手帳に私の88の詩を書き付けて下さった方の姿を見るたびに、私が慰められた」
手とり合って難題も解決を
最近、岩手、宮城を訪問し、被災した人たちと交流した。「詩に共感し、感動して下さる姿を見ながら、あのとき、私の心を表現して本当に良かった」としみじみ感じたという。
李さんは「韓国人と日本人はもちろん、世界の人々が一つの場所に集まり、互いを労い、結束し、尊重し合うことで私たちは、この時代が抱えている難題を解決して行くでしょう。そして私たちの子孫により良い世界を渡して行くんです」と言葉を結んだ。
<再出発命拾いし吾等から偉大なるもの築き上げてゆく>
記念式ではパク・ユンチョ氏によるパンソリや短歌の朗読なども行われた。
『君の心で花は咲く』は定価1300円+税。問い合わせは飛鳥新社・編集(℡03・3263・7773)。
(2013.3.20 民団新聞)