「言論の自由」を盾に排外主義的なヘイトスピーチ(憎悪演説)を繰り広げる「在日特権を許さない市民の会」(在特会)に対して、法的規制や行政による取り締まりを求める声が高まっている。たとえ、法的に不起訴や敗訴になろうとも、刑事告発や民事訴訟を提起すべきだという意見も聞かれた。デモの陰で震えている幼い子どもや青少年への影響を考えれば、もう放置できないところまできているのは確かだ。各界人士が意見を寄せた。
刑事告発や民事訴訟を
薫さん(弁護士、大阪)在特会誕生の背景には日本社会の右傾化があると思いますが、右傾化が進行した原因は①日本政府が意図的に歴史教育(在日コリアンの誕生)を隠ぺいしている状況の下で、②韓国や中国の経済的発展などの躍進に対する危機感、③北韓の拉致事件、核・弾道ミサイル開発、④独島、尖閣諸島問題などの諸問題が発生したためと思われます。
これに対する我々の対策としては、①の歴史問題に対しては、米国、欧州などの諸外国、国連などの国際機関に対し、問題を英語で提起する活動を積極的に開始すること、内部的には在日コリアンのための歴史教育を充実化すること、②ないし④のためには、在日コリアンしかできない民間の外交・親善活動をさらに活発化させることが必要だと思います。
在特会の活動に対しては、たとえ法的には不起訴ないし敗訴になろうとも、刑事告発や民事訴訟を提起すべきと思います。そのような活動により、マスコミを動かし、日本のリベラル、健全な保守主義者に問題を提起すると同時に、事件の内容、裁判の結果を韓国のみならず、英語でもって広く国際社会に知らしめるべきであると思います。
人種差別撤廃条約を生かせ
殷勇基さん(弁護士、東京)人種差別、民族差別の記事や演説、デモに対してはイギリス、ドイツ、カナダなどは人種差別デモなど自体を法的に規制している。他方、米国は規制に消極的だ。日本は人種差別撤廃条約には加入しつつ、言論規制については米国型でやってきた。
しかし、「よい韓国人も悪い韓国人もみなごろし」というような表現があったことで、一線を越えていると思う。また、特定商業地域での街宣活動を何度も繰り返して営業妨害の結果を引き起こしている点も問題だ。
前者については、人種差別への規制という前に脅迫の成立を検討できる。後者は街宣活動中に、商店や買物客へのしつような罵倒などがあるというから、業務妨害の成立を検討できる。ただ、刑事事件としては、被害者側が捜査当局に対して積極的な協議を求めることが必要だろう。
根本的には国会議員たちも言っているように、ヘイトスピーチ自体の法的規制の検討を日本でも本格的に始めないといけないのではないか。また、日本政府は人種差別撤廃条約の趣旨をもっと積極的に生かしていくべきだ。
自分で自分のクビを締める
朴一さん(大阪市立大学大学院教授)韓国人へのヘイトスピーチは、長い目で見れば、外国人に対する日本への投資環境を悪化させ、経済にも悪影響を及ぼす。安倍首相が景気を良くしようとしているが、現実に株価を押し上げているのは外国人投資家だ。不満のはけ口を外国人に求めるのは自分で自分の首を締めるようなもの。
日本も経済改革を本気で進めたいなら、ヘイトスピーチを処罰するなど人種差別を規制する立法を検討する時期にきている。
民団としても行動起こす時
明さん(民団東京・新宿支部事務部長)在特会のデモに関して多方面の方々から「民団として何もしないのか」「デモに対してどのように考えるか」などの質問がよくあります。大久保のコリアタウンは大阪の鶴橋地域と違い、支部の団員はほとんどいない場所で、いわゆる韓人会の地域という意識が多く、あいまいに返答をしていました。
だが、ユーチューブで見る彼らの暴言・行動を見ていると韓民族として非常に腹だたしく、彼らの暴挙に対して、同じレベルでは戦わないで、例えば署名運動を起こしデモコースを変更させるなど行動に規制をかける戦いを、在日韓国人の代表団体として起こさなければいけない時期に来ていると思っています。
子どもたちの心のケア必要
小西和治さん(全国在日外国人教育研究所事務局長)在日コリアンに「死ね」「虐殺する」など、存在を否定する言葉を連呼しながら新大久保や鶴橋を練り歩くレイシストたちの映像を見て激しい怒りを感じた。心配するのは、これらの侮蔑的な言葉を聞き、あるいはインターネットで知った子どもたちのことである。幼い子どもや多感な青少年に与える影響を考えると、法的規制や行政による取り締まりが必要であろう。差別・排外意識のばらまき行為は放置できない。
在日コリアンの子どもは尊厳を傷つけられ、大きな衝撃を受けたに違いない。この子どもたちの保護者や教員の皆さまにお願いしたいことは、これに委縮して殻に閉じこもる事にならないためのケアである。差別者の言動が犯罪的行為であり、絶対に許せないものであることの共通認識を持つことも大切である。さらに、このような反社会的行動は、在日コリアンばかりでなく大多数の日本人も許していない事実も重要である。
嫌韓デモに対するカウンター行動や抗議の国会集会の話もしておきたい。2月9日の新大久保。数十人のデモ前日、「冬のソナタ放送10周年」の記念イベントに1万人近くが集まったことも無視できない。なによりも、日本の歴史についての客観的な認識を育てていく努力がますます求められている。
(2013.3.20 民団新聞)