東京韓商の会長を2期6年務めた後、昨年11月、世界韓人貿易協会(OKTA)会長に就任した張永軾さん。在日同胞商工人をはじめ、海外同胞商工人のネットワーク拡大と事業繁栄に一役を担いたいと意気込んでいる。自身の主力事業だった免税店がコロナ禍による観光客激減で大打撃を受けたが、いち早く、韓国商品専門スーパーへの業態転換で危機を乗り越えた。
海外同胞と交流拡大 多文化共生支援進める
東京韓商時代、最も印象に残っていることが2点ほどある。
ひとつめは、海外産業視察だ。韓国はもちろん、ベトナム、インドネシア、モンゴルなど、年1回程度のペースで実施。現地のOKTA、商工会議所、KOTRA(大韓貿易投資振興公社)、ジェトロ(日本貿易振興機構)、韓国大使館や現地で活発に経済活動を展開している海外同胞経営者などを訪れ、意見交換をしながら在日同胞経済人が学ぶべきものを探索した。
「他の海外同胞商工人団体との交流がきわめて少なかったこともあり、現状把握と情報交換を通じて、会員たちの事業拡大につながればとの思いがあったし、在日商工人も海外シェアを広げていくべきだと思っていました。この事業に対し、会員からも高い反響がありました」
もうひとつは韓国にある多文化学校への支援活動だ。韓国人の母親と黒人の父親の間に生まれた歌手のイン・スニさんは幼少期ころ、厳しい少数派差別の中で育った。そんな思いをさせたくないと2013年、江原道に全寮制の中学校、「ヘミル学校」という多文化代替学校を設立した。
張会長は「日本もそうですが、韓国でも国際結婚が増えて久しいです。その夫婦の間に生まれた2世たちは、皮膚の色、目の色、髪の毛の色などが違うからと、いわゆる『いじめ』にあっているのです。かつて、在日同胞が日本社会で受けた民族差別のようなものです」としながら、「日本人との国際結婚が多い在日同胞もある意味『多文化家庭』でもあり、共生社会実現を願う意味からも感銘をうけ、支援したいと思いました。当初は自社で実施していたのですが、東京韓商の理事会で提案したところ、我々もぜひ支援しようと賛同を頂きました」と振りかえる。
現在、生徒たちに年間1000万ウォンの奨学金を支給するほか、10数人ほどを日本に招待して、職業体験や東京見学等をサポートし、日本と在日同胞社会と触れ合う機会を提供している。
波乱万丈の30年
初めてのビジネス、リヤカーで韓国米売る
1993年9月、当時25歳。わずか300万ウォンを持って来日した。在日歴は30年近い。今では安定し、幅広い事業を展開しているが、来日当初は「ひらがな」も覚えておらず、最も四苦八苦したのが言葉の壁だった。
セールスの取引先から「検討いたします」と返答された。韓国的には「取引成立」ととらえていたが、日本では形式上だけ「検討」で事実上の「断り文句」だということを後に知った。
「言葉を学ぶために日本語学校に通うことから始めました。1日3時間だけ寝て、深夜もアルバイトをしながら、お金を貯めました」
最初に始めたビジネスは韓国米の販売だ。当時日本は記録的な冷夏による不作が原因で「平成の米騒動」と言われるコメ不足だった。
「コメ価格が急騰し、私は韓国産のコメを輸入して日本に売りました。電話帳で調べた食堂を一軒一軒、リヤカーで運びながらセールスをしたんです」
次に手をつけたのが、日本でも人気だった、趙容弼(チョー・ヨンピル)など、韓国歌手のカセットテープの販売だ。
「それこそ、韓国で廃棄処分直前の在庫品を10円程度の破格で仕入れて、800円程度で売りました。これが結構、売れたんですよ。そんな経験を積みましたが、ビジネスに対する感覚をしっかり身につけようと家電製品の流通業をすることに決めました。テレビや冷蔵庫を問屋から購入して小売店に卸しました。ここで稼いだ金と融資金を集めて1995年に現在の『永山』を設立し、電気街の秋葉原に免税店を構えました」
親しかった日本人とたった二人で設立した会社だ。日本に渡ってきてから2年後。当時、アジア諸国からの日本への観光客が急増しだしたことに目をつけ、日本製品の免税販売をはじめた。
創業14年でソニーなど日本家電製品販売1位になり、2010年には日本防衛省に韓国産洗濯機を納品した。最大で日本の23都市まで免税店を拡大した。
もちろん、うなぎ上りに成長が続いたわけではなく、08年のグローバル金融危機や11年の東日本大震災、そして2年越しに続いている新型コロナウイルスだ。しかし、発想力で乗り切った。
(次号に続く)
張永軾会長
1968年全羅南道順天市生まれ。妻、二男の4人家族。
91年順天大機械工学科卒業。93年に来日。
95年に「永山」を創業。
08年、早稲田大大学院商学研究科MBA修士取得。09~12年、東京韓国学校PTA総会長。10~12年、民団東京新宿支部副議長。16年~21年5月、東京韓国商工会議所会長。21年11月、世界韓人貿易協会会長就任。韓国産業資源部長官賞、教育科学技術部長官賞、大統領表彰等を受賞。
世界韓人貿易協会会長に就任…張永軾前東京韓商会長に聞く<下>