排外主義右翼団体 式典「不許可」目論む
追悼碑の撤去も公言
加藤 直樹(ノンフィクション作家)
東京・両国の横網町公園は、関東大震災と東京空襲の犠牲者を悼む「慰霊の公園」である。ここに震災時に虐殺された朝鮮人を悼む「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」が建立されたのは1973年のことだ。建立を呼びかける民間の実行委員会には、当時の都議会全会派の幹事長が参加した。翌74年からは、毎年9月1日に追悼式典が行われるようになり、そこには歴代都知事の追悼文が送られてきた。
ところが2017年、小池百合子都知事が追悼文送付を取りやめ、以来、今日に至るまでそれは再開されないままだ。
昨年秋、さらにおかしなことが起こる。今年9月1日の式典に向けて、追悼式典実行委員会が公園の使用申請を行おうとしたところ、東京都建設局が4回にわたってこれを拒否したのである。さらに昨年末には、建設局は公園使用についていくつかの条件を提示し、それを守れない場合は式典が「中止」されたり「不許可」になったりしても「異存ありません」との「誓約書」を書くように求めてきた。条件の多くは常識的なもので、現に実行されているものばかりだが、一方でどうとでも解釈できる曖昧なものも含まれている。
実は東京都が申請に当たり誓約書の提出を求めているのは、追悼式典に対してだけではない。同じ横網町公園で2017年以降、「日本女性の会 そよ風」が開催している「真実の関東大震災石原町犠牲者慰霊祭」に対しても同様の要求を行っている。都の担当者は東京新聞の取材に対して、両者の間での「トラブル」を回避するために「公平に誓約書をお願いすることにした」とコメントした(同紙5月26日付)。
トラブル防止が目的なら誓約しても問題ないのではとお考えの方もいるかもしれない。だが実情を踏まえれば、そこには二つの問題がある。
一つは、「そよ風」が在特会やネオナチ活動家とも協力する排外主義右翼団体であること。民族差別を行う集会と、差別の犠牲者を悼む式典を、同列に、しかもセットにして規制することが、果たして「公平」「公正」なのか。もう一つは、こうした「誓約」を行えば、東京都が「トラブル」防止のためにいずれ両方を「不許可」とする可能性もあることだ。
「そよ風」の集会は「石原町犠牲者慰霊祭」と銘打っているものの、単に石原町の震災犠牲者を悼む碑の「前で」集会を行うと宣言するだけで、石原町の犠牲者を慰霊するとは一言も言っていない。石原町の町会にも何の断りもなく行われている。この集会で実際に行われているのは、「朝鮮人たちは暴徒と化して日本人を襲い、殺した」「不逞朝鮮人が日本人を虐殺したのが真相」などと、関東大震災時の差別流言を事実として語る「虐殺否定」である。
彼らはさらに、拡声器を朝鮮人犠牲者追悼式典の方角に向けて設置し、こうしたヘイトスピーチを大音量で流すことさえしている。
そして彼らは、その目的が、朝鮮人犠牲者追悼式典を「不許可」に追い込み、さらには追悼碑を撤去させることだと公言している。そうした彼らにとって、「トラブル」さえ起こせば追悼式典をつぶせる「誓約書」は大歓迎なのである(説明は省くが、実は、彼らは小池都知事の追悼文取り止めにも深く関わっている)。
こうした実情を知れば、都の「誓約書」要求の不当性と危険性を理解していただけるだろう。
これまでヘイトデモなどに抗議してきた人々は、すでに危機感をもって動き出している。東京都に方針撤回を求めるネット署名は3万人を超え、都庁の前では100人以上が集まり、抗議した。そもそも追悼の日である9月1日に、「慰霊の公園」で、死者を冒涜し、民族差別を扇動する集会を行わせること自体が間違っている。
東京都に対して、多くの人が抗議の声を届けていただければと思う。
(2020.06.10 民団新聞)