掲載日 : [2021-06-08] 照会数 : 7583
「ヘイトスピーチ対策法」施行から5年…ヘイトデモ減少も理念法の限界露呈
[ 法案成立に尽力した与野党議員らの記者会見 ]
日本初の反人種差別法「ヘイトスピーチ対策法」の施行から5年を迎えるのを前に5月26日、日本における「差別禁止法の現段階」をテーマとしたオンライン集会と「人種差別撤廃基本法を求める議員連盟」の主催する院内集会が相次いで開かれた。両集会での報告から国と地方における進展と課題をまとめた。
「ヘイトスピーチ対策法」は2016年5月12日、参議院法務委員会で全会一致で可決。同6月3日に施行された。法案可決の立役者の一人、立憲民主党の有田芳生参議院議員は可決の背景には「この法律が必要だという立法事実があった」と振り返った。この問題に詳しい師岡康子弁護士は「初めて日本で外国人差別を認定した。在日外国人がこの社会に希望を持てるとても大きな第一歩だった」と評価している。
ブログ「レイシズム監視情報保管庫」によれば、ヘイトデモの回数は昨年9回(うち6回が東京)と最盛期(13年)の10分の1未満に減少。街頭デモはほとんどできなくなった。これは「こんなことは許せない」と叫んだカウンターが「対策法」を盾に身を挺して立ち向かっていったことが大きい。
また、20年に社会問題化したネット上の誹謗中傷については差別認定され、民事裁判で損害賠償額が上昇傾向にある。18年当時中学生だった在日同胞大学生が大分市の男性に慰謝料を求めていた裁判では、東京高裁が130万円の支払いを命じ、原告弁護団が「極めて画期的」と評価した。
国と連動して地方でも「対策法」の実効化が進んでいる。19年12月に成立した川崎市「差別のない人権尊重のまちづくり条例」は、日本で初めての刑事罰つきヘイトスピーチ禁止条項を持つ。
大阪市は16年7月から全面施行された「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」に基き19年12月、全国で初めて発言者の氏名を公表した。
東京都は「オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」(19年4月施行)に基づき、関東大震災における朝鮮人虐殺者の慰霊祭に対する妨害をヘイトスピーチとして認定した。これは慰霊祭中止に歯止めをかける意義があった。
現在でも神奈川県相模原市、三重県、沖縄県などで審議中だ。
課題もある。理念法のため禁止規定、制裁規定がなく、ヘイトを止めるための実効性が弱いことだ。これは、告知不要な街宣が「対策法」施行後ほとんど減っていないことからも明らかだ。
師岡弁護士は「緊急の課題に対処するために実効性ある禁止法を。裁判しなくても人権救済される制度づくりこそいま求められている」と呼びかけた。また、ヘイトスピーチ解消に向けた計画、差別の実態調査、ヘイトスピーチ対策法のガイドライン策定、関連判例の収集と公表なども国に求めている。
参議院法務委員会に当時所属し、法案成立に尽力した与野党の議員ら4人は5月26日、国会内で記者会見した。
公明党の矢倉克夫議員は「理念法としたのは国民を巻き込んだ大衆運動にしていこうということ。差別意識をなくしていく闘争の第一歩だった」という。自民党の西田昌司議員は「ヘイトは恥ずかしい行為だと認識してもらう効果があったと思っている」と述べた。
共産党の仁比聡平前議員は、「法案はヘイトスピーチを根絶するという明確な理念を示すことに意味がある。その魂が政治家、党や大臣の発信に活かされていないのではないか。政治が発信する責任は極めて重い」と強調した。
有田議員は「ネットを通してのヘイトスピーチは止んでいない。ヘイトデモは減ったが、ヘイトクライムは増えている。理念法の弱点、課題はなにかを考えていかなければならない。これからも国会で取り組んでいく」と決意を明かした。
(2021.06.09 民団新聞)