掲載日 : [2018-01-01] 照会数 : 9907
民団は何をめざすのか<上>
大統合へ大胆に…門戸開放で100万人規模
この寄稿文は民団の行く末について私見を記したものである。
結論を言えば、社会状況、在日同胞社会の状況が、この間大きな変化を遂げ多様化、複雑化してきた。この変化に対応して民団も自己変革していかなければならないというものである。
つまり民団自体が多様性のある組織に変革していくために国籍規制を大胆に開放して、在日同胞の大統合を果たし、多様で複雑な社会の欲求にこたえることが問われている。
なぜ民団か?
人間は社会的動物である故に集団、社会、組織を構成する。集団・社会、組織には、アイディンティティ(帰属意識)を軸とする共同体組織(ゲマインシャフト)、共通の目的を軸とする機能体組織(ゲゼルシャフト)がある。民団は在日同胞のこの二つの欲求の受け皿として結成され今日に至っている。
現代社会の急激な変化によってアイディンティティと志向する共通の社会的目的も多様化、複雑化している。在日同胞社会も例外ではなく、より重大な変化を遂げている。
共同体組織、機能体組織としての民団は、在日同胞としての欲求がある限りその存在価値を失うことはない。
しかし帰属意識、共通目的の変化に適応するために、民団は自己変革が必要であり、そのための「危機意識」と「使命感」を持たなければならない。
同胞は何を望んでいる
在日同胞社会が多様化し複雑化することによってその価値観、欲求も多様化、複雑化、高度化しているという認識をもって我々は民団の行く末を考えなければならない。
マズローという高名な心理学者は「欲求段階論」を提唱し、人間の欲求は、①生理的欲求②安全の欲求③所属の欲求④承認と尊敬の欲求⑤自己実現の欲求の5段階があるとしている。民団のこれまでの行跡がこの段階論に沿っていたものと確認できる。そして現在もなおこの欲求は継続してその実現が期待されている。
特に今後重視しなければならないのは自己実現の欲求である。これはステップアップした欲求と言える。自己の能力を発揮し創造的活動を行う、在日同胞の持つ特質を生かし、社会の発展・成熟に尽くす、マイノリティとしてのハングリー精神を発揮し問題解決をはかるということになろう。
以上のことを踏まえて在日同胞の欲求、民団への期待をかいつまんで考えてみたい。
「社会的な面」では①在日同胞の大統合②南北間の統一実現③祖国発展への貢献④韓日友好親善の促進⑤韓国、日本の自由民主主義成熟、「在日同胞自体」では①韓日の国政選挙権、日本の地方参政権②少子高齢化社会への対応③疎外同胞の防壁④韓国籍保持の啓蒙⑤民族教育の徹底⑤人材の育成⑥在日同胞の生活安定⑦経済的活動の活性化⑧多重国籍の実現⑨韓国での差別是正、「日本社会・地域社会」では①ヘイトスピーチなど日本社会の排外意識の是正②各種差別の是正③日本社会の多民族多文化社会の実現④地域社会への貢献が挙げられる。
在日社会の変化
他にも多様な欲求が考えられるが、これらの欲求を誰がどのように実現していくのかと問われれば、民団が自己変革を遂げ、多様な在日同胞を結集して実現していくという結論に至る。もしそれができなければこれらの欲求は放置され、在日同胞の存在も霧散していくということになるだろう。
人口構成の変化と意識、認識、価値観の多様化など、民団に関わるもっとも劇的な変化は、在日同胞自体の人口構成の変化に伴う意識、認識、価値観の多様化、複雑化、高度化である。かつて在日同胞社会は韓国籍と朝鮮籍に二分されていた。それが次第に南北韓の力関係の変化と民団組織自体の努力の結果、朝鮮籍は3万2000人と激減し、韓国籍は45万人を維持しているが、その内実は多様化、複雑化している。韓国籍者は45万人と言われるが大別して3つに分かれる。特別永住者、一般永住者、朝鮮籍からの移籍者である。
加えて在日同胞社会の人口構成に重大な変化をもたらしたのは日本籍者の増加と国際結婚の増加である。日本国籍の取得者は1952年からの統計では36万人とされるが、やはり1世から5世にわたり、その子孫を加えれば50万人は凌駕するものと思われる。
国際結婚は現在、約90%で推移していて、その大部分は日本人との結婚である。国際結婚は一面において日本国籍取得の動機ともなるが、他面においてはその同伴者も在日同胞社会の構成員となるし、二重国籍者も出現させる。他に朝鮮籍者が3万2000人、朝鮮族の中国籍者が8〜10万人と言われている。この者たちも広い意味では在日同胞であるし、将来的には確実にそうである。そして世代的には1世から5世にわたっている。
在日同胞社会は多種多様な人々によって構成されるに至った。それに伴って価値観、意識、認識も多様化、複雑化した事実を我々は認識しなければならない。
このような変化を目の前にして今後とも我々が徐々に減少する韓国籍者45万人のみを在日同胞と認識するか、門戸を大胆に開放して100〜150万人に及ぶ人々を対象として在日同胞と認識するかで民団の方向性は決定的に違ってくる。
(林三鎬)
(2018.01.01 民団新聞)