同胞社会「大統合」めざし
◆はじめに
北の核・ミサイル挑発を糾弾 昨年前半、韓国の政局は激動し、ついには大統領に対する弾劾訴追の国会通過、憲法裁判所による罷免宣告によって任期途中での大統領選挙に至った。本国政治の安定を願う私たち在日同胞は、この事態に胸を痛めつつも必ずや法治国家として法に則り肅々と事態が収拾されるものと確信してきた。
本団はこの間、本国政治に対しては「不偏不党」の立場を堅持し、国民全体から民主的に選ばれた政権とともに祖国の平和統一、経済をはじめとした各分野の発展、在日同胞社会の発展に尽くしていくことを基本方針として各種活動に取り組んできた。
このような立場から昨年行われた大統領選挙に対しても、一人でも多くの同胞が投票することを目標に広報に力を入れるなど積極的な参与活動を展開した。
韓国が国内政治の混乱に陥っている間も北韓は核・ミサイル開発を着々と進め、世界に対する挑発行為を繰り返し行ってきた。国際社会は国連を中心に北韓に対する経済制裁を実施することで核・ミサイル放棄を促そうと足並みをそろえるなか、韓国政府は北韓との対話によって問題解決を図ろうとの構えだ。
これに対し、核とミサイルを絶対放棄しないとの頑なな姿勢を崩さない北韓がどのように対応してくるのか注目したい。在日同胞としては、北韓が誠意を持って応じてくることで平和的に解決されることを心から期待したい。
|
9月15、16日の両日、民団地方協議会主催の北韓糾弾デモが全国5都市で行われ、2000人の同胞が参加した |
「対策法」強化訴え 北韓の執拗な核・ミサイル実験によって、日本、韓国など北東アジアばかりでなく、世界平和が脅かされ、韓半島を取り巻く情勢は極度の緊張状態にあると言っても過言ではない。
本団は、北韓の暴挙が人類全体への犯罪行為であることを糾弾し、核やミサイル開発の即刻中止と、これに費やす膨大な時間と資金を飢餓にあえぐ北韓住民の救済に充てるべきだと主張してきた。
こうした暴挙に盲目的に称賛を送る朝総連に対しても、核・ミサイル開発阻止に向け、ともに行動することを呼びかけてきた。また、昨年9月には全国5カ所で北韓の核・ミサイル挑発を糾弾する緊急のデモ行進を実施し、在日同胞の意思を日本社会に大きくアピールした。
一方で本団が深刻に懸念しているのは、「北韓憎し」の感情が日本で日ごとに高まり、一部の者がこれに便乗し「嫌韓」感情を煽りヘイトスピーチやヘイトクライムに繋がることだ。
在日同胞の生活を守っていくべき立場の本団として、人間としての尊厳を踏みにじり普通の生活を脅かそうとする卑劣なヘイト行為を絶対に許すわけにはいかない。
街頭でのヘイトスピーチは、本団が運動の中心となり一昨年成立させた「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下、対策法)の効果もあり、下火になりつつある一方、ネットや公的施設を使用してのヘイトスピーチは今なお収束にはほど遠い状況だ。
本団は、禁止規定や罰則がなく理念法となっている「対策法」をより実効性ある法へと改正することを求めつつ、他方で、理念法を補完する意味で地方自治体での条例制定に注力してきた。また国際世論を喚起するため国連人権理事会と自由権規約委員会への働きかけも行ってきた。
その結果として、人権理事会が日本政府に対し、包括的な差別禁止法の制定とヘイトスピーチ対策強化を勧告するという成果に繋がったものと評価できる。
「慰安婦合意」履行を 文在寅大統領は昨年7月、初の韓日首脳会談で、両首脳がシャトル外交再開に合意するなどの成果を上げた。これまで2度の直接会談と9度の電話会談で、韓日両国は北韓への対応などで基本的な合意をしている。政権交代を機に関係改善が進むことが期待されたが、昨年後半期には慰安婦問題によって韓日関係がまたもや困難な状況に陥ることとなった。
慰安婦問題に対する本団の基本的な立場は、2015年の韓日合意は守られるべきだということに今も変わりはない。
日本社会にしっかりと根を張り生計を立てている在日同胞は今、韓日間の政治的な葛藤のはざまで首をすぼめて問題解決を待っているのが実情だ。
国内世論の反発など幾多の困難な問題があるだろうが、韓日両政府が合意に基き一日も早く問題解決が図られることを心から願うものである。
平和の祭典、平昌冬季五輪・パラリンピックが開幕した。アジアで夏季と冬季の五輪・パラリンピックを開催するのは日本に次いで2カ国目となる。
本団は祖国の国際的大イベントにはこれまでも多大な協力をしてきた。平昌冬季五輪・パラリンピックに対しても在日韓国人後援会を組織し、日本国内での広報、運営資金の募金活動、競技参観団の派遣を中心に後援活動を進めてきた。
募金活動では全国のすべての地方本部と傘下団体が同胞一人ひとりの誠意を集めていただき、特に兪在根常任顧問の誠金1億円と合わせ2億円が寄せられ組織委員会に伝達することができた。募金に協力して頂いた全国の同胞の皆さん、組織幹部の皆さんに深くお礼を申し上げたい。
本団は、在日同胞の歴史と本国社会発展への貢献について、本国の歴史教科書への掲載を目指し一昨年から取り組んできた。昨年は国内の政治状況もあり特段の進展を期することはできなかったが、来期はすでに集められている約4万人の署名を有効に活用しつつ掲載に向けての活動を加速させたい。
昨年、朝鮮通信使がユネスコの世界記憶遺産に登録されたことを喜びたい。韓日関係が厳しい状況の中、両国の民間団体が協力し合い精力的に活動してきた成果と捉え、今後もこのような具体的な事業を通して韓日間の懸け橋の役割を果たしていきたい。
◆重点方針
「未来創造メッセージ」実践 昨年度、われわれは創団70周年を期して発表した〞未来創造メッセージ〟を具体化した提言の実践を目指した。現在進行形で進んでいる在日同胞社会の構造的大変化に早急に対応しなければ将来の展望は開けないとの強い危機意識からである。提言は7項目にわたっているが、早急に手がけるべき事項から優先的に取り組んできた。
|
地域同胞指導者ワークショップが東京、大阪、福岡で開かれた |
その一環として過疎地方本部の強化を図る目的で、民団史上初めて〞統括局長〟を四国4県を対象に昨年9月に派遣、各種事業の推進と日常業務の支援に当たってきた。試験的な試みではあったが、指導におけるノウハウを把握できたことで今後も組織力量の脆弱な他の地域に拡大して派遣していく基盤を作ることができた。
一方で、特に過疎地方本部からの要請が強かった地方本部3機関長の就任要件緩和(日本国籍同胞の登用)については、全国3カ所で開催した指導者ワークショップの場を活用し、幅広い意見を聴取したほか、規約委員会でも徹底した議論を重ね問題点と将来あるべき組織像についての認識を深めてきた。日本国籍取得者に限らず新定住者の参与を促し、在日同胞社会の大統合、本団組織の大胆な開放は早期に実現すべき課題として今後も引き続き検討することとした。
韓国内に居住する他の外国人には適用されながら、在日韓国人は除外されていた各種生活支援制度について、本団は関係行政部署に対しこの間是正を要望してきたところ、昨年9月から保育料と幼児学費が支給されることとなった。在外国民に対する他の適用除外制度についても引き続き政府に要望を続けていく。
全国の地方本部、支部が所有する民団財産(主に不動産)のうち、今なお多くの財産が個人名義のまま放置されている実態がある。中央本部は昨年、その実態を把握する調査に努めたが、未だ道半ばであり、引き続き2018年度も調査を継続していく。同様に青年商工人の育成や韓人会との統合問題にこれといった進展がなかったことを率直に認めざるを得ないが、引き続き努力していく必要がある。
民族的アイデンティティー確立 次世代サマースクールは昨年も中・高・大学生別に全国規模で実施した。母国の分断状況や社会・経済の発展相を直接学習するまたとない機会となっており、次世代育成事業の大きな柱のひとつとして今後も大きく発展してほしい。
昨年は新たに学生会が主体となり大学生ジャンボリーを開催し、3泊4日の日程で討論会、交流会等を自主的に運営し、自立的な活動に向け良い契機となった。
中央本部ではこの間、地方本部または各地協がその特性を生かし合同で小・中学生ら次世代を対象とした事業を実施するよう勧奨してきた。昨年は居住同胞の少ない北陸3県本部が合同でオリニ交流会を行い、中央本部の指導の下、幼児から高校生、保護者を含め50人以上が参加し、県本部単独では実現しなかった事業を可能にした。
全国の地方本部が実施している韓国語講座(ウリマル・ハングル教室)は42地方本部134個所731クラスと例年の水準を維持している。本団は昨年、韓国語講座を支えている講師を対象に意見交換会を行い、各地の現場での隘路点や成功例などを紹介し合うなど相互の研鑽を図り、講師の資質向上に大きく寄与した。
|
世界遺産登録を祝う朝鮮通信使の再現行列(川越) |
韓日友好、共生促進 朝鮮通信使の世界記憶遺産登録の運動推進に際し、本団はその一翼を担うべく運動主体であるNPO法人朝鮮通信使縁地連絡協議会に23地方本部1支部が加盟した。日本全国で草の根の韓日親善活動に携わっている日韓親善協会とも連携しつつ、地域社会の各種イベントを通じて朝鮮通信使パレードを再現しながら異文化理解を訴え側面的に登録推進をバックアップしてきた。
ヘイトスピーチ根絶を目指し、地方条例の制定や「対策法」の改正を含めた闘いを進めてきた。
東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡本部などは、管内の主要自治体に条例制定を積極的に働きかけ、なかでも川崎市は公園・公民館など公的施設でのヘイトスピーチを事前規制するガイドラインを策定、2018年3月から施行する(予定)までこぎ着けるなど成果を挙げている。
地域社会住民としての当然の権利である地方参政権の獲得については、定住外国人に対する理解不足や今なお日本社会に残る排外主義的な傾向により現状は決して楽観できる状況ではない。そのような厳しい環境にありながらも、本団は運動の一環として国際世論の理解を広げる活動を行ってきた。
昨年、本団は国連自由権規約委員会に代表団を派遣し要望活動を行った結果、自由権規約委員会の日本政府に対する質問事項に外国人参政権問題(「日本政府は、永住権を取得した外国人に対して、地方参政権を付与することを考慮しているかどうかを明らかにして下さい」)が含まれることとなった。今後とも日本国内外の関係機関への働きかけを粘り強く続けていく。
◆むすび
組織開放へ前進 在日同胞にとって目下の最大関心事のひとつが、北韓の核・ミサイル問題だ。開発を阻止できるのか、または北韓の暴走がこのまま続いてしまうのか。本団は北韓の核・ミサイル開発には断固反対することを改めて明らかにする。
現在、平昌冬季五輪・パラリンピックへの選手団参加を契機に南北間で各種対話が続いているが、今後どのように対話が進展するのか注視していかねばならない。南北関係の進展の程度によっては在日社会にも大きな影響を与えることが予想されるからだ。
昨年度は主に未来創造メッセージの提言実践化に取り組んできた。初の試みとして「統括局長」の派遣などでは成果を挙げた。地方本部3機関長への就任要件の緩和については、実現には至らなかったものの、議論が相当に深まったことは間違いない。今後も同胞社会の大統合と民団組織の開放に向け前進することを強く期待したい。
他にも朝鮮通信使のユネスコ世界記憶遺産への登録、ヘイトスピーチの根絶に向けた地方自治体への働きかけによって条例を制定する自治体が相次いでいること、平昌冬季五輪・パラリンピックへの後援活動など多大な成果を挙げることができた。
全国各級組織と傘下団体の幹部・活動家の皆さんの不断の活動に対し、ここに改めて感謝申し上げ、2017年度の活動総括とする。
(2018.02.14 民団新聞)