共同発展の礎 明らか…経済の構造的連結強い
葛藤は新時代への陣痛
2015乙未年の新たな春を迎え、全国民団の幹部ならびに団員の皆さん、そしてすべての在日同胞の皆さんに、謹んで新年のごあいさつを申し上げます。
次代育成動力に
昨年の本団は「民団再生」・「民族主体性確立」・「韓日友好促進」の3大運動に全力を注ぎました。改善のままならない韓日関係を憂い、ヘイトスピーチ(憎悪表現)や「嫌韓」本の横行に歯がみし、セウォル号沈没惨事に心を痛めながらも、多種多様な継続事業や新規事業に真摯に取り組んだ全国の幹部・団員の皆さんに衷心から慰労の言葉をおくります。
それぞれが有機的に結びつく3大運動にあってもっとも強力なエンジンになったのは、本団と在日社会の今後を担う次世代の育成事業でした。日本の中学・高校・大学に在籍する同胞子弟を対象にした母国研修に270人が参加したほか、8回目のオリニ・ジャンボリーに350人、昨年が初開催の大学生ジャンボリーには140人が集いました。これからの人生を支え合う仲間づくりは、参加者本人はもちろん親御さんたちをも勇気づけています。
「MINDAN就職フェア」を復活させ、「婚活パーティー」も近畿と関東の両地方協議会が規模を拡大して実施しました。「みんだん生活相談センター」が福岡、北海道、大阪、愛知に新設され、一昨年の岡山、宮城を含め6地方で稼働しています。「脱北者支援センター・関西」が発足して東西体制が整いました。また、中央商銀信組とあすなろ信組が対等合併し、地域信組で最大の営業エリアをもつ超健全な信組に生まれ変わりました。本団の積極的な支援による民族金融再生事業として特筆するに値するでしょう。
在日社会の統合問題でも進展がありました。160人が結集した「全国40〜50代活動者ワークショップ」は、幹部の士気高揚と連帯強化を図るだけでなく、新定住者団体である韓人会幹部の参加を得て、共通懸案にともに対処すべく意気投合しました。韓人会との交流・連携は本団組織強化に資することになるでしょう。さらに、3年にわたって紛糾してきた韓商連問題も、昨年12月に統合推進委員会が設置され、事態収拾への動きが本格化しています。
ヘイトに包囲網
ヘイトスピーチ対策にも力を入れました。国連人種差別撤廃委員会の対日審査に際してジュネーブに代表団を派遣し、法的規制を日本政府に働きかけるよう陳情するとともに、日本全国の地方議会に同趣旨の決議要望書を伝達してきました。年末の「ヘイトスピーチを根絶させよう! 東京シンポジウム」では350人の韓日市民が連携強化を力強く確認しています。国際社会の視線は厳しさを増し、日本でも最高裁が特定集団のヘイトスピーチを「人種差別」と認定するなど包囲網は着実に狭まっています。
本団の地方本部・支部は昨年も、親睦や文化行事の多くを韓日友好の市民交流の場として拡充してきました。その代表例が民団東京と大田日韓文化交流親善協会が共催した「韓日ふれあい広場」です。両国の高校生ら120人のボランティアが2700人の大きな交流プログラムを見事に成功させました。本団が積極支援した「韓日祝祭ハンマダンin東京」には2日間で5万人が足を運んでいます。こうしたたゆまぬ努力はヘイトスピーチ集団をより孤立させずにはおかないでしょう。
実体は相互補完
親愛なる在日同胞の皆さん。
私たちは今年、かねてから強く意識してきた国交正常化50周年(6月22日)、祖国光復70周年(8月15日)という韓日関係の大きな歴史的節目を迎えます。
本来であれば、双方が来し方を冷静に振り返り、克服すべき課題を確認しつつも評価すべきは評価し、新たな50年を語り合う意義深い年のはずです。しかし残念ながら、この間の韓日関係は過去最悪と言われる状態にあり、このまま推移すれば互いの歴史認識が激しくぶつかり合い、より厳しい試練にさらされる可能性をはらんでいます。
だからこそ、あえて問い直したいのです。韓日関係はほんとうに最悪なのでしょうか。実態と認識の間にギャップがあり過ぎはしないでしょうか。
両国関係を修復・発展させようとする力強い要素はいくつもあります。文化・芸能・スポーツ、あるいは自治体間の交流はきわめて活発であり、創造性と大衆性が問われる映画や演劇においてさえ韓日合作は珍しくなくなりました。12年の556万人より減ったと言っても、相互の往来は年間500万人近い規模を維持しています。
両国による交流・協働が多様・多層にわたるなかで何より注目されるのは、関係発展の基礎とも言うべき経済的な連携の拡大です。
昨年12月、韓国の全経連と日本の経団連が7年ぶりの会合をソウルで開き、韓日首脳会談の早期開催に向けた環境づくりに取り組むとともに、過去50年を土台に未来志向のいっそうの協力関係を築く決意を共同声明に盛り込みました。
「過去50年の土台」という認識こそ、今、もっとも重視されるべきではないでしょうか。韓国と日本は50の主要輸出品目のうち26品目で激しく競っています。十数年前が10品目に過ぎなかったことからすれば、両国の経済関係が急速に水平化してきたことが分かります。
これは経済摩擦をもたらす半面で、大手企業どうしの資本・業務提携を促進させ、経営基盤の強化のほか資源・エネルギー開発、インフラ建設などで海外に共同進出するケースを増やしてきました。大手だけでなく、中小の各種部品メーカーによる販路拡大、生産委託、製品の共同開発にも盛んなものがあります。
出色なのは、両国の産業技術協力財団が官民で構成する韓日合同ミッションでしょう。一昨年のインドネシア・タイに続き昨年はミャンマーに派遣されました。韓日経済人会議が共同声明で提唱した「『一つの経済圏』形成における第三国共同進出の拡大」という大方針に基づくものです。これは文字通り、「韓日国交正常化50周年記念事業」として展開されています。
韓日経済は競合しつつも協力し合うシステムを着実に整えてきました。互いを必要としあう構造的な相互依存と言えるでしょう。全経連と経団連の共同声明は建前をととのえたものではなく、未来志向に裏打ちされた実践課題そのものです。
不備を補いつつ
親愛なる在日同胞の皆さん。
韓日国交正常化は確かに、歴史清算問題を積み残したままの見切り発車でした。経済協力と安全保障を優先したからだけではなく、日本側に植民地支配に対する反省・謝罪の意識があったとは言えず、韓国側に押し通すだけの力がなかったからです。
しかし、植民地支配に対する反省と謝罪は、細川首相の言明(93年)、「河野談話」(同年)、戦後50年に際して閣議決定された「村山談話」(95年8月)と深みをおびてきました。そして98年10月、小渕首相は金大中大統領と交わした韓日共同宣言「21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ」で、「過去の一時期、韓国国民に対して植民地支配により多大な損害と苦痛を与えた」ことに「痛切な反省とおわび」を表明しました。両国間の外交文書に初めて、しかも首脳による最高度の「共同宣言」に公式謝罪が明記されたのです。
さまざまな葛藤の震源となっている歴史認識についても、なおざりにしてきたわけではありません。国交正常化当時の不備を補う持続的な取り組みがあり、画期的な進展があったことにも目を向けたいと思います。
地域平和の基軸
親愛なる在日同胞の皆さん。
ここ数年で過熱した確執について識者の多くは、両国関係の水平化によって双方からそれまでの「遠慮」がなくなったことを主な要因にあげ、今がまさに、成熟した新たな関係を産み出す陣痛期にあるとの見方を示してきました。しかもこれは、東アジアの力学と関連づけて論じられています。
冷戦崩壊から四半世紀が経過したにもかかわらず、東アジア地域安保のための枠組みづくりは手探り状態から抜け出せていません。むしろ、北韓による核脅威の増大、中国の経済的かつ軍事的な台頭、ロシアの極東進出が目立つ一方で、日本の国力と米国の影響力の相対的な低下があり、不透明感を強めています。
98年の共同宣言以来、韓日はともに「自由、民主主義、市場経済という普遍的理念に立脚」している意義を繰り返し確認してきました。基本的価値観と対米同盟を同じくするばかりか、貿易立国として相互補完性を強めてきた両国は、自国と東アジア地域の平和と繁栄のために、新たな秩序を築く戦略的課題と責任をも共有しているのです。
緊密な経済関係に反して疎遠さが際立つ政治面においても、昨年、関係修復へいくつかのシグナルが見え始めました。10月にソウルで開催された韓日・日韓議連合同総会が採択した共同声明は、元慰安婦の名誉回復と心の痛みをいやす措置を早急にとるよう努力し、「河野談話」、「村山談話」の精神にふさわしい行動をとることを確認しました。これまでにない踏み込んだ内容です。
さらに11月、北京で開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で朴槿恵大統領と安倍首相が両国の懸案について「自然な形」で対話する機会がありました。そこに至るまでには、水面下での高度な折衝があったに違いありません。
善隣友好は宿命
親愛なる在日同胞の皆さん。
韓日は国交正常化からこれまで、実に多くの共有財産を積み上げてきました。経済分野を中心に相互補完性を強め、東アジアにおける経済・安保の両面で戦略的な課題を共有するなど、支配・被支配の関係にあった二つの国がこのようなレベルにまで達したのはきわめて異例でしょう。
歴史認識の葛藤が「50年の土台」を揺るがせ、不幸な歴史を再生産させるようなことがあってはなりません。善隣友好を宿命づけられた両国だからこそ、関係が悪化すればその分だけ修復バネが働くのは道理としても、半世紀の成果をいっそう熟成させることで争点を狭める努力は怠れません。自他ともに認める韓日の懸け橋であり、草の根交流の担い手である私たちこそ、その先頭に立つべきでしょう。
朝鮮通信使を韓日友好の理想像として顕彰する行事が縁故のある日本各地で盛んに行われてきました。この通信使の関係史料を来年3月にユネスコ記憶遺産に登録すべく、両国の自治体や民間団体が共同で準備しています。本団は今年、これが善隣友好の新たな金字塔となるよう全力で後押しする方針であり、「第5次 21世紀朝鮮通信使友情ウオーク」などさまざまな韓日共同行事を支援するだけでなく、自らも企画・推進するでしょう。
両国が「光復」と「終戦」の「70年」をより重視するとしても、韓日それぞれにとって「50年」を抜きにした「70年」があるでしょうか。韓日各界がこの「50年」の豊かな中身を再評価し合うことで、新たな「50年」のよき起点を築きたいものです。
本年が韓国と日本、そして在日同胞皆さんにとって明るい未来を描ける年となるよう祈念します。
(2015.1.1 民団新聞)