活力開発・在日統合に手応え
第69回定期中央委員会(17日)に上程される「2014年度活動報告案」は要旨次の通り。
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はじめに
ヘイトS対策踏み込む
本団は2014年度も困難な環境におかれた。韓日関係は国交正常化以来で最悪とされる状況のまま推移し、嫌韓本や一部メディアによる嫌韓言説の氾濫、ヘイトスピーチ(憎悪表現)の横行が目に余った。さらに、4月にはセウォル号沈没惨事が起き、同胞社会の心痛をいっそう深めた。
「民団再生」・「民族主体性確立」・「韓日友好促進」を3大運動に掲げた本団は、そうした厳しい状況だからこそ心を一つに、多種多様な活動を意欲的に展開した。オリニから中・高・大の生徒・学生を対象にした次世代育成事業、就職・婚活・生活相談を中心としたライフサポート事業が基軸となり、「民族主体性確立」と「民団再生」が有機的にリンクして相乗効果を生んだ。
ヘイトスピーチ対策でも、5月に発足した人権擁護委員会を先頭に大きく踏み込んだ。日本市民を中心とした反ヘイト運動を積極支援するにとどまらず、国連人種差別撤廃委員会の対日審査に際して代表団をジュネーブに派遣、法的規制を日本政府に働きかけるよう被害当事者の立場から直接訴えた。同趣旨の決議要望書を全国の地方議会に伝達する一方、各地でシンポジウムを開催し世論喚起に努めた。
国連人種差別撤廃委員会は、ヘイトスピーチに毅然と対処し、法律で規制するよう日本政府に勧告した。日本でも最高裁が特定団体によるヘイトスピーチを違法と認定したほか、地方議会で国に適切な措置を求める意見書採択が続き、各政党も法的規制への動きを本格化させた。ヘイトスピーチに対する包囲網は着実に狭まっている。
「韓日友好促進」にも全力を傾けた。恒例の「10月のマダン」や新規の文化事業を韓日交流の場として引き続き拡充したのをはじめ、善隣友好の歴史的な象徴である朝鮮通信使の関係史料をユネスコ記憶遺産に登録すべく、両国の自治体や市民団体とともに準備に入った。
長期化する非正常な関係に危機感を募らせる韓日各界も、国交正常化50周年の節目を意識しながら、それを修復しようとする動きに本腰を入れてきた。力強いのは経済界だ。
両国経済界は「韓日国交正常化50周年記念事業」を推進中であり、「『一つの経済圏』形成における第三国共同進出の拡大」を大方針に、大手企業は互いの強みを生かして海外市場への共同進出を拡大し、中小部品メーカーも相互補完の深化を加速させている。
韓国の全経連と日本の経団連が昨年12月、7年ぶりとなる会合をソウルで開き、韓日首脳会談の早期実現に向けた環境づくりに努力する一方、国交50年の実績を土台にいっそうの協力関係を築く決意の共同声明を採択した意義は大きい。
政界でも真摯な模索が続いた。韓日・日韓議連が10月にソウルで開いた合同総会は、元慰安婦の名誉回復と心の傷をいやす措置を早急にとるよう努力し、「河野談話」「村山談話」の精神にふさわしい行動をとることを共同声明で確認、これまでになく突っ込んだ表現で関係改善への意欲を示した。
政府間でも折衝が本格化した。朴槿恵大統領と安倍晋三首相は、昨年3月にハーグでオバマ大統領が仲介する形で会談し、11月に北京で開かれたAPEC首脳会議でも対話の場をもった。外務当局者による交渉も外相会談(2回)、次官戦略対話(1回)、局長協議(5回)が相次いだ。また、森喜朗元首相の朴大統領表敬訪問、鄭義和国会議長の安倍首相表敬訪問もあった。
昨1年間における韓日間の人的往来は、500万人(訪日韓国人約275万5300人、訪韓日本人約229万7000人)を超えた。ビジネス・観光だけでなく自治体や市民団体間の文化・スポーツ交流などの根強さを示すものだ。
韓日関係は膠着したまま越年したとはいえ、善隣友好の基盤はなお堅固であり、現状打開への活力は旺盛と言える。本団は政界、自治体、市民団体によるそうした努力を、草の根交流の担い手、韓日の懸け橋役として下支えしてきた。
逆境をバネに取り組んだ昨年度の3大運動と各種事業について報告する。
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民団再生運動
生活支援の試み多様に
在日社会は民族意識の劣化、少子高齢化、日本国籍取得者や新定住者の増加などにともなう構造変化が著しい。実態に合う組織に改革すべく、13年度に立ち上げた未来創造プロジェクト推進本部を中心に再生を模索してきた。
同本部の提言を受け、組織改革・強化と在日社会の統合を同時追求した。初開催の「全国40〜50代後継者ワークショップ」や組織学院東北教室に、本団の幹部候補とともに新定住者団体からも幹部・活動者が参加。中央本部幹部と韓人会連合会幹部の各行事への相互参加や支援、各地韓人会と当該民団本部との交流も続いた。諸懸案への共同対処や組織統合に向けて問題意識の共有がはかどった。
中央本部幹部による支部巡回・対話集会は37支部で実施。12年度の開始以来、全支部の6割にあたる計163支部に及んだ。支部活性化のための支援金は申請に基づいて139支部に895万円を交付。新規事業は89件で、韓日交流と次世代育成が目立ち、複数支部の合同方式も増えた。
生活支援事業は大きく進展した。在日大学生と留学生を対象とした「MINDAN就職フェア」を復活させ、ブライダル事業では地域ごとの開催を奨励したほか、近畿と関東では地協単位でも実施した。「みんだん生活相談センター」の全国化も進んだ。
韓信協会員組合の旧中央商銀と旧あすなろが合併、きわめて健全な横浜中央信組が誕生し、民族金融機関の強化に大きく貢献した。関東甲信越・北陸12県の民団本部と韓商の自助努力、民団中央本部と韓商連の全的支援の成果として特筆されよう。
新時代に対応する「電子組織」化でも着実に土台を築いた。「スマート世代」向けにSNSを中心としたネットワークを活用、次世代、新定住者、本国社会、海外同胞社会への情報発信を強化する一方、LINEを用い全国実務者間の情報交換を迅速化した。
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民族主体性確立運動
裾野広げる次世代育成
8回目となったオリニ・ジャンボリーは、セウォル号惨事による行事自粛の影響を受けながらもオリニ343人、ボランティア77人が参加する過去2番目の規模となった。ボランティアには本国大学生39人が初めて参与、在日同胞社会や民団に対する理解を深めた。在日と本国の架橋的役割に期待がかかる。
日本の中学・高校・大学に在籍する同胞子弟を対象にした次世代母国研修には270人が参加。この11年度からの継続事業は、同世代が本国を訪れ統一問題や本国の実情、在日同胞の歴史を学ぶ貴重な場として定着してきた。
本団の各種オリニ事業や次世代母国研修に参加した子弟を学生会、青年会に定着させることを目的に、本団が初めて開催した大学生ジャンボリーには140人が集った。学生会による例年の夏季事業にくらべて参加者が多く、運営を主に学生会が担当したことで同会の力量向上にもつながった。
幼少時から民族文化になじませる土曜学校は24地方39カ所で開校し、参加者は年々増加中だ。東京韓学の土曜学校は700人を超えた。臨海・林間学校など夏季事業とともに、「冬季オリニの集い」も実施地域と参加者数が増加勢にある。
昨年で8回目となった中央団長杯争奪オリニ・フットサル大会には全国から21チーム、300人が参加した。フットサルは同大会を頂点にすそ野を広げ、ジャンボリーに次ぐオリニ行事に育った。小中学生をはじめ3世代が集うボウリング大会も年々盛んになっている。次世代育成事業は、父母・祖父母世代がともに楽しむ行事として活況を見せ、各地のこうした試みが同胞の集まりやすい組織づくりにつながり、民団再生にも大きく寄与している。
ウリマル使用勧奨では、本団が全国で運営する韓国語講座の同胞受講者の比率を高めるべく督励を続ける一方、教材の紹介や安価購入の案内を行い、「MINDAN文化賞」のウリマル普及部門の充実を期すなど気運醸成に努めた。
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韓日友好促進運動
草の根・政治の両面で
昨年は国交正常化50年、祖国光復70年の前年だっただけに、韓日友好促進に精力的に取り組んだ。本団の主要行事の多くをその課題との関連で推進したといって過言ではない。この運動は地方本部・支部の日常活動と中央本部が直接かかわる特別事業の二つに仕分けられる。
日常活動でその主力となったのは45地方に164教室685講座を数える韓国語講座。韓日関係悪化のなかでも日本人が過半を占める受講者は約8000人を維持した。手芸や舞踊、テコンドなど韓国の文化・スポーツに親しむ常設スクールも健在だ。韓国料理をつくりながら韓国語を学ぶなど新たな試みも目立つ。
恒例の春の野遊会、秋の「10月のマダン」も韓日善隣友好の目的をより明確に掲げ、団員と地域住民が絆を深める場となった。各地の日韓親善協会とともに自治体や市民団体間の文化・スポーツ交流の拡大・定着に引き続き貢献した。
伝統江戸野菜の内藤とうがらしと、高麗神社で有名な埼玉県日高市で栽培する韓国白菜とのコラボによるキムチづくりなど、企画も豊かになっている。
特別事業としてはまず、本団が積極的に支援して6回目を迎えた「韓日祝祭ハンマダンin東京」があり、過去最高だった前年と同じ5万人が足を運んだ。同じく東京開催の「韓日ふれあい広場」には同胞と地域住民2700人が参加、文化とスポーツの多彩なプログラムに興じた。この運営を支えたのは、東京韓学高等部と日本の高校生120人のボランティアだったことを強調しておきたい。
友好促進の新たな目玉は朝鮮通信使の関係史料をユネスコ記憶遺産に登録する事業だ。ゆかりの15自治体と民団中央本部を含む40の民間団体が加盟する「朝鮮通信使縁地連絡協議会(略称=縁地連。事務局=対馬市)」が韓国の民間団体と共同で推進する。本団は縁地連加盟自治体と密接な関係をもつ地方本部による「朝鮮通信使サミット」を開催、当該本部それぞれが縁地連に加盟するとともに登録事業を積極支援することを確認した。
本団は韓日政界のパイプ役としても努力を重ねた。中央本部主催による柳興洙・新駐日大使在日同胞歓迎会に、異例ながら日本の与野党重鎮議員20余人を招き、「手を携え迎えよう、修交50周年、18年平昌、20年東京」のスローガンのもと、関係の早期修復への決意をともにしたのもその一環だ。
在日同胞の生活を脅かし、韓日関係の新たな阻害要因となったヘイトスピーチには人権擁護委員会を中心に対処した。国連人種差別撤廃委に代表団を派遣し、全国の地方議会に法規制を求める要望活動を展開、反ヘイトのシンポジウム、展示会を日本と韓国の5会場で開催した。
年末の東京シンポジウムには350人が詰めかけ、「許さない」との決意をみなぎらせた。ちなみに昨年末現在、何らかの対策・法的規制を求める意見書は24の地方議会が採択した。
地方参政権獲得については、韓日関係の悪化やヘイトスピーチの横行にもかかわらず、各政党および有力議員に対する要望、問題提起を続けてきた。韓日・日韓議連が昨年採択した共同声明にも継続努力することが盛り込まれた。
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各種事業
祖国平和統一
民主平和統一諮問会議の第16期第3次海外地域会議に244人が参加、統一外交官として国際社会の支持獲得に献身することを誓い、日本地域の真摯な姿勢は運営当局から高い評価を受けた。民主平統首席副議長や統一部による現政府の統一政策、北韓の実情に関する講演を全国で開催。「東北アジア情勢と韓半島統一」と題したフォーラムには首都圏幹部ら300人が参席。統一教育院研修には幹部・実務者72人が参加した。
生活相談センター
専門相談員は2人増えて45人体制。相談件数も前年より43件増の899件。婦人会の全国大研修会で法律説明会をもったほか相続や育児・教育をテーマに地方セミナーを開催。地方センターは13年度の岡山、宮城に続き福岡、北海道、大阪、愛知に新設され、全国化が一挙に進んだ。
脱北者支援センター
「脱北者支援民団センター・関西」が開設され、脱北者の集住地域である首都圏と関西をカバーする体制が整った。交流会参加者は関東が60人、関西が2回で100余人と増えた。脱北者証言集会も北海道から九州まで各地で開催。脱北者の訪韓団を派遣し、国内居住の脱北者との交流を推進した。
旅行者支援センター
訪日韓国人が前年より30万人増の275万人を超え、支援センターの役割もより重要になった。だが、総対応件数は1449件で前年より減少した。日本慣れしたリピーターの増加が要因と思われる。支援内容は翻訳が最多で、交通案内、荷物保管の順。事故・急病にも手厚く対処した。
在日韓人歴史資料館
「慰安婦」問題や関東大震災時の虐殺に対する真相糾明を主なテーマに土曜セミナー10回、企画展4本を実施。韓国中央会館1Fロビーを企画展示室として活用、来館者増に寄与した。開設9年で延べ入場者は3万人となった。
慰霊・顕彰事業
長崎原爆韓国人犠牲者の慰霊碑建立では、建立委員会を7回開催。碑文・設置案内文の修正を行う一方、市当局と敷地や石碑様式について折衝を継続。在日学徒義勇軍の戦死者を慰霊し、その犠牲精神をたたえる忠魂碑を中央会館正面敷地に建立、国連軍参戦諸国の代表らも参席して除幕式を挙行した。
文化芸術活動助成
在日社会の文化を伝承・振興する目的で活動する団体とその事業を対象に、計48件に600万円を交付した。団内は14地方17団体42件に300万円、団外は6件に300万円。
特記‐沈没惨事対処
沈没惨事の犠牲者を弔う焚香所(献花台)を大使館と合同で中央会館に設置。在日同胞や近隣市民のほか安倍首相ら日本政府要人、各政党党首、知事、各国駐日大使ら2434人が弔問した。また、遺族支援のための募金活動を行い、約6450万円を在外同胞財団に伝達した。
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むすび
昨年の本団は、2015年度からのより困難な時代をにらみ、組織的かつ精神的な基盤を整えるべく一貫した。青年会OBを中心に全国の壮年活動者が同志的つながりを再確認し、韓人会幹部とも問題意識の共有をはかりながら在日大統合を可視化しつつある。
本国要路との紐帯強化にも努めた。この3年紛糾してきた韓商連問題も早期解決に目途をつけた。韓商連と社団韓商がともに参加した11月の「在日商工人の和合の集い」を経て、12月には統合委員会が発足した。仲介の労をいとわなかった柳興洙大使はじめ公館関係者に感謝したい。
13年度から稼働して有用な提言を行ってきた未来創造プロジェクト推進本部は、研究・論議の段階から実践段階に入ったと判断し活動を終了する。プロジェクトチームは今後も必要に応じて構成する。一方、長期的な観点から本団組織の在り方を考究する作業の一環として、昨年末に「法人化検討委員会」を立ち上げた。
険悪な韓日関係、それに便乗するヘイトスピーチ、停滞から抜け出せない同胞経済、それらに韓国で相次いだ大型惨事までが加わって、昨年の同胞社会は心痛が絶えなかった。それにめげず、多種多様な継続事業や新規事業に取り組んだ全国各級組織と傘下団体の幹部・活動者を心から慰労したい。
(2015.2.4 民団新聞)