「行動する保守運動」による過激な差別煽動・排外デモや街宣がほぼ毎週のごとく東京の新大久保と大阪市の鶴橋で繰り返されている。日本では「表現の自由」を盾に、法規制がない。どう対処するべきなのか。宇都宮健児弁護士と民主党の有田芳生参議院議員に聞いた。
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臆さず果敢に声を 宇都宮弁護士
宇都宮健児弁護士は弁護士11人と連名で3月29日、警察当局に適切な取り締まりを申し入れ、東京弁護士会にも人権救済を申し立てた。だが、「人種差別禁止法」のような法規制には慎重な立場を取る。
「恥ずべき言動だが、日本社会では表現、集会、結社の自由が認められている。『韓国人を殺せ』といったスローガンを叫ぶこと自体は刑法に抵触しない。許すべきではないが、警察は脱原発のような民主的なデモまで規制しようとしている。規制強化のあおりを受けて政府批判のデモまでいっさいできなくならないよう気をつけないといけない。ヘイトスピーチ規制をちゅうちょしているのはそこにある。市民の間で解決するのが理想。攻撃を恐れて何もしないのでは日本社会として問題だ」
ただし、在日韓国人が住んでいる地域でデモを行い、特定の個人・団体を名指して「殺す」「死ね」「レイプする」といった脅迫的な言動を叫べば別だ。刑法で処罰されるという。事実、09年に京都朝鮮第一初級学校の授業を妨害した事件ではメンバーらに侮辱罪、威力業務妨害罪などによる有罪判決が下った。
「脅迫行為、妨害、生命・財産を害する行為があれば、犯罪として告訴・告発はできる。当事者が立ち上がって告訴することがあれば、在日を応援しようという弁護士はたくさんいる。むしろ、声を出してくれたほうがやりやすい。黙っていれば、彼らは政府から守られていると勘違いしてさらに言動をエスカレートしていくだろう。泣き寝入りしてはならない」
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自ら告訴も辞さず 有田議員
参議院議員会館で「排外・人種侮蔑デモに抗議する国会集会」を開いてから、有田芳生参議院議員のツイッターには「朝鮮へ帰れ」「殺すぞ」といった罵倒が続いている。新大久保で街頭デモを視察したときには、「有田芳生を縛り首にしろ」とののしられた。
「表現の自由を超えた殺人教唆ともいうべき悪質な内容。95年に日本が加盟した国連人種差別撤廃条約では国が何らかの対策を行うことが法的義務として求められている。禁止法を制定し、差別は絶対に許さないという姿勢を打ち出してほしい。法規制がすぐには難しいというならば、日本で差別的な言動があるのかないのか、まず調査委員会をつくるべきだ」
昨年から「殺せ」「皆殺しにしろ」といったシュプレヒコールがさらにエスカレートしていくのを耳にし、「一線を越えた。ほうっておけない」と思ったという。2日前に「国会で抗議集会をしたい」とツイートしたところ、当日の3月14日は平日にもかかわらず定員を上回る250人が参院議員会館会場を埋めた。
「初期の段階から反対運動はあったが、問題の重要性が広く伝わり、許せないという人が新大久保、鶴橋に顔を出した。そういう呼び水的な効果はあった。警視庁は目の前で韓国人が侮辱されても取り締まろうとしない。当事者の深い心の傷をわかろうとしないのなら、私自身が告訴することも辞さない」
(2013.5.22 民団新聞)