「韓流の聖地」として、Kカルチャーの魅力を発信し続けている新大久保コリアンタウン(東京・新宿区)。多種多様なアイテムの中で、Kカルチャーを支える柱の一つがK‐POPだ。現在、代表的な2会場を合わせると、1カ月に20組を超えるボーイズグループがライブ活動を行っている。プロダクション「ワンワールド」代表で、プロデューサーでもある在日3世の高徹さんは、複数のグループの面倒を見ながら、メジャーデビューを目指すアーティストたちを後方からサポートしている。
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メジャーデビュー目指して
新大久保でk‐PОPアイドルと呼ばれているグループには、韓国でデビューしたものの、ブレイクできないグループ、日本でデビューした上で、これから飛躍を目指すグループなどが混在している。
新大久保を代表する会場は「K‐Stage O!」と「SHOWBOX」。双方合わせると1カ月に20から22グループが利用している。昨年12月、K‐Stage O!で開かれたライブ日程は、1日から31日までびっしり埋まっていた。1日2回公演を2グループが行う。1カ月当たり平均6グループになる。
K‐Stage O!は昨年11月、新人グループを対象にした小規模ホールをオープンした。ここでのライブ活動でファンがつけば、新大久保では最大規模となる館内のホールに移動する。無名のグループは年間で40、50を数える。
毎月20組以上がライブ
自ら新大久保通り沿いに韓国のオーガニック、メディカル化粧品を扱う店舗を構え、Kカルチャーに詳しい新宿韓国商人連合会専務理事と新大久保商店街振興組合理事を兼任する申大永さん(民団東京本部副団長)は「彼らはデビューを目指して活動しているが、挫折する場合がある」と指摘する。
韓国でデビューさせるためには、プロダクションは高額な費用を用意しなければならない。
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例えば、1グループを音楽番組に2週間出演させる場合、ミュージックビデオやCDの制作、ヘアメイク、衣装など全てを準備するのに「1500万円から2000万円は必要だ。そこに会社の運営費などを含めると2000万円以上になる」と高さんは話す。
番組の出演料は1回5万㌆、10万㌆が相場なのでヘアメイク代にもならない。イベントなどに呼ばれても、低予算の中から全てをカバーすることができず、結局は赤字になってしまう。
それがヨーロッパの公演であっても、飛行機代は出ても自分たちに入ってくる出演料はほとんどないからだ。
「そこでカムバックを重ねていくには、海外でお金を稼がせてもらいながらファンに応援してもらうか、もしくは財政的に安定しているプロダクションでない限りできない」と厳しい現状について説明する。
「K‐Stage O!」と「SHOWBOX」の舞台
K‐Stage O!が行うライブのアイドルたちは基本、韓国でデビューしている。日本に来るのはファンを獲得するためだ。「韓国でデビューしてもお金がかかるだけで稼げないから海外に出る」。「そこでちゃんと利益を生みながら、例えばカムバックという次のステップを考えるためには、日本は近いので来やすい」
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K‐Stage O!を運営、運用するOSA副社長兼営業本部長の安英吉さんは「希望としてアーティストを育てたいという気持ちはあるが、資金的な部分と情報がまだ足りていない。今は場所を提供するだけで精一杯」と話す。
高さんは2016年、当時、新大久保で人気を誇った7人組グループ「Naughty Boys」(現在NTBに改名)を育て、日本メジャーデビューさせた実績がある。18年には韓国デビューも果たした。
現在、高さんが専属契約しているのは1グループ。さらに日本での興行で面倒を見ている7グループは年間契約をしている。面倒を見るというのは、衣食住のほか、飛行機、練習室、ホールレンタルなどに至る全ての経費をプロダクションが持つという意味だ。
陰で支える人たちがいてこそ
「韓国のK‐POP事情というのは、衣食住全ての面倒を見る。だからファミリーになるわけです」
高さんは韓国にも数件の宿所を持ち、そこでメンバーたちが暮らす。事務所での食事やレッスンを受けさせるなど、全ての費用は先行投資をしている。
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「練習生生活を過ごすのなら2年間、ずっと出し続けなければいけない。そしてその子たちを新大久保に連れてきて全て面倒を見る。だから会社の代表者たちは命を懸けてやっている」。当然、利益を生むグループもいれば生まないグループもいる。「その赤字をどうするかと言ったら僕の会社で負担する。ファンがつくまでやるしかない」
危惧するのはマンネリと惰性だ。「アイドルが陥りやすいのは、長いこと同じことをし続けると歌もダンスも惰性に流される。そういうグループというのは、ファンは目が肥えているからすぐに姿を消す」
高さんのところでは、アイドルたちはPR活動を終えた後、練習室で5、6時間、次のライブのために練習を重ね、公演企画者は毎回、内容やトークの主題を変える作業に没頭する。
新大久保のK‐POPは、華やかな表舞台の裏で高さんたちの地道な努力によって支えられている。
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ARGON |
「Kカルチャーランド」築く…地域ぐるみの意識に
ミニ対談 「新大久保の未来を考える」
申大永さん 新宿韓国商人連合会専務理事
高徹さん プロダクション「ワンワールト」代表
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申大永氏 |
高徹氏 |
高 K‐POPでいうと「新大久保だけでやるアイドル」という、そこから発展性がないところを打破するしかない。僕は今年からやっていきますけど、打破するためには日本でデビューをし、年に2、3回CDをリリースして、そこからメジャーを出す必要がある。そうすることで新大久保におけるK‐POPのイメージは変わると思う。
申 前を見ていくというのは大事。今まで韓流というのは底辺の部分も含めての韓流だったが、今、高代表が話したようなメジャーに向けての準備も必要だと思う。これからもっと変わっていかないといけない。
安 今、韓日関係は最悪だ。にも関わらずファンが新大久保に来るというのはコンテンツ文化が定着している思う。
高 定着はある程度したかなと思うのと、定着しやすかった背景というのが若い世代が基本的にテレビ中心の世代ではなくなったということ。
若い世代の人たちはSNSやユーチューブで自分たちが見たいものを見る。だから僕らが想像もつかないくらいのチャンネルを持っている。今の政治の雰囲気や50代から70代が感じるこの日本を覆っている雰囲気というものと、別の世界に住んでいるんだと思う。
申 ある大学の先生のアンケート結果によると、この政治状況の中で20代、30代はどんな条件になっても韓国が好きだというのが多いそうだ。
韓日民間交流の重要な拠点になっている韓流が、これから両国の関係を変えるんじゃないかな。10年もすればこの方たちが中心世代になるから。
高 この新大久保をKカルチャーランドっていう位置づけをして、運営にみんなが携わっているという意識を持つと面白いと思う。
申 僕はそれをやっていきたいと思っている。新大久保は韓流の発信拠点だ。そういう流れがあるので商店街でも韓国の人を理事として入れて、コミュニケーションを取ろうという意識になったし、地域住民として協力し合う主体として認めてくれていると思う。今までは外国人だったけれども、今は仲間入りを果たして、共に何かをやっているという関係になっている。
毎日来て応援する人も…「感謝しかない」
日本人ファンの中には毎日来る人もいれば、週に1回、イベントのある時だけ、初回と最終日だけ来るなど千差万別だ。
毎日来る人は、本当に好きというほかに、アイドルグループが金銭的に厳しいということを理解しているファンたちだ。 「だから自分だけでも毎日来て応援をしてあげたいと感じている。ファンの中には、ライブのない日に必死に働いてお金を貯めている人もいる」と高さんは話す。
「お金を計算する時に10円玉とか50円玉で支払っている人たちがいる。それを見るたびに感謝という部分と、申し訳ないという気持ちで涙が出そうです」
CDを5枚、10枚単位で購入するのは、「これを買うことによって、アイドルの子たちが、次のステップにつながるよう支えてあげたい、もしくは美味しいものを食べてもらえるんじゃないか」という思いからだという。
申さんは「新大久保は世界の韓流の土台。日本の方たちがいて韓流はグローバルな市民権を得た」と指摘。高さんが語るファンの様子に耳を傾けながら「感謝に尽きる」と繰り返し語った。
(2020.01.01 民団新聞)