掲載日 : [2020-01-15] 照会数 : 20303
韓国伝統の仮面劇、タルチュムの魅力<上>
[ 毎年秋に開かれる「安東仮面劇祭り」(慶尚北道) ] [ 江陵仮面劇(江原道)=写真提供・韓国観光公社 ]
自由奔放な風刺…農村と都市の庶民文化
朝鮮時代に流行し、韓国各地に現在まで伝わるタルチュム(仮面劇)は、タル(仮面)を使った演劇で、韓国人に親しまれている伝統大衆芸能。韓国文化財庁の諮問機関、文化財委員会はユネスコの世界無形文化遺産への登録を目指している。タルチュムの発祥と特徴、そして、韓国国民がタルチュムを愛し続ける理由について紹介する。
タルチュムのタルは仮面、チュムは踊りという意味。その名称は、ソウルをなど韓半島中部地域で使われていることから標準語として定着した。
江原道では仮面劇、慶尚道以南では、トゥルノリ、トゥルノルム、五広大(オグァンデ)、現在の北朝鮮の黄海道ではタルチュム、タルロルム、咸鏡道ではノルムと呼ばれている。
タルは、高麗時代の作とされる「河回別神クッタルノリ(仮面遊び)」の一部を除き、左右が非対称に作られ、口や鼻、口や顔、どこを見てもアンバランスなのが一目でわかる。
古くは、タルは神事に使われて邪気祓いを行う神の役割をしていたが、後に人間の精神世界が表現されるようになると、演劇的要素が強まった。また、いずれのタルも滑稽な雰囲気を持っているのが特徴だ。
タルチュムは、野外のマダン(広場)で演じられ、寒い時や夜は薪等を燃やしながら行われる。公演前と後には韓国の伝統儀式「告祀」(コサ)を行い、災いが宿ったタルを燃やし、演技者たちが合掌礼拝する。
●歴 史●
タルチュムの発祥とその起源に関しては、多くの学者が多様な説を提示しているが、韓国国文学者の趙東一教授をはじめとする学界での論議をもとに、3つの流れで説明する。
1つ目の流れは、村で長い間受け継がれてきた行事の農村タルチュム。村社会の洞祭や農楽クッ(神に祭祀を捧げる儀式)等で、村の神を楽しませ、疫病を退け、村の安寧と平和を祈願するために行ってきたとされる。
代表的な農村タルチュムは、高麗時代から行われてきた安東河回別神クッタルノリ。支配階層に対する露骨で痛烈な風刺を込めているタルノリは、村の両班(貴族)の黙認と支援まで受けて行われてきた。百姓たちが持つ両班に対する反感を一定部分解消させ、究極的に村社会の安定を図るためだったと言える。
2つ目は、農村タルチュムから派生したトドリタルチュム(本山台ノリ=山台で行う遊戯)だ。朝鮮後期、経済の発展のために都市が形成されたことから、農村に住むことができなくなり、演劇グループ「トドリノリ牌」となった貧しい流浪民たちと、宮中山台戯(朝鮮時代に国家慶事として行った演戯)やナレヒ(儺禮戯=悪霊を払う宗教儀式)のような国中大会で公演したノリ牌(演戯グループ)たちが、タルチュムを面白く作り、ソウル近郊の様々な都市を彷徨いながら商業的に行ってきた。
3つ目は、都市タルチュム(別山台ノリ=本山台ではない遊戯)で、前述の通り、朝鮮後期の経済の発展によって都市が形成され、トドリノリ牌たちは都市を転々とし、タルチュムを行った。
都市の商人たちは、彼らを招請し、見物人を多く集めようとしたが、トドリノリ牌たちが、頻繁に約束を破るようになると、商人たちは自体的にノリ牌を作り、彼らを経済的に後援するようになる。
都市では両班に隷属を強いられることはなく、自由な雰囲気で発達したため、両班に対する風刺は気兼ねすることがなかったことから、セリフの分量と内容は豊かだった。代表的な都市タルチュムとしては、鳳山タルチュム、別山台ノリ、東莱野遊、統営五広大等がある。
●特 徴●
タルチュムの登場人物は、殆どが平凡であるものの活発で気力が盛んな主動人物と、非常識な人物として登場する両班の反動人物との対立劇になる。
このような主動人物たちが、自由奔放な言葉と行動で、反動人物を攻撃し、その過程で反動人物が自らの無知をさらすことで笑いを誘発しながら、風刺を行う。タルチュムのセリフには、言葉と歌が混ざっているが、慣用的な漢文が比較的少ないことから、庶民の文化としてとらえることができる。
両班は風刺される過程で、卑俗語や漫才、言葉遊び、下ネタ等を気兼ねなく使う。朝鮮時代に下ネタを使うことはもってのほかであるが、タルチュムの公演は、一般的に昼間の地神踏み(厄払いの儀式)に近い行事から夜間の舞踊に続き、深夜にわたるため、関心のない両班たちは間違っても来ることはなかった。
一般的にタルチュムは、専門的な公演者がいて、動作やセリフだけを覚えて、衣装を準備する等の行為は、田植えをしながら労働歌を歌うのとは格が違った。安東河回別神クッノリや鳳山タルチュムだけ見ても、成文化されていないが台本が存在しており、その台本は、漢字表現が少ない。また、自分勝手な踊りではなく、かなり決まった形態で踊りを踊る。
一部のタルチュムでは、マルトゥギ(使用人)が両班の女性たちと性関係を結んだり、両班の財産をマルトゥギが受け継ぐといったものもある。さらに、両班たちの言葉を数回無視するのは当然のこととしたり、両班たちを鞭で威嚇する等、過激なものもある。
また、タルチュムは、観客が登場人物間の多様な対話と「合いの手」を入れることで演者と観客が一体となって楽しむことができる。
伴奏楽器は三弦六角と呼ばれ、ピリ、テグム、ヘグム、チャング、プクで構成されるが、この他にケンガリを追加する場合もあり、緩重な念仏、リズムが明白な打鈴、流れるクッコリ等を基本的に使用する。例外として、嶺南地方の五広大(オグァンデ)と野遊では、打楽器が主となる農楽が伴奏を行う。
(2020.01.15 民団新聞)