8月上旬に済州島へ行き、長姉、次姉、兄と一緒に両親の墓参りをした。子供4人がそろって来たので、両親もさぞかしビックリしたことだろう。
父が57歳で亡くなったとき、私は21歳だった。今は58歳になり、父の享年を超えた。父はどんな思いで息子を迎えたのだろうか。
墓参りのあと、長姉夫妻の招待で済州島の西帰浦市にあるヨンシ食堂に出掛けた。主人の朴順全さんの説明を受けながらアグサルを食べた。サクサクとした食感を持つ絶品の豚肉料理で、初めて食べたが、完全にやみつきになった。
推敲を重ねても、そのおいしさを文章で伝えられないのが残念。「西帰浦へ行った人はぜひお試しを!」としか言いようがない。
続いて済州島からソウルに移動したが、記録的な暑さで汗がとまらなかった。
その猛暑の中、私はソウル市内の五大古宮をまわった。この"五大"とは、朝鮮王朝時代に王宮の役割を担った景福宮、昌徳宮、昌慶宮、徳寿宮、慶煕宮をさす。
景福宮は日陰が少なく、猛暑の中での見学がつらかったが、昌徳宮は緑が多く、林の中を抜けてくる風が心地よかった。
特に、庭園である後苑は「ソウルにもこれほどゆっくり時間が流れる場所があるのか」と感心するほど静かで、しばし佇んでいると、朝鮮王朝時代に戻ったような気分になった。真夏の古宮めぐりなら、ぜひ昌徳宮がお勧めだ。
ソウルでは、次姉、兄と一緒に宗廟にも行った。
宗廟は、朝鮮王朝の歴代王と王妃の位牌を祀る施設で、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。
正殿は増築を繰り返して全長が101メートルもある。単一の木造建築物としては世界最長クラスだと言われている。
次姉が「先祖の前でチョルをしたい」と言ったので、正殿の第一室の前に立った。中に入ることはできないが、その部屋には初代王の太祖、最初の正妻の神懿王后・韓氏、2番目の正妻の神徳王后・康氏の位牌が安置されている。
神徳王后・康氏についてはこの連載の3回目に触れたが、朝鮮王朝が創設されてから4年後の1396年に亡くなった。私が保存している信川康氏の族譜によると、神徳王后・康氏は8代目となっている。ちなみに、私は27代目である。
チョルをしているとき、地面にひざをつけると、敷きつめられていた石が異様に熱くて飛び上がりたくなった。しかし、隣を見ると、次姉が厳粛にチョルをしている。私も見ならって必死にひざまずいたが、真夏のチョルも楽ではない。
その日の宗廟には、ガイドに連れられた日本人観光客が多かった。会話が聞こえてきたが、どなたも朝鮮王朝の王や王妃について非常に詳しかった。これも、韓国時代劇の影響に違いない。
心から、「ありがたい」と思った。外国の歴史にこれほど興味を持ってくださるのだから……。これからも、面白い韓国時代劇が次々に制作されることを切に願った。
康煕奉(作家)
(2012.8.29 民団新聞)