掲載日 : [2005-01-19] 照会数 : 6512
<コラム・布帳馬車>次代に残れ!香る町
「家で作るんやからまだましや」。
正月の帰省にあわせ法事をむかえる実家だが、今年も例年通りところ狭しと煮物、焼き物、お供えする料理の支度でてんてこ舞いだった。
同胞密集地に生まれ育つ私の記憶では、年二回、旧正月と秋夕には八百屋のおじさんが料理で使う野菜を段ボールに詰め、勝手に家まで配達してくれていた。
魚屋では店先で在日のおばさんだけをうまく呼び止めて、鱈を売りさばくおばさんがいたのを覚えている。どの店も店主は日本の人だ。同胞密集地だからこその、店主が経験から身につけた知識というより商売の知恵だと思う。
商店街では「姉さんとこもこれからなの!うちもこれからなのよ!やんなっちゃうわ!」と忙しいことを楽しんでいるようにもとれる会話を交わし、家路を急ぐオモニたちの姿があった。
そして商店街から人影が減ると、家々からごま油の香りが漂い始める。
在日は戦後60年にわたり年数回のこの大事業を一家の女性総動員で無事に成し遂げてきた。
しかし、それもまた時代の流れとともに変わろうとしている。肉、魚、チヂミ、ナムル、餅など一式セットで注文すれば宅配便で指定日に届く時代の到来である。
解放60周年を迎え、全国に散在するこのごま油の香る町々を私たちはどうやって残し、次代へ伝えればよいのか考えさせられる正月だった。(F)
(2005.1.19 民団新聞)