掲載日 : [2005-01-19] 照会数 : 4534
在日テーマのミュージカル「豆もやしの歌」 大阪で公演(05.1.19)
[ 舞台げいこは急ピッチ ] [ 高貞子さんに脚本内容聞く ]
ハルモニらの涙と笑い
明日を思ってたくましく
在日を題材にした初のミュージカル「豆もやし(コンナムル)の歌」が2月、大阪で上演される。大阪のコリアタウンを舞台に、厳しい環境でも人間の尊厳を失わずに逞しく生きた1世のハルモニの姿を描いた。脚本を手がけた在日コリアン2世の童話作家・高貞子さん(57・大阪市生野区)は、「在日1世の方々が見て、笑ったり泣いたり、喜んでくれたら本望」と語る。演出は映画「潤(ユン)の街」で知られる映画監督・脚本家の金秀吉さん。
「豆もやし(コンナムル)の歌」は、日本最大のコリアンタウンで、キムチ店を営む1世のハルモ二が子どもたちを育て上げ、故郷を夢みて亡くなるまでを、家族や隣人たちの織りなす人間模様を交えながら歌や音楽で表現する。
高さんはこの3年間、オモニをはじめとする身近な1世たちを相次いで失った。
「植民地で国を奪われて日本で住まいや仕事を得て、結婚して子供を育てるということは人間の一生の中で、非常に厳しい人生だったと思う」
辛酸を味わった1世が次々に生涯を閉じていくなか、彼らの人生を多くの人たちに伝えたいと一昨年12月、脚本を書き上げた。
タイトルにつけたコンナムルは、チェサ(法事)に欠かせない食材だ。暗所で発芽、成長するために夜中に何度も水を与えながら、丹精込めて育てなければならない。
「ハルモ二たちは、闇夜の中で明日には青空を見られる、希望があると思いながらコンナムルを育てたのでしょう。私には子供を育てていくという意味と生命力、そして次の世代につなげていくというイメージが重なった」と、1世の思いを象徴的に表した。
先に渡日したハルモ二を追うように、後から日本に渡ったオモニは、生活の糧を得るために朝から晩まで働いた。生野区で焼き肉店も営む高さんは、オモニが晩年、盲腸の手術後、膿が出ながらもチューブを装着したまま店に来て、看板を出した姿を今でも忘れることができない。
「愛する人の身近な死というのは、看病してみたら指の間から水がしたたり落ちるように止めようがない。どんなに頑張ってもその命を救うことができなかった」。語りかけたくても触れたくても、オモニはもういない。
人間らしく生きよう
大詰め「100人のパンソリ」
アイゴ オモニ
アイゴ オモニ
アヂッ モッ カシオ(まだ行けませんよ)
カシミョン アニ ドェオ(行ったらだめですよ)
ハル マリ イッタオ(言うことがあるのです)
モッ タ ハン マル イッタオ(言えてないことがあるのです)
(「100人のパンソリ」の一部。脚本から)
舞台のクライマックス場面で歌われる「100人のパンソリ」は生前、オモニの前で「すみません、そしてありがとう、愛していたよ」という言葉を素直に言えなかった2世として悔やむ思いを込めた在日のパンソリだ。出演は在日、日本人などこの作品の趣旨に賛同した人たちで、当日、舞台で100人の声をとどろかせる。
高さんの脚本に感動した人は多い。映画監督・脚本家で今回、演出を手がけた在日3世の金秀吉さんは「1世に対する世代を超えた普遍的な思いが伝わってきた作品」と、ミュージカル化を決定した。また、韓国の伝統音楽グループ「スルギドゥン」のリーダー、李準鎬さんも作曲を担当、同グループによる演奏を快諾した。
高さんは身近で1世の生き様を見続けてきた人だ。焼き肉店には最後の晩餐のつもりで、故郷・済州道の郷土料理を食べに来店する1世もいる。病院では食べ物を受けつけないが、ここでは「あー、美味しい」とゆっくり噛み締める。
1世が来店すると必ず「どういう人生でしたか」と問いかける。「自分の人生は情けない」「何でこうなったのか分からない」という辛い返事ばかりが返ってくる。
高さんは多くの1世がこの作品を見て「自分も苦労をしたな、自分もあんな人生だったな、でも最後に、一生懸命生きた、悪くない人生だった」と思ってもらい、おもいきり笑って泣いて、気持ちが良かったと会場を出てくれることを望んでいる。
それは、どんな環境であろうと、愛する人と遠く離れていようと、自分が生きる場所で人間らしく生きるという一番大事なことを、身をもって教えてくれた1世たちへの感謝の気持ちにほかならない。
公演には1世をはじめ、民族学校の生徒も招待する。何か子どもの心に残してあげたいという思いからだ。
「なぜ日本に在日がいるのかという自分のルーツが分かって、普通の人間として大地に両足をつけて立てばいいんです。それが一番大事なこと。分かるということは在日2世だろうが、4世、5世だろうと関係はありません。その意味をこの公演を通して、感じてくれたらいいなと思う」
1世が風雨にさらされながら、大切に守り残してくれた「在日」という大木。そして2世の高さんがその大木から実った種をまこうとしている。
公演は2月11日〜13日、大阪市中央区のエル・おおさか大ホール(大阪府立労働センター)、前売り5000円、当日5500円。問い合わせは、事務局(℡050・3087・4961)。
(2005.1.19 民団新聞)