掲載日 : [2005-01-19] 照会数 : 7645
同胞新成人への手紙 壽隆(青年会中央会長)(05.1.19)
ルーツ同じくする仲間
手を携えて未来創ろう
在日本大韓民国青年会は、18歳から30歳までの在日同胞で構成され、現在15の地方本部があります。私は青年運動に携わる一人として、また在日同胞の一員として、これからの時代をともに生きる仲間として、成人を迎えた皆さんに、私自身の体験を振り返りながら、激励のメッセージを贈りたいと思います。
「本名」の自分に
私が高校を卒業した当時は、大学の競争率も非常に高く、私は浪人をして入試に備えました。就職への不安もあり、社会に出る前の猶予期間を得たいという思いはとても強いものでした。
大学に入った私はそれまでの「通名」を捨て、「本名」を使い始めました。在日に生まれた自分をどう受けとめればいいのか悩み、勉強はろくにせず、歴史書や文学書を読み漁り、ロックミュージシャンのメッセージに思いをめぐらせ、「いつかは本名を名乗ろう」と考えるようになっていました。「自分を語る言葉」を持つ人々を知ることで、「自らを語る言葉を持つこと」の大切さを強く感じたのです。
大学という新しい環境は、絶好の転機となりました。本名を名乗ることは、出自をしっかり語りながら、人間関係を一からつくり、自分を人としてどれだけ表現できるのか、そんな挑戦でもあったのです。両親には相談しなかったので、父からは「最近、お前に韓国の名前で手紙が来るんだな?」と不思議そうに言われたことを思い出します。父はどこか嬉しそうでもあり、不安そうでもありました。青年時代に、思うように生きられなかった世代特有の複雑な心情を感じました。
私が20歳を迎えたのは1992年でした。「チョウスユン」として、今でも私を応援してくれる多くの友人に恵まれていました。「バブル崩壊」で景気が低迷し、新卒者の就職率も低下していくような時代でしたが、私は進路に不安を感じながらも、「本名」を名乗り、在日の特性を活かしながら、自らの手で切り開こうという意気込みを持つようになっていました。
同胞との出会い
民団主催の成人式に参加して以来、私は在日の歴史に興味を持ち、抱いていた疑問の答を探すようになりました。在日の人々との出会いは、多くのことを考えさせ、とても刺激的なものでした。「本名では生きにくい現実」や「多様な生き方ができないこと」の意味を知りたいと真剣に思うようになりました。
民族団体への参加は、同胞が多くの隘路を克服しながら、祖国と日本の狭間でどう暮らしてきたのかを知り、また「どのような自分になりたいのか」、目標を見つける機会ともなりました。
差別が「法律」や「制度」という形で固定化され、国籍による様々な制限や人権蹂躙によって、在日同胞の生活はとても厳しいものでした。また差別で歪められた歴史観や民族観は、私たちが生きるうえでの選択肢を狭めてきました。しかし、「人権を守ること」の大切さを訴え、日本社会を変革しようとした先輩たちの努力は続きました。
新成人の皆さんが生まれた頃、「指紋押捺」の撤廃を求める運動が大きなうねりとなっていました。「人権を守ること」の大切さを訴えたその声は、世論や法をも動かし、人として生きる尊厳を大切にする社会づくりに大きく貢献しました。また現在は、地域社会でともに生きる住民として、「定住外国人への地方参政権附与」を求める動きが高まっています。
多様な民族文化を受け入れる共生社会づくりに努力してきた同胞は、「日本の国際化」を先導してきたといっても過言ではありません。私たち青年会も、未来を見据える立場から世論喚起の一躍を担っています。
人々との出会いは、自分自身を成長させてくれます。何よりも、同年代の同胞が自分と同じ経験をしていることを知り、大きな共感と言葉にできない嬉しさを覚えたものでした。日常の食卓に並ぶ料理のこと、「ハルベ」「ハンメ」と祖父母を呼んでいたこと、夜中に起こされて眠い眼を擦りながらお辞儀を繰り返したチェサ(祭祀)、国籍のことで悩んだことなど、日本の友人とは語り合えなかった世界がそこにあり、そのような豊かな出会いは、ルーツへの興味をさらに膨らませるものでした。
それぞれが置かれた状況は多様であり、ルーツを大事にすることに難しさを感じている青年が多いのも現実です。しかし、ルーツの大切さを知ることで、大きな自信へと繋がった青年が多いのも事実です。
大きな心の財産
1985年の国籍法改定により、それまでの「父系主義」から「父母両系主義」に変わったことで、国際結婚をされた方々の間に生まれた子どもたちの多くが韓国籍を持たない状況があります。しかし、国籍は違っても同じルーツを持つことに変わりはありません。私たちが存在するに至った歴史を学び、それぞれの家庭にあるエスニックカルチャー(民族文化)の面白みを知り、それを深めていくことの大切さを考えたいものです。
韓日両国の複雑な歴史から目を背けず、そこから発生する諸問題を克服しつつ、民族文化への興味を深め、人としての成長をサポートする、そのような活動を目指しながら、本会は日々努力しています。本会で出会った人々はきっと、皆さんの人生にとって大きな財産になるはずです。
青年会は、在日同胞青年の皆さんとつくり上げていく団体です。成人を機に、是非とも足を運んで下さい。これからの在日同胞社会を一緒に築いていきましょう。
(2005.1.19 民団新聞)