掲載日 : [2022-02-16] 照会数 : 3973
金ボナさん、絵本セラピーは「心の処方箋」
[ 先日29日に韓国文化院で行われた絵本セラピーのワークショップ風景 ]
[ 使用した絵本 ]
[ 金ボナさん ]
先月29日、韓国文化院(東京・新宿区)で開催されたオフラインお正月体験イベント「韓国絵本de絵本セラピー」で読み聞かせを行った金ボナさん(43)は、2005年に来日、15年に絵本セラピスト協会認定試験に合格し、絵本セラピストとして同院をはじめ、民団や地域の図書館などで活動してきた。絵本セラピストは「絵本を通して自分を見つめ直す場を作る人」と話す。
「自分を見つめ直す場を提供」
来日後、資格取り活動
同イベントの冒頭、「ありのままの自分を見つめる大人のための触れ合いのワークショップです」と参加者6人に呼びかけた。
この日、持参したのはソルラル(旧正月)関連などの韓国絵本4冊。絵本を紹介しながら「昔は自分のこういうところが好きだったというのを書いてください」「大人になって忘れてしまったものはありますか」といった質問を投げかけた。6人は自己紹介を兼ねて、昔自分が好きだったところを発表した。
ソウル出身。子どもの頃から、韓国戦争前に夫と日本に留学した祖母から聞いていた日本に憧れたという。その憧れが強くなったのは、日本の大衆文化が開放された90年代にアニメーションやドラマ、村上春樹などの小説に触れてからだ。一度、日本で暮らしてみたかった金さんは結婚後、夫と来日した。
長女が誕生してから韓国で3年間、幼稚園で働いた経験を生かして駐在員の子どもたちに絵本の読み聞かせを2年間続けた。その後、東日本大震災が起こり、駐在員ら一家は帰国する。金さん夫婦も迷ったが「日本で何かを勉強できずに帰ったら私たちが来た意味がない」と帰国は見送った。
絵本の仕事は好きだった。次に何をやるか考えるが「その時は何もできないんじゃないかと思っていた」。不安な日々の中で思い浮かぶのは絵本のことばかり。
当時、インターネットで見つけた絵本セラピストの講座に2011年から1年間、毎月参加した。そこで大人が絵本の話で盛り上がることを知り、セラピストの質問を受けて、初めて自分に関して考えたと話す。「新しい自分を発見する体験が重なった。周りにいる韓国人や外国人に向けて絵本で何かをやりたいなと思った」
韓国絵本を翻訳し紹介
15年、絵本セラピスト協会の認定試験に合格し、本格的に活動を始めた。絵本セラピストがまだいない韓国で講座を開いたこともある。これまで同協会の岡田達信代表と共著の『絵本は心の処方箋』をはじめ、韓国絵本6冊の翻訳を手がけた。
昨年11月、作家、きくちちきさんの絵本を翻訳した縁で、きくちさんと韓国の読者45人をオンラインでつなぐブックトークを実施した。通訳を担った金さんは「こういうことができるんだと思った。今度は韓国の作家を日本の読者につなげたい」と夢を語る。
手元にある絵本の中で「私の一冊」に選んだのが、「LiFe(ライフ)」(くすのきしげのり・作、松本春野・絵)だ。誰もいない店に人がやってきて、不要になった思い出の品物を交換して持ち帰るという物語。
「一方的に絵本を紹介するのではなく、皆さんがそれぞれ感じたことを分かち合って、自分が好きなものを持ち帰ってほしい」。自身が絵本セラピーを行う場所が、本書に登場する店のようになったらいいと思えた1冊だ。
セラピストになる前は積極的ではなかったが、現在の仕事に就いて「なんでもできるという気持ちになった」。新しい絵本を発見したら何度も読んで、好きになったら紹介するという。「絵本は全部買うので、午前中は一生懸命、保育園でアルバイトをしています」と笑顔を見せた。
(2022.02.16 民団新聞)