掲載日 : [2018-02-28] 照会数 : 10169
訪ねてみたい韓国の駅<24>KTX京江線 平昌
[ 丘の上にある平昌駅。珍富駅と同様通過列車もあるので時刻を確認して訪れよう
] [ 平昌駅を発車するKTX京江線清凉里行き列車。清凉里〜平昌間の所要時間はわずか1時間10分ほど
]
味覚の旅へバスが接続
珍富駅から、またKTXに乗ってソウル方面へ一駅。わずか9分で、16キロあまり離れた平昌駅に到着する。江原道平昌郡龍坪面にあり、その名称から平昌オリンピック・パラリンピックのメ‐ン会場最寄り駅と勘違いされることも多い。実際には、この駅が最寄りとなるフェニックススキーパークは、モーグルなどフリースタイルスキーの会場だ。
氷点下15度のなか、ホームの先端に立って、ソウル方面へ走り去るKTXの姿を撮影する。20年ほど前は、駅のホームなどで写真を撮っていると、駅員や警官に咎められたものだ。今では、韓国の人々もKTXの前で自由に記念写真を撮っており、時代が変わったことを実感する。
「もしもし、そこで何をしているんですか」
背後から声をかけられた。振り返ると、男性が立っている。防寒着を着込んでいるのでよくわからないが、駅員だろうか。
「列車の写真を撮っていたんですか。いえいえ、構いません。外に出られますよね。この駅は通過列車が多いのですが、通過線がないので、ずっとホームにいらっしゃると危険なんです。出口までご案内しましょう」
珍しく、怒られたのかと思ったらそうではなかった。KTXは、時速250キロで平昌駅を通過する。安全確保のために、ホームに残った数少ない乗客一人ひとりに声をかけていたのだ。
「今日は本当に寒いですね。ほう、日本から、駅を見に来たんですか。それはありがとうございます」
駅員は、そう言ってお辞儀をすると、顧客支援室(駅事務室)に入っていった。
エスカレーターを降りて、駅前に出てみる。平昌駅は太白山脈西側の丘にあり、駅前通りからは小さな集落を見晴らせる。
駅からは、フェニックスパークへ無料シャトルバスが発着しているほか、北の長坪(チャンピョン)と南の大和(テファ)へ、路線バスが1時間ごとに運行されている。所要時間は、それぞれ5分と10分だ。
時間があれば、平昌駅から路線バスの旅も楽しい。暖かい時期なら、高速インターに近い長坪に出よう。路線バスを乗り継ぎ、フェニックスパークへの途中にある蓬坪(ポンピョン)へ。このあたりは韓国有数の蕎麦の産地で、李孝石の小説『そばの花咲く頃』の舞台にもなった。地元の蕎麦粉を使ったマッククス(韓国式蕎麦)を食べさせてくれる店も多い。
駅の南方にある大和には、やはり江原道名物であるブランド牛、大関嶺韓牛を食べさせてくれる焼肉店がある。精肉店でソウルよりも安くて新鮮な牛肉を買い、併設の食堂に持ち込んでテーブル料金を支払うと、食べさせてくれるシステムだ。
KTXの開業によって、こうした小さな町を気軽に訪れることができるようになったのは嬉しい。東海岸の絶景を楽しみ、本場のマッククスや韓牛を味わう旅もソウルから日帰りで可能だ。
平昌駅周辺を散歩し、2時間後の列車でソウルに戻ろうとすると、先ほどの駅員がお辞儀をしてくれた。
「ソウル行きに乗られますか。またぜひ、暖かい時期にも遊びに来てください」
親切な駅員だ。きっと、オリンピック期間中も、多くの観光客を案内してくれたに違いない。
栗原景(フォトライター)
(2018.2.28 民団新聞)